PORSCHE CAYMAN (2006/12/3)

 




Boxster


CaymanS


Carrera




 

    
     ボクスターとボクスターSはフロントセンターのエアインテークの有り無しの違いがあるが、
     ケイマンとケイマンSとの外観上の違いは殆どない。
     ケイマンのフロントセンターのインテークはダミーで、空気抵抗が増える程度だが格好は良い。

ボクスターのクーペ版であるケイマンは上位モデルのケイマンSが昨年末より発売されたが、ベースグレードのケイマンは約1年遅れとなった。 去年の時点では、ケイマンはボクスターより高性能となるのでエンジンも1サイズ上の3.0ℓになるという噂が主流を占めていた。 ところが、蓋を開けてみればケイマンはボクスターと同じ2.7ℓ、それどころか、今まではケイマンSの3.4ℓに対してボクスターSは3.2ℓと動力性能を差別化していたが、07モデルからはボクスターSもケイマンSと全く同じ3.4ℓが搭載される。 要するに、ケイマンは完全に屋根付きのボクスターに徹底した訳で、これで4種類から2種類のエンジンに統合した事になる。この事によるコストダウンは少なくは無いと思うが、この辺の考えはトヨタにシッカリと仕込まれたようだ。
その07モデルの2.7ℓは06モデルに対して可変バルブシステムに上級モデル(カレラ、ケイマンS)と同様のバリオカムプラスが採用されたことにより 最高出力は5psアップの245psとなった。 そして、ケイマンの価格はと言えば5MTのベースモデルが633万円で、これはボクスターの579万円に対して57万円高い。既に言い尽くされた感があるが、ポルシェの場合は世間の常識とは 逆にクーペがオープンより高い価格設定になっている。 ケイマンSの時点では、エンジンが0.2ℓ大きいことで何とか正当化できたが、今度は同排気量の同じエンジンだからどうするのかと思ったが、結局はクローズドボディのケイマンはオープンボディのボクスターより走行性能が上なのだから、 価格も高くて当然という理由をつけたようだ。 成る程、ああいえばポルシェと言いたいくらいの屁理屈ではあるけれど、これで誰も文句を言わないのが、またポルシェの凄いところかもしれない。 まあ、そんな事を言ったら、部品点数で55%、価格比でも40%を共用していると公言されているカレラは、ボクスターの約2倍近い価格をつけてもユーザーは納得しているのだから、今更ケイマンが割高だろうが、ボクスターが安過ぎようが関係ないのかもしれない。

今回の試乗車は5MTのLHD(左ハンドル)で、目立ったオプションはバイキセノンライト(16.5万円)位だったので、車両価格は649.5万円となり、総額は700万円を越えてしまう。 試乗車の塗装色はスピードイエローというド派手な黄色で、なかなかポルシェらしくて良い色ではあるのだけれど、自分で買うとなると躊躇することになる。この塗装色は数少ないソリッドカラーなので、 エキストラコストは発生しないが、メタリックカラーの場合は更に14.5万円也の追加となる。
外観上でケイマンSとの違いはリアの排気管の形状がケイマンSのセンター2本に対して、ケイマンは1本という点と、ホイールから覗くブレーキキャリパーの色がケイマンSの赤に対してケイマンが黒であるという点くらいだ。 この差別の方法はボクスターもカレラも共通で、ベースモデルのキャリパーは黒(アルマイト処理)に対してSの場合は赤(塗装)であり、排気管の出口はSがデュアルになるというように統一されている。 それにしても、ケイマンのフロントスタイルは挑戦的な顔をしていて、なるほどワニのようだ。しかし、よく見ればボクスターとの違いは樹脂製のフロントカバーのエアインテイク だけで、この違いだけで、これ程までに印象を変えられるデザインも大したものだ。 ボクスターと基本的には共通なフロントに対して、オープンとクーペという関係からリアの眺めは多いに異なる。側面と後方からのケイマンの眺めは実にカッコが良く、いかにも速そうだ。同じくクーペであるカレラ がエレガントさを感じるのとは大きく印象が異なる。 ボクスターを嫌うマニアの言い分はソフトトップを閉じたスタイルが、ケイマンに比べてカッコ悪いというものが多い。確かにボクスターに限らず、オープンボディというのはソフトトップを閉め た(上げた)状態のスタイルというのは決してカッコ良くはな い。 ボクスターにしてもオープンの状態が本来で、ソフトトップを閉めているのは、あくまで仮の姿だからクーペと比較すると分が悪い。


テールゲート付きのクーペはカレラとも違う後ろ姿を見せる。勿論ボクスターとは全く異なる。


この写真からはボクスターなのかケイマンなのかは殆ど判らない。


ケイマンの排気管はボクスターに比べて角ばっている。ケイマンSは二本出しなのはボクスターの場合と同じ。

 


ケイマンに比べて丸みを帯びた楕円形の排気管を持つボクスター。

 

