AMG G55 (2007/7/7) 


まるでタイムマシンから出てきたような無骨なスタイルは現代では逆に目立てまくる。
軍用車ベースのクロスカントリーカーを都会で乗り回すミスマッチが金持ちの心を引くのか。
それにしても、興味のない人にとっては、1650万円也の価格を想像できるだろうか。

機動力のある小型4輪駆動車といえば、第2次大戦中に活躍した米軍のジープが脳裏に浮かぶし、団塊世代の読者ならば、恐らく幼少期に米軍、いや進駐軍の兵士が乗るジープを見たことがあるだろう 。ジープは、その後も自衛隊が同じようなタイプを使っていて、結構街中で見るチャンスはあったはずだ。

米国のジープの成功に触発されたことから、戦後は各国で軍用車として小型4輪駆動車が開発され、これとともに民間でも不正地用車両として大戦後の荒廃した国土の復興にも適したことから、実用車として結構な市場を持っていた。英国ではランドローバー(写真1)が有名 だ。このクルマはどちらかといえばアフリカ探検のイメージがあり、アフリカ ⇒ 大英帝国 ⇒ 旧植民地という古き時代の雰囲気がムンムンとしている。ランドローバーはシリーズT(1948〜)、U(1958〜)、V(1971〜)と順次進化して、現在ではディフェンダーと名称を変えて販売されている。現代の標準から見れば、驚くほど旧式なクルマだが、それがまたマニアには堪らない。最近は日本にも正規輸入されているようだ。

このランドローバーをベースに近代化を図り、内装は豪華に、駆動系もフルタイム4WDを装備して登場したのが、レンジローバー(1970〜、写真2)だった。従来の4WD車は不正地用の作業車もしくは軍用車だったから、乗り心地は悪く、内装はトラックそのもので、切り替え式(パートタイム)の4WDは操作も面倒だったが、レンジローバーは見事に4WD車の常識を覆し、オフロードのロールスロイスとも呼ばれたくらいだ った。事実、レンジローバーの用途としては貴族が自分の領地を見回ったり、狩猟に使ったりるのに重宝していたということだ。このレンジローバーこそが、スポーツ・レジャー用途の4WD車、すなわちSUVの本家本元でもある。現在はフォードの高級車部門の一部となっているが、フォード自体の業績不振から、近日中に身売りをするようだ し、その前はBMWの傘下だったが、大赤字のすえ捨て値で叩き売ったのも覚えているだろう。 ちなみにBMWのランドローバーを買収-売却という一連の政策失敗で大きな損失を出したが、結局はアッというまに取り戻してしまった。これは先代3シリーズ(E46)の大成功によって得た膨大な利益が寄与していることは間違いない。

日本に於ける戦後の4WD車の歴史は、1950年に警察予備隊(現自衛隊)の装備として、トヨタがトヨタジープ(後のランドクルーザー)、日産がパトロール(後に国内名サファリ) を開発したことに始まる。結局、正式採用となったのは 米軍の貸与であるジープとなり、後に三菱がライセンス生産を行ったのだが、トヨタと日産の4WD車は警察のパトロール用、消防車、その他各種官庁や建設会社、電力会社などに納入された。これら日本製4WD車の中でもマニアに人気のあるのが、トヨタランドクルーザーであり、その中でも40系(写真3、1961〜)と呼ばれる モデルは今でも多くのマニアにより所有されている。大部分が官公庁の払い下げ品だが、一部のマニアは当時クラウンよりも高価な40を新車で購入していた。

