マツダ RX−8 [5MT] (2006/11/5) 


BMW 116i


BMW 130i

 
VW Golf GTI


 

 

    
    世界中のクルマの中で、どのクルマにも似ていないフロントビュー。
    好き嫌いは分かれそうだが、フェンダーの処理などは最新のメルセデスSクラスもやっているから
    中々先を見ていたデザインと褒めておこう。

1967年5月に発売されたマツダコスモスポーツはその円盤のような未来的なスタイルも衝撃的だったが、何よりボンネットの下に世界初の2ローター・ローターリーエンジンを搭載しているという、正に自動車の歴史に残る車だった。コスモスポーツに搭載されるエンジンは前期型L10Aが最高出力110ps/7000rpm、最大トルク13.3kg-m/3500rpmを発生し 、価格は148万円とクラウンが100万円の時代を考えれば極めて高価だった。発売から約1年後には後期型となり、ボディのワイド化とともにエンジンもL10Bとなり性能も128ps/7000rpm、14.2kg-m/5000rpmと向上した。更に前期型では4速だったトランスミッションも5速(しかもフルシンクロ)化されるなど大幅な進化をしたが、価格は158万円と10万円しか値上がりはしていなかった。 当時の文献によれば後期型の動力性能は0〜400mが15.8秒だそうで、これは今でも十分通用する程の性能だ。

コスモスポーツは確かに画期的なクルマだったが百数十万円という価格は一般の市民は勿論、チョットした金持ち程度でも高嶺の花だった。 そこで1968年に登場したのがファミリーカーであるファミリアのクーペ版に初期型コスモから引き継いだL10Aロータリーエンジンを搭載したファミリアロータリークーペだった。2年後の1970年にはマイナーチェンジを実施してファミリアプレスト・ロータリーとなる。このクルマ はB_Otaku も発表会へ行って試乗したのを今でも鮮明に覚えていから、35年前の未成年時代から既に試乗オタクだった事になる。さて、試乗した感想は驚くほどスムースで当時のクルマの常識では考えられない程に良く回 るエンジンだったが、如何せん低回転側のトルクが足りない。と言っても、カローラやサニークラスのファミリアに110psというクラウンも真っ青のエンジンを載せているのだから、とに角速い。しかし、ファミリーカーベースのシャーシは止まらない、曲がらないで危険極まりない事も事実だった。何しろ当時のロータリーエンジンはエンジンブレーキが殆ど効かない。オマケにブレーキもプアーだったから、調子に乗ってスロットルを踏み込むと、恐ろしい事になった。

当時のマツダのロータリー攻勢は凄まじく、1970年には小型車のカペラにロータリーを、1971年にはロータリーエンジン専用車のサバンナRX−3を発売した。といってもサバンナはレシプロのグランドファミリアと事実上の共通ボティではあったが。そして、1972年には更に上級のルーチェAPと毎年の新車攻勢でロータリー車のバリエーションを増やしていった。そんな昇り調子のロータリーに全てを駆けていたマツダにとって突然振って湧いたのが1973年のオイルショックで、燃費の良くないロータリーエンジンは夢のエンジンからエネルギーの無駄遣いの権化のように悪者扱いされる羽目になってしまった。そして、経営ピンチが訪れ74年には経営再建の為にメインバンクの住友銀行(当時)から役員派遣と相成った。だが、幸運にもロータリーエンジンは閉ざされる事無く、その後も細々ではあるが引き継がれた。1978年にはサバンナのフルチェンジ版としてサバンナRX-7、すなわち初代RX−7(SA22C)が発売された。RX−7はその後も2代目(FC3S)、3代目(FD3S)と順調に進化して、カーマニアの定番の一つとなったのは皆さんご存知のとおりだ。

そして、3代目RX-7の生産も中止となり、いよいよロータリーエンジンの系譜もこれまでかと思われたが、2003年5月に新型ロータリースポーツのRX−8が発売された。RX−8という名称から、あのRX−7の新型かとの憶測を見事に打ち破って発売されたRX−8は、 なんとセンターピラーレスの観音開き4ドア2シータースポーツという、他に類の無いコンセプトのロータリースポーツだった。 このRX−8も発売から3年が経過して、この程マイナーチェンジが行われたのを機に試乗することにした。何しろ最近は止め処も無く高価格路線を突っ走ってしまったB_Otaku としては、多少の反省も込めてコストパフォーマンス抜群と噂の高いRX−8の試乗と相成った。さて、RX−8は本当に買いか?このクルマを買ったユーザーは満足できるのだろうか?高価な欧州車に比べて、十分太刀打ちできるのだろうか?などを検証していくことにしよう。


