VWパサート ヴァリアント 2.0T (2006/8/19)
※この試乗記の内容は2006年8月時点のもので文中の価格や状況は現在とは異なります。

前回の試乗で思いの外結果が良かった新型パサートV6、3.2、4モーションに気を良くして、今度は2.0ターボに試乗した。前回のセダンに対して今回はヴァリアントと呼ばれるワゴンボディだが、実際に欧州でもパサートはセダンよりワゴンの方が売れている。と、言うのはこじ付けで、実は偶々2.0Tの試乗車にセダンが無かったのが本当の理由だ。

現在、ヴァリアントには2.0(335万円)と2.0T(381万円)の2グレードがあり、これはセダンに対して16万円高となる。今回試乗したのは2.0Tだから価格は381万円と思うのは間違いで、実は2.0Tの場合はレザーシート、ポプラウッド内装、バイキセノンライトなどのセットオプション(36.65万円)付きが即納品で、このオプションを付けない標準仕様は受注生産品として可也の納期がかるそうだ。従ってヴァリアント2.0Tの実際の価格は約418万円となる。これは2.0にも言えることで、335万円に対してバイキセノンライトなどのセットオプション14.7万円が付くので、実際の価格は約350万円となる。

最近の輸入車は、米国のように標準価格には最低限の装備のモデルを設定して、実際に買う時には常識的な装備を装着するので、標準価格のモデルは実際には存在しないという手法を日本でも行っている。だから、何も知らないで標準価格を鵜呑みにすると、実際には全くの予算不足に陥ったりする場合がある。

なお、現在2車種のパサートヴァリアントは、近々V6 3.2 4モーションが追加されるようだ。セダン(439万円)に対して16万円高とすれば、予想価格は455万円となる。

パサートヴァリアントは全長4,785mmで、これはセダンと全く同一となっている。それなのに、真横から見たヴァリアントのリアーオーバーハングは、ずいぶん長く見える。これはリアの後端が比較的立っていて、ファッシション性よりも実用性を狙ったデザインのために、実際より長く見えるのだろう。パサートヴァリアントのようなDセグメントワゴンの最近のトレンドはメルセデスCクラスワゴンやBMW3シリーズツーリングのように、リアウインドウがエラク寝ていて、ワゴンとしての実用性よりもファッション性を重視している 傾向にある。、これらに比べるとパサートはワゴンとしての高い積載性と、ライバルに比べて安い価格設定から、実用重視のコンセプトである事が判る。

現行ヴァリアントはベースグレートにあたる2.0が直4-2L-150psで、中間グレードの2.0Tはインタークーラー付ターボにより200psを発生する。そして、上級グレードのV6は前述のように近日追加される予定だ。

2.0Tの内装は基本的には前回試乗したV6と同じで、高級感のあるレザーシートやダッシュボート全体を広く覆うウッドパネルなど、今や”大衆車”という車 (社)名が白々しく感じるほどの高級感がある。VWのシートの出来の良さは常々多くの人が指摘する点だが、先日動力性能に感心したレガシィなども、VWくらいのシートを付ければ文句はないのに と思えば残念でならない。日本のシートメーカーも当然研究はしているのだろうが、何故か何時まで経っても追いつけないのは何とも歯がゆい物だ。

セレクターをDに入れていよいよ発進してみると、第一印象は当然ながらV6に比べて低速からのトルク感は少ない。とは言え、街中での走行には全く文句のない性能ではあるが、V6のトルクと比べると少し 物足りない。当日は外気温度計が35℃を示すような暑さだったので、エンジンの暖まるのも早い。そこで、いよいよフルスロッルを踏んでみる。ターボチャージャーによる過給が本格的に始まった辺りから、決して煩くはないが適度なエンジンのビートと共に加速をしていく。 この時の音は何となくレガシィの2Lターボにているが、加速はレガシィに比べるとイマイチだ。これは同じ2Lターボとは言ってもパサートの200psに対してレガシィは260ps(ATの場合)とチューンの程度がまるで違うことが原因だろう。パサート2.0Tの加速は他社で言えばBMW323iあたりと同じ感覚だから、目を見張る速さはないが実用上は十分という程度だ。 パサートV6がシーケンシャルシフトのDSGを搭載したのに対して、2.0Tはオーソドックスなトルコン式の6速ATであることも、2.0の動力性能がイマイチに感じる理由かもしれない。ただし、2.0のATだって決して悪くはない。DSGの出来が非常に良くて、そのスムーズさはトルコンATと比べても遜色ない点でも、V6と比較される2.0Tは辛いものがある。