そして、今回の主役であるメルセデスのGワーゲンは、NATO軍の正式車両を民間用に手直しして1975年に発売された。この時点では日本でのランクルやパトロールと同様に官公庁が主なユーザーだったが、1989年に大幅な改良を施し、より乗用車志向のモデルもラインナップされた。それまではパートタイム式4WDであった駆動方式は、市街地でより使いやすいセンターデフによるフルタイム式となり、エンジンも大排気量、大パワー化されたモデルがラインナップされた。
このGワーゲン、実は開発の主体はオーストリアのシュタイア社で、生産も同社で行われている。この会社の正式名はシュタイア・ダイムラー・プフ社で、その名のとおりにダイムラーグループのオーストリア法人でもある。シュタイア社を英語読みすれば、”ステアー”社となり、兵器や銃器に詳しい人ならピンと閃くであろう、オーストリア軍の正式小銃であるステアーライフルの製造元でもある。この小銃は極めてユニークな未来的な形状をしており、銃器マニアの間では特に有名でもある。このシュタイア製の4WD車として、Gワーゲン以外では、キャブオーバータイプの4WD軍用車であるピンツガウアーがある。このクルマはハブリダクションという駆動方式により、車輪の駆動軸が極めて高い位置にあることで、恐ろしいほどの走破性を実現しているという、生粋のオフローダーだ(写真4)。このピンツガウアーは欧州で軍用車として使われた後に民間に払い下げられた車両が、結構存在していて、日本に輸入されたものもある。中古市場に出れば、意外と安い価格で入手できるようだが、維持費を考えると、普通のユーザーには向かないのは言うまでも無い。聞くところによれば、港で通関して、晴れて日本の道路を自走したら、なんと高速道路で通行券が出てこなかったとか。実は、ピンツガウアーの塗装は赤外線を吸収する特殊塗料が使われている。理由は夜間の戦闘で敵の赤外線暗視装置に発見されないためだそうで、このために日本の道路で使う場合には、オービスの赤外線も吸収するし、レーダー探知機に掛からないのでマニア泣かせの光電管式の速度取締り(要するにネズミ捕り)にも反応しないとか。それは便利と思いきや、このクルマの外観からも想像できるように、舗装路では速度違反どころか、流れに乗って走るのもやっとだろうから、そのご利益はないことになる。

前置きはこのくらいにして、以下本題のGワーゲンに話を移そう。


写真1
ランドローバーシリーズT(1948〜)。 寄り目のライトはブッシュなどで傷めないためだ。旧英国領で多くが使われたため、アフリカ探検のイメージがムンムンしている。

 


写真2
レンジローバー(1970〜)。作業車両であった4WDを、レジャー用として高級4WD市場の先駆けとなった名車。

 


写真3
トヨタランドクルーザー40系(1961〜)。国産4WDの定番として警察や諸官庁でも多くが使用されていた。今でもマニアの間で人気が高い。

 


写真4
Gワーゲンと同じシュタイア製の軍用車であるピンツガウアー。これぞ究極のオフローダー。ハブリダクション方式の駆動により、車軸が高い位置にある。写真で車軸が全く見えない ことに注意。

 

外観はそれこそ四角四面という言葉がぴったりで、最近のクルマのように凝った曲面やプレスラインは全く存在しない。 全てのウインドウもまっ平らで、曲面ガラスなんて別世界の話に思える。1961年発売のランクル40でさえ、多少は丸みを持っているというのに。この四角い外観にプラスして、極端に短いフロントオーバーハングは、平地から急勾配へ上がる際の耐障害角(この場合はアプローチアングル)を最大限に採っているからに他ならない (写真5)。リアに回ってみれば最近では滅多に見なくなった背面スペアタイヤが見える(写真6)。リアの耐障害角であるデパーチャーアングルも非常に大きく、何より普通は一番の障害になりやすいマフラーが見当たらない。何っ、マフラーが無い?そう、このクルマの排気管はなんと後車輪の少し前から、左右各1本づつがサイドに出ているのだ(写真 7)。 サイド出しのマフラーなどというと、マクラーレンSLRのような超高性能スポーツカー的なものを連想するが、実際のG55のサイドマフラーをみると、むしろ日野レンジャー(中型4トントラック)という感じだ。

リアの扉を開けると、そのラッゲージルームの広さはといえば、奥行きは結構あるが、幅方向が意外と狭い。極悪路の走破を考慮して驚異的に長いストロークのサスペンションのおかげで、タイヤハウスは巨大化してしまい、そのしわ寄せがベンチにもなりそうな荷物室の出っ張りになってしまった(写真8)。そういえば以前のモデルは、ここに対面式の折りたたみシートがあったのだが、最近は廃止されたようだ。なるほど、最近のGワーゲンユーザーの傾向を見れば、兵員輸送車や護送車のような対面シートは評判が悪いのだろう。


写真5
急な勾配へのアプローチを考慮して極端に短いオーバーハングや長いホイールストロークに対応するために大きなタイヤとフェンダー隙間など、都会のオフローダーとは一線を画するサイドビュー。