コスモスポーツ(1967〜)
世界初の2ローター・ロータリーエンジンを搭載した自動車史に残る名作。その形状から通称「円盤コスモ」などとも呼ばれている。


ファミリア・ロータリークーペ(1968〜)
ファミリーカーのファミリアに前期コスモスポーツのL10Aエンジンを搭載。動力性能は抜群だったが、シャーシーは全く力不足で危険な車でもあった。


サバンナRX-3(1971〜)
ロータリースペシャリティなどというコピーで発売されたサバンナRX−3。バリエーションとしてワゴンもラインナップされていた。RX−3ワゴンは、ハイパワーワゴンの本家 だった。

 


初代RX-7 SA22C(1978〜1984)
”セブン”はマニアの定番として、その後2代目FC、3代目FDと進化していった。特にFDは高性能のピュアスポーツ路線で、国産のトップスポーツの1つだった。

 

RX−8のバリエーションはベースグレードが253.05万円(5MT)と256.2万円(6AT)、装備充実の
TypeEが292.95万円(6ATのみ)、そして高性能版のTypeSが289.8万円(6MTのみ)となり、エンジンの最大出力はTypeSが250ps/8500rpmと他のグレード(5MTが210ps/7200rpm、6ATが
215ps/7450rpm)に比べ高出力となる。当然ながらTypeSのサスのセッティングやタイヤ&ホイールサイズも、他グレードに比べて走りに振った内容となっている。

今回の試乗車はベースグレードの5MTという、いわば素のRX−8だから寧ろRX−8の素性を知るには都合が良い。蕎麦屋の腕を見るには海苔で誤魔化される可能性がある”ざる”よりも、蕎麦の味のみで勝負する”もり”蕎麦が適しているようなものか。そういえば最近のクルマは”ざる”どころか、テンコ盛りの”天ざる”、場合によっては刺身や寿司までついた○○セットみたいなのが結構多いようだ。

RX−8の概観はといえば、フロントからの眺めは他社のクルマとは全く異なる独特なデザインで、特にフェンダーを強調したラインはユーザーによっての好き嫌いがありそうでもある。コンパクトなロータリーエンジンという特徴を生かして、他のクルマでは不可能なデザインが可能な訳で、実際に低いボンネットラインは並みのレ シプロエンジンでは成し得ないし、そういう意味ではフロントにエンジンを持たないフェラーリ(但し、フェラーリの豪華GTモデルはフロントエンジンではあるが)やポルシェ的なデザインが可能なのだが、F430並みのフロントエンドにしろとは言わないが、もう少し何とかならなかったのかとも感じるところだ。要するにフロントから見たときの、そこらのセダンとは違う、スポーツカーならではの迫力というモノがないのがチヨッと残念ではある。サイドからの眺めは、このクルマのハイライトとも言うべきセンターピラーレスの観音開き4ドアを採用したことから独特な雰囲気を醸し出しているが、特に気にしなければ2ドアスポーツクーペ的で もあり、この辺にデザイナーの苦労の程が伺える。


サイドに回り込んだリアウインドウは初代RX−7から継承されている。 歴代RX-7がハッチバックだったのに対してRX−8はトランクを持っている点が大きく異なり、必然的にハイデッキとなっている。


