<速報版> スカイライン 350GT (2006/11/23) 

 



 


   
   11月20日、東銀座の日産本社ギャラリーにて。

11月20日に発表された12代目スカイライン(V36)に早速試乗してきたので、一先ず速報版として発表することにする。 日記をご覧のかたは既にご存知と思うが、今回はプレス発表に加えて同日の夜にブロガー向け発表会と題して、昼間のプレス向けと同等の発表会が開催された。 B_Otaku にもお誘いが来たので、勿論出席してきた。今回は初の企画との事で、あらゆる手段を使ってスカイラインの販路を広げようという姿勢を感じたので、これは早速試乗して見なくてはと近所のディーラーで試乗車にナンバーが付いた日の夜の試乗となった。


発表日の当日、日産本社前に飾られたV36はライトアップも手伝って実に映えていた。
V36の写真写りの悪さは既に定評?となっている。

V36のスタイルに関して多くの人たちが指摘しているのが、写真写りの悪さだ。正式発表前に各種メディアで公開された写真を見て小さなフーガ、もしくは大きなシルフィー と誰もが感じたようだ。 ところが、実際に現車を見てみれば、写真に比べてはるかに見栄えが良い。正面から見ると低くワイドな雰囲気は先代V35のクーペに近い雰囲気だから、背の高いフーガとは全くイメージが異なる。 欲を言えばフロントビューが何となくノメっとしていてナマズっぽいのが多少気にかかるが、それも一瞬だった。これに比べてリアビューはもっと良い。 複雑な曲線で相当に凝ったデザインで独特の雰囲気がある。ところが真横から見ると、決して悪くはないのだが個性が感じられず、最近の4ドアサルーンの主流ではあるが、 もう少しスカイラインとしてのアイデンティティがあっても良かったように思う 。

         
     新開発のVQ35HRエンジン。 V6 3.5ℓ 315ps/6800rpm 36.5kg-m/4800rpm。
      ブレーキブースター(車両RH)とバッテリー(LH)は完全にプラスチックケース内に収納されている。

今回の試乗車は350GT typeSP(380.1万円)に4輪アクティブステア(4WAS、13.85万円)、ナビゲーションシステム(41.895万円)、BOSEサラウンドシステム(12.075万円)その他のオプション満載で車両金額は約450万円、総額500万円という結構な価格となる。

当日はナンバーが昼頃に付くということなので試乗は夜間となった。早速乗り込んでシートに座ると、低いフロントデザインの割には着座位置が高く感じる。先代V35ではゲーム機のように安っぽいセンタークラスターで非難轟々だったが、新型V36では大いに改善された。夜間照明に浮かび上がるオーディオやエアコンの操作スイッチ類もセンスが良く、先代の欠点は見事に改善されていた。正面の計器板はファインビジョンメーターと呼ばれる光学式だが、これは個人的には日本車丸だしで安っぽく、オヤジ車の典型に思えてしまう。 新型は内装の質感もアップしてセンスも良く、しかもアルミのトリムはスポーティで、今回のテーマである運転する気持ちよさを表現しているのだが、これを安っぽいメーターが台無しにしてくれている。このメーターはステアリングホイールの上下調整と共にメーターユニットも上下するので、ステアリングを下げてもメーターが隠れることはないのだが、逆にメーター位置が常に低い為に走行中の視認性に問題を感じてしまった。