 


写真6
最近は少数派となったが、10年ほど前までは定番だったリアのスペアタイヤも健在。

 


写真7
V8 5.5ℓの排気はフロントタイヤ前方のサイドから排出される。オフロードでヒットし易いリアのマフラーが無いための走破性の高さも魅力だが、実際にG55でクロスカントリー走行をするユーザーはいないだろう。

 


写真8
奥行きは十分あるが、意外と幅が狭いラッジースペース。以前はこのスペースに横向きの対向シートが装備されていたが、現在では無くなってしまった。

 

ボンネットを開けると、そこには、この無骨なオフローダーとは何とも不釣合いなAMG製の5.5ℓスポーツエンジンが居座っている(写真9)。 スーパーチャージャーにより500ps/6100rpm、71.4kg・mという途方もない性能を発揮するエンジンは、 シルバーに輝くカムカバーの表面は実に綺麗な砂肌で、そこにAMGマークがピカピカに光り輝いて、見ているだけでもウットリする程の美しさだ。しかもVバンクの中央には金色に輝くプレートが貼られていて、 よく見れば、このエンジンを組み立てたマイスターのサインが入っている(写真10)。こんな綺麗なエンジンで、泥んこのオフロードに乗り出すユーザーがいたら 御目にかかりたいものだ。

G55はエンジンルーム以外に、外観上でも至る所にAMGの証がついている。バックドア、リアガラス(写真11)、フェンダー(写真12)などで、更に室内では真正面のスピードメータにAMGマーク(写真17)、ATセレクトレバーのノブ(写真18)にはG55の文字といったところだ。勿論、ステアリングホイール中心や、フロントのラジエターグリルにはスリーポインテッドスターが付いているのは言うまでもない。この雰囲気は、何やら30年程前に初めて乗ったメルセデスである、W123に似ている。


写真9
V8 5438cc、スーパーチャージャーにより500ps/6100rpm、71.4kg・mという途方もない
性能を発揮するAMGエンジンを、旧式なオフローダーのボンネットに詰め込んでいる。

写真10
エンジンはゴールドに輝くパネルが張ってあり、組み立て責任者のサインもある。

 


写真11
リアガラスに張られたステッカーが只のメルセデスではない(AMG)ことを主張している。

 


写真12
サイドのエンブレムでも、このクルマの素性が判る。とにかく車体のいたるところにAMGの表示がある。
 


写真13
グリップを握ってメカニカルなボタンを押すことで開錠するドアノブ。そういえば昔はこれが普通だった。

 

この時代錯誤なクルマに乗り込むためにドアのグリップを握って、引っ張ってみるが、ビクともしない。ごついグリップを引いても握ってもドアは開かない。よく見ればグリップ の端に大きなボタンが付いている(写真13)。このボタンを押すとドアは開く。そういえば40年程前のクルマは国産車を含めて皆この形式だった。乗り込んでドアを閉めると、またまた独特な音がする。 大型高級車独特のズシンとくる重量感ではなく、パキンッという金具がぶつかってロックされるような、実にメカメカしい音がする。このクルマは本来が高級車ではなく実用車、いや軍用車であったことを思い出す。

シートは当然ながらレザーのパワーシートで、その操作スイッチがドアの側面についているのも懐かしい。今の車は当たり前のようにシート側面に調整スイッチが付いているが、これによりスイッチからコントローラー間でのワイヤーハーネス(電線)の長さは劇的に短くなった筈だ。ドアに付いたスイッチでシート位置を調整して、こんどはステアリングの位置も調整する。これも当然ながら上下、前後ともに調整が可能だ。

G55のセンタークラスタ上部には、正統派オフロード車の証でもあるデフロックスイッチ※1が3つ並ぶ(写真19)。センター(前後 に分配)、フロントアクスルそしてリアアクスルという全てのデフをロックすることが出来る。しかし実際に、これを全て使うのは超極悪路面で、対角方向の2輪が浮いた時だから、実際にこのクルマの使われ方を考えれば、まず必要になる事は無いだろう。勿論、副変速機※2も装備されているから、その気になれば超低速による極悪路のクローリングも可能となる。 このような高価の上に超が付くようなクルマでも、本来のオフロード走破能力を殺していないのは流石といえば流石でもある。