側面から見ると、センターピラーレスの観音開き4ドアという独特なコンセプトを2ドアクーペ的に見せるための苦労が伺える。

RX−8の実用性を検証するために先ずはトランクを開けてみると、流石に高さは無いが広さはスポーツカーとして十分だ。ただし、惜しいことに開口部の高さが足りず、しかも位置が高いから折角の面積が十分に生かされない。開口部が狭いのはピラーレスの観音開きサイドドアリアによる剛性不足のハンディをリアフレーム高を稼いで 強度を確保するためだろうから、まあ我慢するしかないし、奥さんの実家への帰省帰りのお土産やら野菜を積むには十分だ。ただし、米はチョッと辛いかもしれない。
そして、このクルマのハイライトでもある観音開きのドアを開けてみる。手順としては最初にフロントを開け、次にリアを開ける。閉める時は逆にリアを先に閉めてから次にフロントの順番で、構造上逆は不可能だ。フロントドアのロックは普通のクルマならばBピラーの金具にガッチリと固定されるのに大して、RX−8はリアドアに 対してロックされる。フロントドアを閉めるときに外から見ていると、閉まった瞬間にリアドアがブルンッと振れるのが判る。閉ってしまえば、特に強度不足とか走行中にガタピシ音を発てたりという不具合 はないが何となく気になる。まあ、特に気にしなければ何も問題はないが、少なくとも欧州プレミアムブランドのようなドアを閉めた時の重厚なフィーリングを求めてはいけない。
次にリアのスペースを確認する為に乗り込んでみると、驚く無かれ乗降はスムースで2ドアクーペのような乗り難さが無いばかりか、4ドアコンパクトカーのリアシートよりも容易に乗り降りが出来る。センターにコンソールが通っている為に完全に左右がセパレートシートとなっていて囲まれ感という意味では好ましいし、何より膝とフロントバックレストの間には現行のBMW3シリーズ(E90)並みの十分な空間があ り、頭上にも最低限の空間があるから、大柄なリアパッセンジャーでも足と抱えたり首を曲げたりすることもなく、自然な姿勢で座っていられる。 唯一の問題は、リアパッセンジャーがクルマから降りる時にはフロントドアを開けなければならないし、これは自分自身では出来ないなど4ドア車としてみると使い辛い点もあるが、2ドアクーペよりはマシだと思えば問題にはならないだろう。 RX−8をスポーツカー、いやグランドツーリングカーと見た場合、ライバル他車に比べてもリアの実用性は 十分確保されているから、これを4ドアファミリーカーと家族を騙して買っても誤魔化し通す事も可能かもしれない。


スペースは十分だが上下に狭い開口部から実用性はイマイチだが、スポーツカーのトランクとして見れば十分に合格点を 与えられる。


座面がスエード調のハイバックシートで最近のポルシェに似た雰囲気を醸し出す。


リアスペースは大人2人が”マトモ”に座れるスペースがある し、頭上空間も最小限確保されて実用性は十分ある。


ドアの内張りの作りも質感も十分に満足できる程度の内容だ。最近のマツダのインテリアは随分進歩したものだ。トヨタ的内装とは違う出来の良さで、言ってみれば欧州車的でもある。 流石に国産車としては例外的に欧州での販売比率が高いマツダだけの事はある。


ベースグレードの210ps/7200rpm、
22.6kg-m/5000rpmを発生する13Bロータリーエンジン。

 


写真の黄色い▼の位置がエンジンの前端部分。 ストラットタワーバー(標準装備)よりも20cm程後方にある。
正しくフロントミッドシップだ。

 

次にドライバーズシートに乗り込んでみよう。開け放ったフロントドアから目に入る光景は結構質感が良く、黒を基調とした内装の雰囲気もスポーツカー的で好ましい。 実はこの雰囲気は最近のポルシェに似ているといったら、それはちょっと褒めすぎじゃないの?なんて言われそうだが、10分前までボクスター に乗っていて、 行き成りRX−8の室内を見ても違和感が全くないし、「結構雰囲気が似てるなぁ」と感じたのは紛れもない事実だ。 スポーツーカーのユーザーとしては一番気になるシートについては、座面がスエード調のクロス、サイドは少し粗い織り目のクロスで、形状はヘッドレスト一体のハイバックシート という質感や形状も偶然なのかボクスターに似ている。ボススターの場合にはスエード調ではなく人工スエードのアルカンターラだが、見た目には大きく違わない。 このシートの座り心地はボクスター程にはガッチガチではなく、座面も適度なクッションがあるが一般の国産車に比べれば硬いし、左右サポートも悪くない。 元々マツダのシートは国産車としては良いほうだった。マツダは早くから欧州での販売を重視していたが、その事もあって既に15年程前のファミリアでさえシートは欧州の低価格車のように、見かけは決して良くないが適度な硬さで長時間の運転でも疲れが少なく、 如何しようもないフワフワシートが主流だった当時としては結構新鮮な驚きだった。