         
     先代V35に比べて大いに進歩した新型のフロントダッシュボードの眺め。
     アルミのトリム&センタークラスタパネルは中々似合っている。

最上級グレードであるTypeSPは標準でレザーシートを装着している。このシートの座り心地は国産車としては良い部類だが、レザーの表皮はグリップという面ではイマイチで衣服によっては多少滑り易い。 既にエンジンは掛かっていたが、アイドリングが静かで振動も感じられないのは流石に最近の日本車で、スポーティというよりも高級車という雰囲気だ。 ブレーキペダルに右足を載せて、さて、パーキングブレーキのリリースレバーは何処かとダッシュボードを見渡しても見当たらず、もしやと思い左端のペダルを踏んだ らばメーター内の警告が消灯した。 やはりプッシュ/プッシュ式だったのか。スカイラインというからには、足踏み式ならレバーでリリースかセンターコンソール上のハンドレバーにして欲しい。
350GTのミッションは5ATのみで、他社では今や常識となった6速以上のATやスカイラインの北米モデルであるインフィニティG35に設定されている6MTはない。 ATが他社に遅れてしまったのはトロイダルCVTに賭けていたからで、これが上手くいっていれば苦労はなかったのだが、現状は結構なハンディを背負ってしまったようだ。 北米で設定されているMTが国内向けにないのは、やはり生産台数を考えてのことだろう。一見簡単そうなMT設定だが、国内向けならRHD(右ハン)に対応しなければならない。国産車だろうが、輸入車だろうが、何処で設計してもRHDに3つのベダルを配置するのは結構大変なのだろう。 例によって商用掲示板のLHD論争で、輸入RHD車のMTのペダル配置が寄っていてケシカランという意見が多いが、スカイラインだって国内向けにMTを設定するには、ペダル配置の問題を解決しなければならず、 その為には、場合によってはタイヤハウスのプレスに海外向けとは別部品が必要になったりするだろうから、殆ど売れそうにない国内MTを設定することは 不可能なのだろう。
ATのセレクトレバーをDに入れて早速走り出すと、第一印象は実にスムースになった新VQエンジンに感心する。以前のVQ3.5ℓは強力な低速トルクは感じられるものの、振動は多いし高回転側はガサツでスムースという言葉には程遠い特性だったが、今度の新型は大いに進歩したようだ。試乗車は数時間前にナンバーを付けただけあって、 オドメーターは僅かに100kmを示していたが、そんなマッサラな状態でもチョッと踏み込めば簡単に6000rpm程度まで吹け上がるし、その時も実にスムースだ。 ところが、この出来の良さはスポーティという面では逆に物足りないのも事実だ。何しろ面白みが無いし、高回転域まで回しても速いことは速いのだけれども、ワクワクするものが全くない。 音も静かなのは良いのだが、フルスロットル時はもう少し迫力のある排気音を聞かせるなどのチューニングをして貰いたいものだ。 ニッサンの分析ではスカイラインの購入層は、これ程までに大人しい特性を好むという事なのだろうか?
350GTのATはセレクターを右に倒せばSモードになり、その後セレクターを前(+)後(−)させるかステアリングコラムから生えたパドルスイッチを操作することで、 マニアルモードとなる。パドルスイッチは右が+、左が−という現在の主流となる操作方法だ。このモードの変速はトルコン式のATとしてはバドルを操作してからのタイムラグは十分満足できる程に短い。 材質にマグネシュウムを使う程に拘ったパドルスイッチのフィーリングは、メカ接点がカチッと作動するのが手に取るように判るBMW M5並み・・・・・ではなく、 導電ゴムを使った電卓のような、グニャっという感じで何とも残念だった。目に見えるレバー本体にはマグネシュウムを使ったのに接点は電卓並みという思想が、完全に拘り切ってない証拠だ。 このマニアルモードのシフトダウンを試すために4速80km/hから一気に左パドルを2回作動させてみると、一瞬のタイムラグと共に上手く回転数を合わせてのシフトダウンを行った。 これも確かに立派な性能だが、欲を言えばBMW M5のSMGV(ただし、モードによって)のように一瞬のブリッピングをするような演出も欲しい。これがアルファロメオの156GTAになると、もっと派手なブリッピングをして、 実際の性能よりもフィーリング命という感じになる。


ファインビジョンメーターと呼ばれる光学式のメーターは、オヤジセダン丸出しだ。ここは一つ欧州車的な計測器 的な精密感のあるメカメカしい奴が欲しい。



ATの操作レバーは最近の標準でもある
P-R-N-D、そしてDから右に倒してS
となり、この位置から前後させるとマニアル
モードとなるティプトロニック同等パターン。

 


夜間照明は中々センスが良い。アナログ時計が雰囲気を盛り上げるが、この手の時計はやたらと誤差が多いのが心配になる。

 

 