※1 デフロック
4輪駆動車の場合は前後の車軸を駆動するために、プロペラシャフトで前後軸が繋がっている。しかし、これだと、前後の車輪に速度差が出た場合に、その差を吸収できないことになる。これを避けるために、前後に分割するための差動装置(デファレンシャルギア)を付けることがフルタイム4WDで行われる。これは同一車軸の左右差を吸収するデフと区別するためにセンターデフと呼ばれている。ところが、デフはどちらか一方が空転すると、他方に駆動力が伝わらなくなる。極悪路では大きな起伏で車輪が浮くことがあるが、デフが仇になって駆動力が伝わらなくない、要するにスタックしてしまう。このような場合に手動スイッチでデフをロックすることで、接地している車輪に駆動力を与える。Gワーゲンはセンターデフに加えて、前軸、後軸それぞれを単独にロックできる。ただし、車軸のロックはステアリングが効かなくなるなどの弊害もあり、使用するためには十分な経験と知識が必要になる。Gワーゲンの場合は本来が軍用車だから、専門に訓練された兵士向けの機構であって、それを民間向けにも装備しているという、究極の本物志向でもある。

※2 副変速機
極悪路の場合は、極めて低速で、しかも強大なトルクを発生させて、岩場でさえ乗り切らなければならない事もある。そんな場合には、通常の1速では速すぎるために、トランスミッション(主変速機)の出口に、もう一つ2段の変速機を付け 、これを副変速機と呼ぶ。最近の、街乗りオフローダーには、副変速機が殆ど装備されていない。しかし、前回試乗したポルシェカイエンには、何と副変速機が搭載されていたし、カタログには耐障害角などのオフロード性能のスペックも記されていたのには驚いた。ポルシェともなれば、形だけのオフローダーに自社のブラントをつけるなどはプライドが許さないか?


写真14
ウッド(勿論本物)や皮革など、それも最高の素材を使った室内の基本設計は実は30年前。
何やら独特なアンバランスが何ともいえない雰囲気をかもし出す。最善か無かの時代のメルセデス
の雰囲気を今でも現役で持っている貴重なクルマでもある。
 


写真15
レザーシートも、そこらの名前だけの本皮とは訳が違う、最高の素材を使っている。

 


写真16
リアシートはフロントシートよりも高い位置にある。
このため、リアパッセンジャーは前が良く見える。まるで伊豆急の特急「踊り子号」のようだ。

 


写真17
正面の大径速度計の内側はAMGロゴの付いた独特のデザインのフレームがある。これを見ただけで判る人は
G55と見破るようだ。

 


写真18
副変速機の切り替えスイッチ(黄色矢印部分)でハイ/ローを切り替える。シフトノブの上面には”G55”の文字が。

 


写真19
エアコン噴出し口を挟んで並ぶ3つのデフロックスイッチ。左からフロント、センター、リアのデフをロックする。

 


写真20
ドア内張りに付くパワーシートのスイッチが懐かしい。
古き良き時代のメルセデスを思い出す。

 

インテリジェントキーなどは当然装備されていないので、オーソドックスに鍵穴にキーを差込み右に捻ると、スターターの音が聞こえた後に多少の振動とともに5.4ℓ V8が目覚める。アイドリングは如何にも大排気量のハイチューンエンジンという感じで、同じV8でも高級セダン用とは全く異 なり、如何にもAMGというフィーリングがマニアには堪らない。セレクターレバーをDに入れて静かにスロットルを踏むと、車重 2500kgの重量車は静々と走り出す。この時から既にトルクを感じるのは伊達に最大トルク700Nmというエンジン を積んでいるわけではない。しかも、低速から辺りに振りまく排気音は、スーパースポーツも顔負けという程の痺れるサウンドを発している。スーパーチャジャーによるAMGエンジンは、同じ500psといっても自然吸気のM5ともフィーリングは異なる。 広い道に出て、前が空いてきたこともあり、今度はフルスロットルを踏んでみると、AMGエンジンは派手な排気音とメカ音を轟かせながら、豪快な加速をする。回転計の針はレッドゾーン向かって急激に上昇してゆく感覚と、高い視点が何ともアンバランスではある。やはり、このエンジンは、本来 はSLのようなスポーツカーやE55のようなスーパースポーツサルーンに積むのが最も似合う 。G55の加速感は、先日試乗したポルシェカイエンSを軽く凌ぐといえば想像はつくだろう。6速が常識となった高級車のATに対して、G55は5AT と時代遅れを感じるが、この強大なトルクのエンジンと組み合わせる限りは十分過ぎる程だ。スーパーチャージャーによる過給はターボに比べてレスポンスが良い事と、絶対的な排気量が大きいこともあり、低速巡航からでも右足を踏めば即座に反応する。 本音としては凄いを通り越して、クロスカントリー車にこんな強力な動力性能が果たして必要だろうか、なんて疑問も湧くが、気持ちの良さでは群を抜いていることは間違いない。