黒を基調としたダッシュボードは中々スポーティな雰囲気を醸し出している。
残念なのは安っぽいデザインのオーディオ&エアコンパネルで、これがもう少しセンスの良い
デザインならば文句なしだっのだが。  

シートに座って正面を見るとエンジンオフの状態では真っ暗ケのメータが見える。国産車で御馴染みの自光式なので、もしやエンジン始動と共に光輝いたメーターは水色に輝く 安っぽい子供騙しだったら如何しようという不安に駆られたが、幸いなことにそれは無用な心配だった。 試乗車には携帯しているだけでエンジンの始動が出来るアドバンスドキーシステムというオプションが装着されていたので、エンジン始動はキーを所持してステアリングコラム側面の回転式スイッチを回せば良い。 と言っても、今時この手のシステムはマーチにすら付いているのだから自慢する程ではない。早速エンジンを始動してみると、そのアイドリングの振動の無さは流石にロータリーで、8つのピストンが上下している振動を必死で取り除いているレクサスLSに比べれば、 オムスビが2つ回っているだけのローターリーエンジンは大した対策をしなくったって振動が少ないのは当然だ。これは必死で塾に通い、挙句の果てには高給な家庭教師を雇ってなんとか偏差値70をクリアしたお坊ちゃまを尻目に、 中学生の癖にタバコは吸うはバイクの無免許で捕まって家裁送りになるは、で当然勉強をしている様子は無かったが、受験直前に1ヶ月の特訓したら偏差値73を楽々クリア・・・ という例えは、チョッと違うかな??

エンジンを始動することで点灯したメーターパネルは幸いなことに黒いパネルに白い目盛というスポーツカーとしてはオーソドックスなモノで、こういうのを見ると最近のマツダがスポーツカーを作り慣れている事と、 日本のメーカーとしては欧州での販売比率が多いことも影響しているのだろう。3つのメーターは中央の一際大きいのが回転計で、目盛の余白にはデジタル表示 の速度計がある。 これも最近のポルシェと同様で、更に黒いメーターパネルに鮮やかな赤、黄、緑などで表示される各種警告灯などもポルシェやメルセデスSLKなど、最新の欧州製スポーツカーの雰囲気が溢れている。 ただし、表示の鮮やかさでは本家に多少劣るが、それでも国産車としては中々良いセンスだ。特にスポーツカーにとってはメーターは大切で、性能に関係ないとはいうもののスポーツドライブには欠かせないのがメーター、特に回転計だ。 そういう意味ではあくまで個人的な趣味の問題だが、ホンダS2000の回転計は見ただけでゲンナリする。ポルシェの場合は中央のデジタル速度計に加えて、左に小さめのアナログ速度計があるが、 RX-8の左側のメーターは油温計が装着される。回転計のもう一つの特徴はゼロ点が真下にあって、真上は最高出力発生点付近の7000rpmという 事で、これは5000rpm以上でも何のストレスも無く回し続けることが可能なロータリーエンジンの特性に合っている。 もっともロードスターも同じような目盛配置だから、これは最近のマツダのスポーツ系の方針なのかもしれない。
メーターの雰囲気に気を良くして、今度はセンタークラスタを見てみれば、何やらCDをモチーフにしたような円形の白い縁取りがあるオーディオ&エアコンユニットが目に入る。まあ、これも好き好きだが、いくらなんでもセンスが良いとは褒められない代物だ。その分、他社のパクリではないので誠実とも言えるが、これを何とかすれば更に良い内装になるのに惜しい。 それに、エアコンとオーディオが一体のパネルは社外品をアフターマーケットで装着する事は全く考えていないようだ。ナビはダッシュボート上部中央の蓋を起すとディスプレーが表れるという、BMW Z4のようなタイプだから、こちらは後付けが可能だろう。