今回の試乗車にはオプションの4輪アクティブステア(4WAS、13.85万円)が装着されていた。これは350GTのみにオプション設定されていて、250GTには オプション設定がない。この4WASの効果は十分で、軽い操舵力とクイックな挙動が感じられる。この感覚を本家BMW5シリーズ(E60)のアクティブステアリングと比較すると、初期の5シリーズのように危険な程クイックではないが、国産車として異例に軽くて反応も良い。違和感も少ないが、本家BMWはその後毎年の改良により、現在では十分な手ごたえをも手に入れている点から比べ れば、スカイラインも今後は更に改良する余地はある。スカイラインがBMWと異なるのは4輪ステアを採用している点にある。 この効果は絶大で、コーナーリング特性はニュートラルなことで有名なBMWサルーンと比較しても十分に対抗できそうなくらいだ。ただし、よ〜く神経を集中してみると多少の違和感はある。 これは慣れれば問題ないだろうが、4WSという言わばゲテモノ的なフィーリングの違いが無いといえばウソになるから、これは世間での評価を待つしかないだろう。 4WSの驚異は2車線の国道で急激なレーンチェンジをしたときだった。何やらクルマが真横に移動するような不思議な感覚を味わえる。当然ながらサルーンとして異例に安定しているが、 これまた独特な感覚でもある。 このように多少の違和感はあるが、350GTを買うなら4WASを選択するのは必須と感じる。値段も約14万円だから、付けない手は無いし、 BMWのように標準装着(ただし、日本仕様の場合)にしないのが不思議なくらいだ。そうすれば標準車の価格が上がるから、ある面ステータスも上がるし、リセールだって有利になる。 日本では幾らオプションをつけても売却の際にはベース価格で決まってしまう。BMWがMスポーツというパッケージオプションを付けたモデルを一つのグレードとしているのは、 やはりバリエーションとして確立することで、中古車市場で「Mスポならプラス50万円」等の相場が形成されるからだろう。ベース価格を低く抑えて必要なオプションのみ選択できるのは、一見良心的なようだが日本の中古車業者とユーザーの成熟度が足りない現状では有りがた迷惑に成りかねない。
ここまで出来が良いということは、乗り心地だって当然に悪い筈はなく、欧州車的にしなやかで安定した乗り心味を堪能できる。ただし、現在のBMWサルーンはポリシーとして全車にランフラットタイヤ(RFT)を装着するというハンディを背負っているにもかかわらず、 スカイラインと同等以上の乗り心地を実現している点は考慮するべきだ。もしも、スカイラインがRFTを採用しても、この程度の乗り味を維持できたのだろうか。
ブレーキ性能については、最近の国産車はこの1〜2年で大きく進歩していて、効きとフィーリング自体は欧州車に近いところまで追いついたのは間違いない。 その中でも350GTのブレーキは非常に剛性感があって、それこそBMW3シリーズのようだった。しかも3シリーズのなかでも、アルミキャリパーを採用したことで多少ストロークが長めになった最近の6気筒ではなく、 鋳鉄キャリパーを採用している先代のE46や現行なら320iのような剛性感がある。実は、350GTのキャリパーはドイツのテーベス社製の鋳鉄タイプで、これは何を隠そう現行BMW320iの採用しているキャリパーと同一メーカー製だ 。 実はこのテーベス製のキャリパーは日本ではマツダが既にアクセラ等で採用している。フォードグループのグローバルな部品調達政策により、世界中のメーカーから最適な部品を調達する流れの一環で、 特に世界戦略車のアクセラに採用することで、プラットフォームを共有する他車(フォードフォーカスやボルボV40/50等)との共通化とコストダウンを図るのだろう。

今回のスカイラインは上級の350GTということもあるが、結果は実に完成された内容だった。先代とはうって変った静かでスムースなエンジンや、 4WASというハイテクを使っているのは多少反則っぽいとはいえ、BMW的なクイックでニュートラルな操舵性に加えて、しなやかなで安定した乗り心地など、久々に世界で勝負を出来そうな国産車が出現したことは間違いない。