副変速機やデフロック等の本格的オフロード向け機構を装備していることは既に述べたが、もしやと思ってタイヤを見れば、なんとこれもオフロード用のパターンを持っている (写真22)。最近の高級SUVと言われるクルマの多くは、とてもオフロードなど走れない高速用のタイヤを装着していたりする。そういう面ではG55の オンロード性能に興味が持てたので、早速試してみることにする。まずは走り慣れた中速コーナーを十分に余裕を持って通過してみるが、この時既にタイヤグリップの悪さと、サスの踏ん張りの悪さを感じてしまう。そこで、もう少し速度を上げると、その傾向は益々顕著になる。 と、言っても、速度的には十分に速いのだが、なにしろ500psエンジンを搭載していることを考慮すると、そのコーナーリング能力はチョット物足りないのも事実だ。G55のサスペンションは極悪路の走破性を第一にしているので、前後ともリジットアクスルを採用している。国産のクロスカントリー車では以前からフロントに独立懸架(ダブルウィシュボーン)を採用しているパジェロをマニア達がバカにするのは、独立懸架では十分なサスのストロークがとれないなめに、 極端な凸凹のある極悪路面ではタイヤが浮いてしまうからだ。同じ国産でもランドクルーザー、特にスパルタンなバンである70系や、大型オフローダーの80系などは本来は4輪リジットアクスルだったが、 最近は舗装路の安定性を重視して、前輪には独立懸架を使用する傾向にある。こういう面ではGの拘りには頭が下がる。 国産でもGワーゲンと同じようなコイルリジットを頑なに守っていたサファリも、つい最近、国内販売が終了したようだ。恐らく海外もモデル(パトロール)は生産が続行さるだろうし、車種によっては以前から欧州で組み立てられているから、影響は無いのかもしれない。   


写真21
底面を除いてみれば、見事に最小限の出っ張りで、オフロードの走破性を第一に考えた本格的な設計になっている。流石は軍用車の民間転用だけのことはある。

 


写真22
本気でオフロードタイヤを標準装備している。実際の使われ方からすれば、せめてオールテレインクラスでもつけていれば、オンロード性能で有利になるのに・・・。何という頑固さだ。

 

今時、4輪リジットの足回りとオフロードタイヤの組み合わせのクルマは滅多に御目にかかれないが、それでは乗り心地はどうなのだろうか?実は意外に悪くない。例えば全てがランフラットタイヤを履いている ことで乗り心地とが不利になる最近のBMWと比れば、決して遜色の無い乗り心地だった。この手のオフローダーは、凸凹路面の走破のために極端に長いホイールストロークを持っている。その為にはコイルばねの特性も長いセット長、ようするにばね長を長くとって、たわみの変化でもタイヤ(路面)を押さえる力に大きな変化が起こらないようにするから、結果的に乗り心地は意外としなやかになる。これは、国産車でもGワーゲンと似たようなサスペンション構成で、長大なストロークを誇った本格的なオフローダーであったランクル80やサファリ(Y60)あたりも 同様で、結構乗り心地は良かったのを思い出した。