いよいよ乗り込む為にドアを開ければ、そこに見えるのは見慣れたボクスターそのものの光景だ。試乗車のシートは座面にアルカンターラを使用した標準品で、これもボクスターそのもの。 試乗車の内装色はブラックだったが、ケイマンの場合は5種類の色の中から自由に選べる。ボクスターだと更にソフトトップの色も選べるので、実際には多くの組み合わせが可能となるのは流石にポルシェで、これは原則として注文生産だからでもある。座ってみれば、 これもまたボクスターそのもので、唯一の相違点はメーターのフードの形状が微妙に違う事だが、これも実際にはステアリングホイールの陰となり、余程良く見ないと判らないだろう。

エンジンを始動した第一印象は06ボクスターに比べて静かなことで、元々排気量の小さいボクスターのアイドリングは、基本的に同じエンジンをボア・ストロークともに拡大したカレラに比べて振動は少ないのだが、 それにしても静かだ。試乗車には標準のVW製5MTが搭載されていた。ボクスターもケイマンもSが付く場合はゲトラグ製の6MTとなるが、2.7でも6MTはオプションで装着できる。 ただし、単独の設定は無くスポーツパッケージとしてPASMと抱き合わせになってしまうのが残念だ。B_Otaku は既にボクスターの5MTに試乗しているが、今回新たにMTに乗ってみると、 LHD(左ハンドル)でもMTの場合は結構ペダル配置という面では厳しいことを再認識する。すなわちLHDの場合はRHDと異なりアクセルとブレーキが右寄りとなる。 アクセルは少し足を開くようになるが、人間の足は内側に寄せるよりも外に開くほうが楽なので、これは問題ない。しかもブレーキは丁度正面になるので、実に自然な形で踏むことが出来る。 これに対してクラッチペダルは左足の中心から右寄りのために慣れないと疲れる傾向がある。対してRHDのMTの場合はペダルが左よりとなり、アクセルはまだ良いにしても、更に左にあるブレーキは右足を中心よりも左に捻ることになり、 操作しづらいし疲れるというデメリットがある。しかし、クラッチは左足を自然に出した位置にあるので操作しやすく、素早いクラッチワークが可能なのは実に楽しい。 このようにRHDもLHDも一長一短だから、 あとは本人の好み次第だろう。ただし、慣れればどちらもそれ程の問題はないのも事実だ。
次に2車線の国道に出て、一般道としては速い流れに乗ってみたが、ケイマンのエンジン音の静かなことに変わりはない。06ボクスターは常にヒューン・ウィーンというメカ音と、チョット右足に力を入れたらたちどころにヴォーッという爆裂音がするのに対して、 ケイマンはヒューンもヴォーッもない。それでも、一般の乗用車から比べれば比較にならない程の迫力はあるのだが、06ボクスターに比べると寂しいものがあるのも事実だ。同じ07モデルでもボクスターはどうなのだろうか?ケイマンと同様に静かになってしまったのか、 それともケイマンとは音質のチューニングが異なるのか。そういえば、初期のケイマンSの音はボクスターより遥かに凄まじかったから、07ケイマンSがどうなったのかも興味がある。


メーター自体はボクスターと全く同一。室内も同じだが、唯一の違いがメーターフードの形状。

 


こちらはボクスターのメーターフード。左の写真と比べると違いが判る。

 

試乗車に装着されていたタイヤ&ホイールは標準の17インチで、デザインはボクスターと異なるがサイズは同一だ。フロント205/55ZR17、リア235/50ZR17という最近の傾向から見れば大人しいタイヤを履いていることもあって ケイマンのステアリングの挙動は意外とマイルドだ。 前回のケイマンSが冷や汗たらたらの超緊張ものだったのに比べれば、これが同じシリーズのクルマかと思うくらいにキャラクターが異なる。マニアにとって何より一番興味があるのは、オープン ボディであるボクスターとの剛性の違いによりフィーリングにどのくらい差があるかという事だろう。 ケイマンの場合、少し荒れた路面においてもシッカリとサスの振動を吸収し、ボクスターに比べてはるかに高い剛性であろうことは容易に想像が付く。実際にケイマンなら路面の継ぎはぎでもビシッと一発で収まるのが、 ボクスターの場合は特にトップを上げたクローズドの走行では耳の後ろでソフトトップがギシッと音をたてる。ボスクターの場合むしろオープン走行では剛性の低さは気にならないことから、やはりオープンボディでソフトトップを閉めるというのは仮の姿で、 本命はあくまでオープン走行にあるのだろう。試乗したケイマンの乗り心地はPASMが未装着にも関わらず、PASM付きのボクスターよりも寧ろ良いくらいで、これはボディ剛性の高いこともあるが、 サスのセッティング自体が柔らかいのではないか。何故なら、ボディ剛性なら更に高いカレラのサスはもっと硬かったからだ。ただし、比較したボクスターもカレラも06モデルだったから、 これらも07モデルは同様にセッティングが柔らかくなっているのかは現時点では不明だ。