250と350TypePは7.5J×17ホイールと225/55R17タイヤを装着する。


350TypeSおよびSPはフロントが7.5J×18ホイールと225/50R18タイヤを、リアは8.5J×18ホイールと245/45R18タイヤを装着する。

今回の結果が非常に良かった事から、記憶がまだ新しい状態で比較用にと思い、急遽BMW335iサルーンに試乗した。 いくら輸入車は割高とはいっても、車両価格670万円もするクルマと比較するのは反則ではないかとの声もあるが、このクラスでは相変わらずトップ街道をひた走る3シリーズの最新にして最上級のグレードという、 正に世界チャンピオンに挑戦する心意気で試乗してみた。詳細な試乗記は後日別途まとめるが、一言で言えば、新開発のツインターボエンジンは数値的にはスカイラインの新VQエンジンと同等に見えるが、 乗ってみればアイドリングから意識的に聞かせるエンジン音が4000rpm回転過ぎてからのマニアがウットリするようなサウンドと共に、回転が上がれば上がるほ どに凄まじい加速感と、一気にレッドゾーンまで駆け上がる様は、 アレほど出来の良さに感心したスカイラインが一瞬で色あせる程の違いがある。おそらく、ニッサンの開発陣は330i辺りで比較して、スカイラインだって価格を考えれば十分なところまで追いついたと思ったに違いない。 しかし、皮肉にもスカイライン発表と同時期に国内でも走り始めた335iは、他社を更に大きく引き離していた。
まあ、335iについては別格だから参考程度にするとしても、V36が出来が良いだけに惜しい部分を指摘すれば、それは運転していて楽しくない事に尽きる。 ニッサンの広報資料では最初のページに「運転する楽しさと気持ち良さを、思う存分に感じてください」と書いてあるが、350GTは妙に洗練されていて面白味に欠けて、 気持ち良い運転とは違うのではないかと思う。まあ、このフィーリングがスカイラインのターゲットユーザーを分析した結果、彼らが気持ち良いスポーツフィーリングと感じるのだという結果になったのなら、それは正解なのだろうが、 メルセデスやBMWのオーナーがコストパフォーマンスを考えて国産車に乗り換える場合の定番の地位をスカイラインが目指すのなら、もっと味付けが必要なのではないか。 成績優秀でスポーツも万能なのに何故か女生徒にモテないどころか話題にも上らない。こんな新型スカイラインも、すこしはタバコを吸ったり、バイクの無免許で捕まったりなのに、 人気抜群のライバルを見習ったら如何だろう。
もう一つ、国産車の問題点として挙げるならば、欧州車は発売時点から毎年の改良でモデル末期には別のクルマのように洗練されている場合が多いのに対して、 国産車はあまり大きな改良をせずに4年後のモデルチェンジまで引っ張ってしまい、気が付いたら大きく引き離されていたという事態が多いようだ。今現在でも十分に出来の良いスカイラインだからこそ、 今後の改良を地道に進めてもらいたいものだ。

もしも、あなたが今までに欧州車を所有どころか試乗した事さえなくて、更に今度の買い換え予算が総額400万円ならば、スカイライン350GT TypeS(348.6万円)かTypeP(359.1万円)は大いに勧められる。それどころか、購入した後は運転する度に、なんて良いクルマなんだろうと満足感に浸れることは間違いない。 ところが予算総額が500万円となると話しは変わってくる。ライバルはBMW320iハイラインやMスポーツなどで、誰もが一度は乗ってみたい人気の欧州プレミアムブランドだ。 ところがエンジンは2ℓ4気筒だから、性能的には大した事は無く350GTの圧勝だ。しかし、内装はハイラインならばレザーシート、それもBMW独特の深いシボのある厚い革を使ったり、座面にはワザとシワを付けてある例のやつだ。 この予算ならスカイラインだって320iに負けないだけの内装を持っているし、性能的には段違いも良いところだ。 しかし、一流ホテルに乗り付けた時の従業員の態度は320i程には丁寧ではないのを感じるだろうし、郊外の新興私立小学校の受験説明会に乗り付けるのならスカイラインはイマイチだ。隣に停まったAクラスのプチセレブ気取りの嫌味な保護者から優越感に浸った視線を感じるだろう。 こんな場合は、どちらが良いかと相談されても答えようがない。好きなほうに選べば良いとしか言いようがないのだ。