G55のキャリパーはAMGブランドとしては珍しく、一般的なピンスライドタイプ。AMGといえば誇らしげにAMGロゴの入ったブレンボ製のアルミオポーズド(対向ピストン)キャリパーがホイールの間から輝いている姿を想像するだろうが、G55は違う。実際のブレーキフィーリングは効き出すまでの初期ストロークが少し長めではあるが、それ以後は剛性感抜群で、急減速でもビクともしない。踏力もBMWのようにヤタラ軽くて喰い付きが良い、悪く言えばカックンブレーキ的なのとは違い、適度の踏力を必要とするが、ひ弱な女性でも何とかなる程度に収まっている。ピンスライドタイプのキャリパーというのは、車体の内側のみにピストンがあるから、ブレーキペダルを開放しても、外側のパッドはディスクローターから積極的には離れずに成り行きとなる。このため、大きな引きずりを防止しようとすると、どうしてもピストンストロークを長くする必要があり、その結果として必然的に初期ストロークが伸びてしまう。G55が何故対向ピストンを使わなかったのは定かではないが、考えられることは、伝統的なサスペンションは近代的な対向ピストンを収めるだけのスペースが取れなかったのではないか。対向ピストンキャリパーは当然ならがローターの外側にもピストンを必要とするために、その分のスペースを必用とする。写真25を見ても、既に幅方向のキャリパーとホイールの隙間は一杯だから、カッコ良いオポーズドキャリパーを付けたくても寸法的に断念したような気がする。まあ、無骨なクルマに無骨なキャリパーは決して不釣合いではないから、気にすることは無いだろう。


写真23
標準装着タイヤは前後とも285/55R18。ホイールはも論AMGのアルミで、これ4個でいくらするのだろうか?
(写真はリア)


写真24
フロントもリアと同一サイズ。タイヤのハイトが高く感じる割には扁平率は55。考えてみれば幅が285もあると55とはいっても結構な高さになる。

 


写真25
フロントも一般的なピンスライドタイプのキャリパー(2ピストン)を使用している。
写真で見ても幅方向のホイールとの隙間は最小だら、対向ピストンを装着するスペースは無さそうだ。

 

   

NATO軍の正式車両をベースにした抜群の走破性をもつシャーシーに、全てのデフをメカニカルロック可能な超本格派の駆動系。そこにスポーツカーエンジンとしても超一流ブランドのAMG製エンジンを搭載して、内装はこれでかもと高級なレザーやウッドを使いまくる。しかもボディは誰もが振り向く四角四面の軍用スタイル。もう、これ以上何を求めるのだという究極の万能車がG55だ。オフロード車マニアから見たら、正に垂涎の的だが、それにしてもココまでのものが必要かどうか。何より1650万円という尋常ではない価格は、庶民は勿論、ちょっとした小金持ちでも手が出ない。では、このクルマを買うのはどんなユーザーなのだろうか?

セレブの奥様が近所の買い物などの足に使うのに、何か良いクルマは無いだろうかと探している。極稀ではあるけれど、愛犬を乗せることもあるから、そのスペースが欲しい。勿論、大型犬だからセダンでは無理。そこで、ステーションワゴンでも買おうかと思い、呼んだのがメルセデスのセールスマン。なぜ、メルセデスかといえば、ご主人のS600やお坊ちゃまのSL55などで付き合いが深いし、何よりクルマとして安心だから。そこで、登場したセールスマンが偶然持っていたGワーゲンのカタログを見せたら、この無骨なスタイルにノスタルジーを感じたの か、奥様は一目惚れしてしまった。

「これ、お幾らなの?」
「はい、G500は1230万円で御座います」
「あら、意外にお安いのねぇ。でも、それで性能は十分なんですの?」
「あっ、いや。それならば、G55というのがありまして、お値段は1650万円で御座います。これなら、奥様のご要望にもピッタリかと・・・」
「まあ、そうかしら。それでは、そのクルマ、直ぐに納車してくださる?」
という、訳で、セールス氏は急遽在庫車を探しまわる。奥様の気の変わらないうちに、現物を抑えるために奔走するのだ。

と、これはフィクションではあるけれど、強ち作り話でもないから、世の中バカバカしくなってしまう。勿論、この奥様に納車されたG55は、フルスロットルもトランスファーのローレンジも、当然ながらデフロックなんて生涯使われないだろ。

さて、今回のG55試乗記、如何だったでしょうか? 「有名人の愛車紹介」みたいな雑誌の企画に、定番のように出てくるGワーゲン。しかもAMG版。セレブとは無縁の B_Otaku  が、これまたセレブとは無縁の読者のために実施した特別企画! えっ、Gならウチにも1台あるよ、ですか? し〜っ、駄目ですよ社長、そんなことバラしちゃ。税務署の耳にはいったらまずいでしょう。