走り出して最初に感じるのはV6と比べてステアリングが軽いことだ。良く言えば軽快な操舵感と言うことになるが、言い換えればV6のズッシリとした安定感を想像すると完全に裏切られる。 V6は4WDで2.0TはFFという大きな違いがあるが、V6の場合は4WDと言っても常に前後に駆動力が配分されるのではないから通常はFFと変わらないのだが、それなのに マルでフィーリングが異なる。 この辺は好みもあるが、V6がアウディクワトロにも似た無類の安定感があるのに比べれば、2.0Tの軽さはV6の印象が抜群だっただけに期待外れの感がある。 同じVWのFFであるゴルフGTIの場合は、2.0Tよりはドッシリとしていたが、これはパサート2.0TとはVWの考えるコンセプトが違うからなのだろうか。

同じパサートのV6の安定感が頭の中に残っているために、どうしても不利になる2.0Tだが、このクルマだけを考えれば決して悪くはない。コーナーリング特性も素直で普通の人が普通に乗るには全く問題はない。と、言うことは、ハンドリング云々を問題にするような用途には適さないし、そういうユーザーには勧めない。 V6の試乗結果で唯一不満に感じたのだ、硬くゴツゴツした乗り心地だった。では、この2.0Tはと言えば、これも結構硬い。V6よりは少しマシではあるが、このクラスのライバルであるBMW320iよりもゴツゴツするし、乗り心地の良い事で評判のメルセデスC180には大きく水を開けられている。 この硬いサスペンションの設定は、VWのポリシーなのだろう。

ブレーキはと言えば、これも欧州車としては標準的な、軽い踏力で良く効くブレーキだから通常の使用には全く問題はない。一部の欧州車はRHDの場合、左に置いたマスターシリンダーを長〜いリンクで作動させることで、ブレーキフィーリングが最悪 という例があるが、VWはそんな事はしていないら安心だ。

ところで、通称「右ハンドル」の事をRHDと表記するが、さるBBSを見ていたらRHと書いている勘違い君がいる。多分、その人は右のRとハンドルのHでRHと思っているようだが、これ では知ったかぶりの大恥掻きだ。クルマの場合、進行方向に向かって中心線から右側をRight Hand、左側をLeft Handと現す。まあ、日本語で言えば「右手」、「左手」という感じで、観光バスのガイドさんが説明する時に使うアレと同じだ。クルマの部品と言うのは多くが左右対称になっている。サスペンションのアームやブレーキなど、必ず右と左が存在するから、それをRHとLHで区別する。さて、RHDとは何かと言えば、”D”はDriveのDで、要するにクルマの右側で運転するクルマだからRight Hand Drive、略してRHDと表記する。ハンドル=ステアリングホイールというのは日本だけのようだ。まあ、それを言ったらFFは 英語ではFWD(Front Wheel Drive)とか、和製英語は数多く存在するのは、皆さんご存知のとおりだ。まあ、こんな物は如何でも良いのだけれど、FFが専門用語であると誤解して偉そうに能書きを垂れるのだけは勘弁してもらいたいものだ。

前回のパサートV6の試乗結果は全く予想を反して驚くべきコストパフォーマンスから、硬い乗り心地とステータスの無さを除けば、もう無条件で薦められる近来稀に見る掘り出し物だった。 そこで気を良くして試乗した今回の2.0Tはと言えば、勿論十分に良いクルマではあったが、ライバルに比べて飛びぬけて薦められるいう程ではなかった。 ヴァリアント2.0Tの事実上 418万円という価格は、C180ワゴンアヴァンギャルドの430万円、BMW320iツーリングの437万円とほぼ同等となる。エンジン出力から言えばC180の143psや320iの150psと比べて、200psのパサート2.0Tは、C230(203ps)や325i(218ps)に迫る のだが、これらは何れもV6だから比較をするには無理がある。価格的にはC230ワゴンは535万円、325iツーリングは550万円だから、2.0Tをパワーの面だけで比較すれば百万円安いという事になるが、この比較はチョッと苦しい。パサートV6はBMW330iと比べても結構勝負になるほどの内容だ ったが、2.0Tを325iと比べても値段 以外には勝ち目は無い。

要するにパサート2.0Tは悪いクルマではないが値段なりの内容で、そうなると400万円の輸入車という分野での勝負になる。ここは、少し高給取り (と悦に入る)サラリーマン家庭が、これまた少し無理をして、と言うか、表現は悪いが見栄を張って選んだり、クルマ好きの亭主が家族を騙して欧州車のフィーリングに憧れて買うという、超激戦区だ。見栄を張りたいユーザーにとっては、ベンツ・ビーエムのステータスが大事だし、クルマ好きのオヤジにとってはFRによるニュートラルなコーナーリングで、偶には駆け抜ける喜びを味わったり、 はたまた天下のメルセデスの鬼のような直進性を味わったりするのが大事なのだ。郊外の新興私立中高一貫校の説明会にC180ワゴンならば鼻高々だが、パサートヴァリアントじゃあチョッとねぇ。

同じパサートのV6との価格差は事実上37万円。見栄を張らずに内容勝負。クルマがわかるユーザーの賢い選択 (と他人も思ってくれる保証は無いが)ならば、如何考えてもV6を買うのが正解だ。