さて、ここまで読んでくれたあなたは、「なぁ〜んだ、ケイマンって、大したこと無いのか」と誤解しそうなので、ここで一言付け加えておこう。今回のインプレッションは、あくまで06モデルのケイマンSとボクスター、 そしてカレラと比べた相対的な感想だから、決してケイマンが大人しい普通のクルマという訳ではない。大人しいケイマンと言っても他社の2シータースポーツと比べたら、これは、もう次元の違う世界であることには変わりはない。 ドライサンプの水平対抗6気筒をミッドシップに載せて、ザックスやビルシュタインのコイルやダンパーにブレンボーのモノブロックキャリパーとドリルドローター、レカロ製のシート等等、 ストリートカーとしての極限のような出で立ちの987は根本的に他車とは違う。これに近いポリシーや乗り味のクルマは、世界中探しても無いのだという事も事実だ。


フロントには6.5J×17ホイールと205/55ZR17タイヤが装着される。


リアは8J×17ホイールと235/50ZR17タイヤとなり、これはボクスターと同サイズだがホイールのデザインは異なる。

 

06ケイマンSの凄まじいメカ音や、手に汗握る操舵特性に比べれば、今回試乗したケイマンは拍子抜けするくらいにマイルドだった。 とは言っても他車に比べれば、これぞポルシェというくらいの独特のものは持っているのだが、何しろ06ケイマンSがあまりにも凄まじかったので、如何しても比較してしまう。 07ケイマンSに乗っていないので何とも言えないが、恐らく06モデルよりはマイルドになっているだろう。ただし、ボクスターSの基本的な味付けは、06モデルを継承しているらしいので、 この辺はケイマンとケイマンSの味付け自体が、大きく違うのではないか。一方では、ケイマンSの06モデルは将来はヴィンテージ物と呼ばれるのではないかという話もある。
ここで3.4ℓの話は一先ず置いておいて2.7に限ると、多くの輸入車ファンの興味は、自分で買うとしたらボクスターとケイマンではどちらを選ぶべきかという事だろう。 単純に走りという事を考えれば、剛性が高いクーペボティのケイマンの方が良いに決まっているし、スタイルだって誰が見てもカッコ良く決まっている。 それに保管や防犯上の問題、更にソフトトップの耐久性を考えれば、オープンカーを買うのは勇気がいる。実際にB_Otaku 自身も、もしもボクスターとケイマンが同時期に発売されていたら、 ケイマンを選んだかもしれない。しかし、ボクスターで一度でもオープン走行の世界を知ってしまうと、実用上の不便さや剛性面での不利なことから走行中に荒れた路面でギシギシするなどのハンディは、オープン走行の気持ちの良さを考えれば全く苦にならないのも事実だ。 この事はケイマンにとっては厳しい現実が待っていることになる。すなわち、ボクスターは絶対性能に対して、オープン走行の楽しさと言う別の面を持っているので、 911(カレラ)系とは別のカテゴリーのクルマとして独自の位置を築けたが、ケイマンの場合は廉価版のカレラという位置づけとしての世間の認識があるのではないか。 実際にカレラとボクスターを乗り比べても、ボクスターをオープンにした時の楽しさはカレラでは味わえないものがあるから、もしもボクスターユーザーがカレラに買い換えたなら、 その剛性感と上級感に満足すると同時に、何か失ったものを感じるのは間違いないと思う。これに対して、ケイマンの場合は、ミッドシップエンジンによる軽快な操舵感もあるが、それよりもカレラの上級感覚にはあらゆる面で勝てない気がする。
この商品構成の上手さは流石にポルシェで、ケイマンの発売によりドル箱のカレラの売れ行きが落ちるような間抜けなことを、する訳がない。 ボクスターもケイマンも、今現在の市販車として、ある面コストパフォーマンスは抜群でもあるから、どちらを選ぼうが満足度は非常に高いことは事実だ。 しかし、ポルシェはちゃんとマニアの事を考えて、決して“あがり”にはしてくれない。ラインナップにはそれぞれ、確信犯的に多少の不満点を残してある。 ミッドエンジンの軽快な操舵性とオープン走行の楽しさ、それにも増して抜群の剛性と、更には最高の動力性能を求めているうちに到達するのは、 ズバリ、カレラGTとなってしまう。しかし、あの高価格はハンパじゃないし、手に入れたとしても、一体何処で走るのか?そういう意味ではカレラどころかケイマンだって、 現実に今の日本で真価を発揮する場所は、公道では滅多に無い。たとえあったとしてもレーダー探知機に耳を澄ませ、変なアンテナを立てて安っぽいホイールを付けた国産セダンが いないかと細心の注意も必要となる。それでも、人間の欲望は、ボクスター/ケイマンに慣れると、その動力性能に物足りなくなり、ボクスターS/ケイマンS、いやこの際カレラあたりが欲しくなる。 それで、カレラを手に入れたとしても、次はカレラS、いやGT3やターボに目がいって、それを手に入れればカレラGTが欲しくなる。 カレラGTこそ究極かと思いきや、今度は本物のヒストリックレーシングカーあたりを狙い始めて、917や956なんていうのを本気で探し始める。 まあ、実際にそこまで到達することは先ずないが、それにしてもクルマ好きというのは際限がないものだ。
ケイマンもボクスターも、ポルシェ地獄の一丁目。判っちゃいるけど抜けられない。そして、今日もまた、ポルシェセンターには地獄に向かう可哀想なユーザーが予約に訪れる。