NISSAN AD 1.5 (2007/4/7)


前後バンパー、ドアハンドル、サイドミラーは塗装無しの素材色にキャップ無しのホイールキャップ。
今時このような組み合わせはタクシーかパトカーくらいなものだろう。どれも皆、業務に徹したクルマ達で、
装飾華美なクルマばかりの現代では、むしろ新鮮にも感じる。

日本が世界に追いつけ追い越せと頑張っていた1960〜70年代は、クルマと言うのは誰にでも持てるものではなかったのと共に、今のように豪華な装備は付いていなかった。シートはビニールレザーで室内は随所に鉄板が まる見えだったし、アルミホイール何ていうものは事実上存在しなかったし、ホイールといえばスチール製が当たり前で、ホイールキャップが付いていれば 十分に高級車だった。その後は経済成長と共にクルマも徐々に大衆化して一般家庭でも所有できるようになり、今では一人一台という家庭も結構ある ようになり、クルマの大衆化と共に、なぜか見せかけは豪華になっていった。シートは何時の間にやらビニールレザーから布になっていったし、室内は 全面をプラスチックなどで覆うようになり、ボディの鉄板の一部が室内に見えるクルマなどは殆んどなくなってしまった。とはいっても内装を良く見てみれば見掛けだけの安物で 、一見革のようなシボのついたダッシュボードを指で叩いてみればコンコンと セコい音がするし、立派な木目の豪華なパネルは隣のクルマと全く同じ木目が付いた印刷だったり、如何にも高級そうなシート表皮は1年も使えば薄汚れてヨレヨレになるし・・・・。そんな見せ掛けの豪華に浸るくらいなら、余計な装飾は一切排した実用に徹したクルマは無いのだろうかと考えた時、そうだ、業務用のライトバンというのがあった。上手い具合にライトバンのシェアを二分するニッサンのADバンがフルモデルチェンジして名前も”AD”となったのを 機に今回の試乗を実施してみた。読者の中には毎日仕事で乗っていてお馴染みという人も、はたまた全く未知の世界という人もいるだろう。少なくともこのサイトの主流となる欧州製のD/Eセグメントセダンとは全く分野が異なるようだが、よく考えれば、これ程目的のシッカリしたクルマはそう簡単にはお目にかかれない。これはサーキット走行を前提としたポルシェGT−3RSにも匹敵する、何て言ったら褒めゴロ試乗記になってしまうので、そこまでは言わないが・・・・・・ 。


写真1
ADは基本的にはウィングロードの貨物登録版。
右の写真と比べてみれば・・・・。

 


写真2
上の写真はウィングロード。言い方によってはADの豪華・乗用車登録版ともいえる。

 

新型ADには1.2ℓと1.5ℓのラインナップがあり、試乗車は1.5VEという上級グレードで1,357,650円。この中途半端な端数のある価格は、このクルマの価格設定が原価から計算してギリギリに 設定されていることを意味している。 これが高級車になればなるほど、価格も端数のない綺麗な数値になっているのは、数値をまるめても影響がないくらいに吹っかけているからに他ならない。 話を戻して、1.5VEはベースグレードの1.5DXより37,800円高く、その分として前席パワーウィンドウとマップランプを備えている。外観は如何にも仕事 用に相応しく、 前後バンパー、ドアハンドル、サイドミラーは塗装無しの素材色で、スチール製ホールにはキャップ無しと、今時他にこのような組み合わせはタクシーかパトカーくらいなものだろう。 これらはどれも皆、業務に徹したクルマ達で、装飾華美なクルマばかりの現代ではむしろ新鮮に感じるのも事実だ。
なお、ADには約10万円安い1.2ℓもラインナップされている。10万円という価格差を考えれば、1.2ℓのユーザーは10万円の初期投資を節約するというよりも、小排気量によるランニングコストの節約が目的だろう。 それにしても、このボディを1.2ℓでマトモに走らせる事が出来るのだろうか?
ところで、ADとウィングロードの関係はといえば、これをクドクドと説明するよりも、写真1と2を見比べてもらえば一目瞭然だ。要するにADの乗用車登録仕様がウィングロードということになる。 ADの装備をちょっと豪華にして、グレードによってはエアロパーツなんかを付けたりして、さてお値段はといえば、ADの1.5DXが約132万円なのに対してウィングロード15RSは149.3万円と、その差は約17万円。 貨物車丸出しのADのリアシートに比べればウィングロードのシートは少しは金もかかっているだろうし、外観だって素材色のバンパーというわけではないので、この差額は納得が出来る範囲だ。逆に言えば、ウィングロードの買い得価格のカラクリは実質的には乗用車登録のライトバンだったことによるワケだ。


写真3
こんな実用一点張りのクルマにしてはハイマウントストップランプが付いているのはリッパ!