一体のオーディオ&エアコンユニットのデザインは折角のセンスの良い内装の雰囲気をブチ壊してくれる。 しかもエアコンと一体だから社外品は取り付けられない。


奇妙な形のパーキングブレーキレバーの後方の肘掛をスライドさせるとカップホルダーが表れる。

いよいよ走り出すためにコンソール上の特徴的なパーキングブレーキレバーをリリースする前に足元の各ペダルを確認すると、第1印象はペダルが右に寄っていると感じる。 まあ、これは普段乗っているクルマのペダルが左寄りで、これに慣れているからとも言えるから人によっては全く問題ないのかもしれないが、更にペダル配置を眺めて見ればペダル間隔が結構狭い。この狭さはBMW130i並みだが、130はペダル自体は左寄りとなっている。 これはRX−8のエンジン搭載位置が目一杯後方で、その為に幅の広いミッションが運転席の脇まで来ていて、必然的にペダルスペースが右よりになったようだ。ということは、輸出用のLHD仕様の場合はペダルが左に寄ってしまう可能性があるが、 LHDのメリットとしてフットレストをタイヤハウスの上に設ける事が出来るから、案外上手い配置なのかもしれない。 商用掲示板では入れ替わり立ち代り左ハン叩き派と擁護派というよりも、輸入車(それも可也の高級クラス)派と国産車派で喧々諤々とやっているが、輸入・国産に関らずRHDのMT車はペダル配置にハンディがあるのは宿命的だ。 ところで、あの手の掲示板を見ていると、1千万以上の輸入車のリアルオーナーと国産の低価格車がヤットの輸入車妬み派の戦いのように感じる。夜の夜中に掲示板で口喧嘩(板喧嘩か?)している暇のある人は、何もしないでも 十分な収入が得られて暇でしょうがない資産家か、さも無ければマトモな仕事のないニートかフリーターの部類で、金が無いが暇はタップリある連中のようだ。市民 の大部分を占める中間的な所得者の場合は、昼間の仕事で疲れ果てて夜中に掲示板なんて見ていられないというのが実情だろう。

次に5速MTを1速に入れて、僅かにスロットルを踏みながらクラッチをユックリと繋いでいくと試乗車はスムースに発進した。レシプロエンジンに比べて低速トルクが少ないロータリーエンジンは、MTの場合に発進がやり難いと言われているし、 セールス氏も発進でエンストするお客さんが多いと言っていたが、難易度としてはボクスター(2.7)よりも相当に簡単だから、チョットしたクルマ好きなら全く問題はない。恐らく、試乗でエンストするユーザーはMTの経験が 少ないのではないか。 クラッチの踏力も適度で、最初は少し右に寄っていると感じたクラッチペダルの位置も5分も運転すれば体が対応するから、これまた問題無しだった。発進してからは4000rpm程度で順次シフトアップしていくと、 流石にロータリーエンジンの滑らかな回転はスムースさではレシプロで最高と言われているBMW6気筒を上回る程だ。 少し走ったところで、今度は1速で6500rpm程度まで引っ張ってみると、これまたウルトラスムースに回転は上がっていく。ただし、4000rpm過ぎからグングンと伸びていくような事は無く、極めて滑らかな事も仇となって、ワクワク感はBMWに 遠く及ばない。 また、フル加速時の音は音量的には意外と静かで、しかも音質は安物の大衆車エンジンのようだから、この点でも胸の空くようなフィーリングでは無く、 RX−8をスポーツカーとしてみれば物足りない面でもある。加速性能はサルーンで言えば現行のBMW325iよりも体感的には速い程で、 フェアレディZよりは多少遅い程度だから、余程の刺激を求めなければ十分過ぎる程だ。しかも、試乗車は210psのベースグレードだから、更に高性能を求めるならば40万円を追加して250psと6MTのTypeSを買えば良いだろう。 それでも満足できないユーザーは同じ300万円クラスで加速命のランエボやインプSTIか、一千万円の大台を超えてポルシェカレラでも選ぶしかないのだが。
試乗したベースグレードの5MTは短いストロークと適度な操作力で実に良いフィーリングで、これに比べるとBMW130i(ZF製?)はストロークが長くグニャグニャしていているし、 ポルシェボクスターの5MT(VW製)はカチッカチッというフィーリングは良いとしてもRX−8程にはストロークが短くなく、操作力も結構大きいので素早いシフトが出来ない。そして、ボクスターの6MT(ゲトラグ製)もストロークではRX−8程短くはないし、 フィーリングは本当にリンクが繋がっているのかと思うくらいに軽く、まるで只のレバーだけを動かしているようだが、そのお蔭もあって素早いシフト操作は極めて簡単 で、自分がGTレースのドライバーになったかのように一瞬のシフト操作を出来る良さはある。 まあ、シフトフィーリングなんていうのは操舵フィーリング以上に個人の好みが反映されるようだが、RX−8の5MTは抜群には違いない。