 


写真4
外寸の割りには荷室が広いのは、このクルマの性格からいって当然でもある。

 

写真5
リアスペースは狭いしシートの座面も小さく、しかもクッションも薄い。写真で見てもバックレストの薄さは、ここがあくまで補助席的なこと意味している。
リアのウィンドウは手動式で、最近では珍しい回転式のハンドルが見られる。

 

 

見るからに質素な外観を眺めながらドアを開けると、そこに見えるフロントの室内は想像していた程にはチープではなく、例えていえば廉価版の軽自動車よりはマシといいう感じだ。シートの表皮も当然安物だが、これが逆にハイオーナーカーに装着されている、中途半端に豪華に見せかけた安物の化繊モケット風シート等よりは余程マシともいえるが、 座り心地は想像どおりに良くない。さらにリアシートを眺めてみれば、流石に貨物車登録だけあって、足元は狭いしリアシートの座面の寸法は短く、何よりもバックレストの厚さの薄いことには驚いた (写真5)。このリアシートはやはり長時間の移動には使わないほうがよさそうだし、何よりヘッドレストすらないから安全上も?ものだ。万が一事故で怪我をしても仕事中だから労災が効くのでマア良いか、なんていう人も居ないだろうに。それに、経営者だったら労災なんてないし・・・・。 社長=センチュリーの後席なんていうのは一部の大企業の場合で、世の中の社長の多くは自分自身で汗水垂らして働く、通称トーちゃんカーちゃん企業とか、パパ・ママカンパニーというのが多いとか。

さて、このADの売り物は、助手席のバックレストを倒すと、そこにパソコンの作業テーブルが出現する(写真7)ことで、更にはセンタークラスターの上部特等席には、ナビのディスプレイ・・・・ではなく、ホワイトボードが設置されている(写真 9)。ユーザーは公園の駐車場などで、パソコンメールをチェックしたり返信したり、携帯で連絡してメモをホワイトボードに書き込んで、ついでにコンビニのオニギリにカブリついて、ペットボトルのウーロン茶で流し込むという一連の業務の為に実に良く考え られた室内だ。そのためのペン立てとカップホルダーも、ちゃあんと運転席の右側に用意されている(写真10)など、抜かりは無い。勿論、メールに熱中していて、ハタと気付いたら花粉症で鼻水が出てたならば、これまた助手席側にティッシュペーパーの箱が入るスペースもある(写真 6)。


写真6
実用に徹したダッシュボード。それでも廉価版の軽自動車よりはマシでもある。
助手席側には2段の棚があり、上にはティッシュペーパーの箱を、下は乗用車のグローブボックス
的に使用する。
 


写真7
ADのセールスポイントでもある、前に倒すと背面がテーブルとなり、パソコンを置くことが出来る助手席側のシートバックレスト。

 


写真8
メーターは正面の大径速度計と左の燃料計のみで、水温系は無い。黒地に白のシンプルなデザインは、中途半端に豪華に見せようとしているウィングロードなどに比べて、遥かにマトモに見える。

 


写真9
センター上部の一等地に陣取ったホワイトボードは物入れの蓋も兼用している。
エアコンはマニュアル、オーディオはFMとAMのみで、CD等はない。仕事中は交通情報が聞ければそれで良しということか。

 


写真10
ステアリングの右側にはペン立てとカップホルダーがある。

 

ブレーキに足を乗せながら、4速ATのセレクターをガチャガチャとDレンジに入れて、いよいよ走り出すと、この感覚はどこかで覚えがある。そうだ、ウィグロードと似ている。それは先程触れたように、兄弟関係というよりも、一卵性双生児の一人に作業服を着せ、残る一人にはカジュアルウェアを着せたようなものだから、乗り味が似ていても驚くことはない。若者向けのスポーティでコンパクトなワゴンという目で見られるウィングロードは、乗り味としてはイマイチ、いやイマニくらいだが、質実剛健、チープの塊りのライトバンであるADと して考えれば、走りは決して悪くない。踏めば緩慢ながらもちゃあんと加速をするし、遅すぎて2リッター級のミニバンに煽られることもない。 一般道で50〜60km/h程度の流れに乗る分には全く不安がないし、80km/h程度の巡航でも十分に安定している。

AD1.5のエンジンはHR15DEで、これはウィングロードの1.5と全く同じだから、ライトバン=乗用車より遅いという図式は成り立たない。そうは言っても、所詮は1.5ℓのエンジンだし 、ミッションも今では時代遅れの4速ATだから、ここぞと言う時にスロットルペダルをエイッと踏んで、キックダウンを誘っても余程回転数が落ちていないと反応はしない。例えば2000rpmからキックダウンで3500rpmまで上げて一気に加速なんて芸当は出来ない。それではと、セレクターを操作して”3”の位置にしても、なにやら反動が鈍いし、何よりセレクター自身が走行中にシフトダウンするのに使うなんて想定外ではないかと思いたくなる 程に使いに辛い。