中央の大きな回転計とデジタル速度計の構成はポルシェを思い出す。メーターの質感や雰囲気も最近の欧州製スポーツカー的で国産車としては中々の出来だ。


ペダルは右よりで、間隔も狭いが慣れれば問題ないだろう。目一杯後方に下げたエンジンの為に、左足は右よりになる。

RX−8をスポーツカーとして見た場合に、動力性能以上に気になるのが操舵性だろう。加速性能だけならば試乗車に勝るクルマは国産でもいくつかあるが、軽量&コンパクトなロータリーの特徴を生かして エンジンを目一杯後方に搭載した、所謂フロントミッドシップレイアウトのお蔭で、 フロントエンジンではBMWサルーンが大いなるコストを掛けて実現している前後重量配分50:50を苦も無く実現しているから、操舵性は興味のあるところだ。 結論を先に言ってしまえば50:50のご利益は十分で、冗談抜きにBMW3シリーズ的な操舵感を持っている。
RX−8の着座位置は一般的なサルーンよりは低いが、ボクスター/カレラなどのスポーツカーよりは高い。しかし、スポーツカー的雰囲気は十分に感じられるし、この感覚はサルーンベースのランエボ やインプ等では味わえないものだ。前述のように国産車としては出来の良いシートに座り 、前方を見ればボンネットは見えないがフェンダーの峰は見える感覚もこれまたポルシェ的だ。 どうも随所に感じるRX−8のポルシェ的な雰囲気は偶然なのか狙いなのか?この比較的低いポジションで操作するステアリングの操舵力は標準的で中心付近の不感帯も少ないし、良く言えば これまたBMW的だ。 ただし、BMWに比べて路面からのインフォメーションが少ないのが残念だが、本物も先代3シリーズ(E46)辺りをピークにして徐々にダイレクトなインフォメーションは低下ぎみだから、時代を考えれば特に文句は出ないだろう。今回は残念ながらワインディング路のたぐいは走行できなかったので何とも言えないが、片側2車線の道路で前後にクルマが いないチャンスを見計らって急激なレーンチェンジを繰り返したが、 その挙動はかなり安定していて、これまた旧3シリーズに近い感覚だった。ステアリングを切った時のフロントの動きは一般的な国産車に比べて、遥かに軽快だしレスポンスも良いから、昔は飛ばし屋だったお父さんが偶のドライブで遠出をした時に、峠で楽しむには実に良い特性だ。 ベースグレードである試乗車に装着されていたタイヤは225/55R16と今の時代となっては並みのサルーン程度のサイズだが、これが幸いして実に乗り心地が良いし操舵感も適度にマイルドだから、このクルマをスポーティなファミリーカーとして使い、イザと言う時には本格的スポーツカー並みに峠を楽しみたいという欲張った要求にはピッタリだ。 勿論、これで物足りないユーザーはTypeSを選べば良い。通常の路面での乗り心地の良さともに、大きな段差などのガツンッという大入力に対するサスの追従だって悪くないが、この時にはボディ後方がブルンっと振動するのを感じる。普段の走行では剛性感は十分あるRX−8のボディだが流石に大きな衝撃ではBMWサルーンのように高い剛性のクルマのようにはいかないようだ。 もっとも、このような状況でRX−8より悪い国産車は幾らでもあるから、気にしなければ全く問題にはならない。
ブレーキも最近の国産車の例に漏れず十分な合格点を与えられる。適度なストロークの遊びを過ぎると、非常に軽い踏力でガツンッと食いつくように効くし、そこから先はストロークが短くガッチリとした剛性感溢れる効き味もまたBMWに良く似ている。 今から7年ほど前にBMWがE46を発売した頃から国産各車は欧州の代表車種を色々研究したという噂もあるから、そうだとしたならば最近の国産車のブレーキ性能の進歩は、この頃からの地道な研究の成果が出た事になる。 このRX−8のようなストロークの短いブレーキフィーリングに対して、最新の欧州車はストロークを延ばす方向に向かっているようだが、原因の一つにキャリパーのアルミ化による剛性の低下があるような気がする。まあ、ストロークは好みの問題もあるし慣れもあるから、基本的に素性の良いブレーキなら毎日乗っているうちに足が特性を覚えて、何の問題もなく運転出来る ので心配は要らない。 なお、このブレーキが効きすぎてスポーツドライビングには適さないと感じる走り屋諸氏には、マツダスピードから発売されているスポーツパッドを勧める。街のチューニングショップが扱う何処で作ったか判らない怪しげなパッドと違い、 マツダのデーラー扱いのれっきとした純正オプションだから安心して使える。