う〜ん、いかん、いかん。このクルマはライトバンであって、スポーツセダンではないから、普通に走れば十分だった。


写真11
HR15DEエンジンは1498ccの排気量から 109ps/6000rpm、12.3kg・m/4400rpm を発生する。
ウィングロードの1.5も全く同じエンジンを搭載している。
 

ステアリングもウィングロードその物で結構軽いし安定感もマアマアだが、荷物を積む事を前提としている4ナンバーの貨物登録だからサスの設定は結構硬い。と、いっても、一時代前のポンポンと跳ねるようなライトバン丸出しではなく、硬いながらも不快という程の乗り心地の悪さではないから、この硬さが寧ろ走行安定に寄与しているのかもしれない。高速道路の右側車線を130km/h 程度で居座るライトバンを結構見かけるが、なるほどその程度の速度ならば、命がけということは無いようだ。 最近は国際基準なのだろうか、コンパクトハッチでさえ全幅が5ナンバー枠からはみ出している例が多いが、ADは当然ながら全幅1695mmという小型車サイズ(貨物だから4ナンバー)で、やはりこれは運転のし易さと取り回しの良さでは 長時間運転時の疲労という面では大いに有利であろうから、業務用としては正解だ。

ブレーキもまた、特に傑出した点はないものの、実用車としては不満のないレベルに達している。 この20〜30年の間に、中型以上のトラックを除くとフロントにディスクブレーキが装着されているのは当たり前となった。これに伴って、例え低価格命の商用車とはいえ、効きや耐フェード性は普通に走る分には全く問題にならなくなった。 このADもフロントにはディスクブレーキは当然として、それもベンチレートタイプのローターを使っている。そういえば、ソリッドディスクすらも最近では軽自動車の、それもベーシックな廉価版のみとなってしまった。フロントもドラムブレーキが当たり前だった40年程前の教習所では、ロック防止と内部の熱を逃がすためにポンピングブレーキを推奨していたが、今の時代は下手にポンピングなどをやったらABSが勘違いをして、返って制動距離を延ばしたりする結果になる。常識と言うのは時代と共に変化するという見本のようなものだ。

ADの標準タイヤは165R13-6PRLTで、これをキャップすら付かないスチールホイールと組み合わせる。それにしても今時13インチといったら軽自動車、それもアルトに代表される低価格でベーシックな、いわゆるオバちゃん用の軽なみだ。タイヤ表記のLTというのは”ライトトラック”の略だから、要するに小型トラック用のタイヤで、 更には扁平率の表示がないが、これは扁平タイヤなんて存在しなかった大昔からあるサイズ表記なので、あえて扁平率は表示しない事になっているが、概ね82%程度だ から、並みのオヤジグルマでも65扁平以下の乗用車とは一線を隔している。


写真12
165R13-6PRLTという貨物!用タイヤにスチールホイールの組み合わせ。しかもホイールキャップすらない。
良く見ればタイヤのハイトが異様に高い。扁平タイヤなんてクソ喰らえの心境も新鮮だったりする。

    

 

このクルマに乗るのは外回りの営業マンだから、それ以外の職種ではまず乗るチャンスがない。同じく外回りが多いといっても自営の(それも適度に利益の出ている)経営者自身だったら、もう少しマシなワゴンか何かに乗るだろう。実用一点張りで、バンパーやドアハンドルなどの樹脂部品は塗装なしの素材色。 ホイールキャップすら付かない外観を見れば、このクルマはマトモに走るのかと不安があったが、乗ってみれば殆んどウィングロードだった。言い換えればウィングロードをスポーツワゴンとしてみれば性能的には大いに不満足だが、同じクルマの装飾を廃してリアシートをチャチにしただけのADは、貨物車としてみれば十分に立派な性能ともいえる。 その昔のライトバンは荷物を積まない状態だと硬いサス(多くはリアが板バネだった)はポンポン跳ねるし、ビニールレザーのシートのウレタンは薄くフニャフニャで・・・。それに比べれば最近のライトバン、すなわち外回り営業マンの労働環境も改善されつつあるということか。と、ここで意義アリ!ですか?営業車は軽のボンバン。普通車で外回りなんて支店の次長クラスでないと乗れない銀行員をどうしてくれる、ですか。 でも、一般企業に比べれば年収がベラボウに高いから、ご自分で好きなクルマを買って、プライベートは優雅にいきましょうよ。はっ、既に買っている。BMW3シリーズ、AudiA3やA4それにボルボV50ですか。でも、メルセデスCクラスは居ないんですか?何と、ベンツなんか買ったら業務上横領でもしているんじゃないかと噂になる、ですか。なるほどね。