ベースグレードの試乗車には225/55R16タイヤが装着されていた。(写真はリア)


フロントタイヤ&ホイールもリアと共通。 キャリパーは鋳鉄製のピンスライド方式という極一般的なもの。

一度でも欧州車オーナー、取り分けベンツ・ビーエムに代表されるプレミアムブランドを所有すると、国産車には無い良さに浸るとともに、それ以後は余程経済的な変化がない限りは国産車に戻ることは 無いのが一般的だ。 更には国産車デーラーとも疎遠になるし付き合う友人達も同じような境遇だとすれば、国産車の情報は完全に閉ざされた国産車鎖国状態になってしまう。 それでは困るので B_Otaku の試乗記では極力国産車も扱うように努力はしている。結果としては以前に比べれば300万円級以上のクルマは結構良くなってきた。 特に通称Eセグメントと呼ばれるメルセデスEクラスやBMW5シリーズのクラスは、先代のフワフワ・ヨレヨレのコンセプトを捨ててゼロクラウンとなってからのクラウンや、 伝統のセドリック/グロリアという名を捨ててまで心機一転を狙ったフーガなど、一昔前なら比べるなんてチャンチャラ可笑しかった国産オヤジグルマが、今では1世代前のEや5ならば、 それ程大きく差がない程度までに進歩した。まあ、そうは言っても未だ超えられない壁はあるが、値段の安さを考えれば、これらを選ぶのも十分に正解だ。 ところが、BMW3シリーズに代表されるDセグメントと呼ばれるクラスでは、国産車といえば割高のレクサスISのみで、強いて言えばレガシィGTを加えた いという程度だ。それ以外では大きさから言えばプレミオ/アリオンやブルーバードシルフィなどで、3シリーズやCクラスと比較するのは全く無意味なクラスになってしまう。 そんな現状で気が付いてみれば250万円で4ドア4シーター、性能から言えば十分にスポーツカーという実に有りがたいクルマでもあるRX−8という存在は実に勧められる内容だった。シルビア(S15)を最後に絶滅してしまった200万円代中ごろのFRスポーツクーペというカテゴリーの代用となるクルマを見渡してみれば、コンセプトは多少異なるとは言え、このRX−8が唯一の存在となる訳でもある。 となれば、若い車好きが以前の180やシルビアのように使うことも、その昔はシルビアに乗っていた中年の家族持ちがファミリーカー(勿論家族を騙して)兼スポーツカーとして買うことも、 更にはベンツ・ビーエムのオーナーがセカンドカーとして116iやゴルフGTIの代わりとしても勧められる。事実、勤務先の後輩でBMW325iツーリング(E46)とスマートを持っているDINKS夫婦が、 RX−8に試乗てエラく気に入ってしまい、当初の候補だった130iではなくRX-8 TypeSを本気で考えているようだ。130iを考えているユーザーならTypeSの試乗をしてみる価値十分にあるだろう。 性能的には同等だし、実用性だってあまり変わらない。RX−8の最大の欠点であるブランド力の無ささえ気にしなければ、これは極めて良い買い物と思うのだが。

たった250万円の、しかもマツダ車が内装はポルシェの雰囲気で、走りはBMW325i並みだって?ここまで読んだあたなは「 B_Otaku の奴、マツダから何かもらったんじゃないのか?」なんて思うかもしれないが、単なる個人HPの管理者にカーメーカーが接待する訳がないので御心配なく。 いや接待のお申し出があれば何時でも応じますが・・・・・。