Volvo XC60 (2018/2) 後編 その2


  

今回の新型 XC60 の動力性能は BMW とも対抗できる位の性能だった訳で、さてこのエンジン、一体どこから供給されているのか、と思ったら何とボルボが自社開発したもので "DRIVE-E" と命名された新世代のエンジンだった。実はこの4気筒ガソリンエンジンと多くの部品を共有するディーゼルターボも用意されていて、更にこの4気筒 2.0L のパーツを使ってシリンダー数を増減する事で各種のバリエーションを構成するモジュラーシステムを構成しているという。って言う事は BMW の最新モデルであるB系列のエンジンと全く同じ思想と方法だった。尤もこのモジュラーシステムは旧世代のボルボエンジンも同様のシステムを構成していて、4、5、6気筒を共通部品でラインナップしていたが、あれはあまりに出来が悪かった。それらのエンジンはポルシェデザイン研究所が手掛けたモノで、これをポルシェ自動車が開発したと勘違いして悦に入っていたボルボオーナーもいたようだ。

エンジンパワーはこのクラスの SUV としては充分なのは判ったが、さてそれでは巡航中の AT によるシフトスケジュールは如何だろうか? XC60 のトランスミッションはオードドックスなトルコン式の 8AT だからノーマルモードでの一般道の巡航では 1,500rpm 前後を維持して何のストレスも無く、例えば BMW X3 と比べてもそん色は無く、またスポーツモードを選べばシフトアップポイントは上昇するが、このモードはボルボのイメージ通りでスポーツと言う割には大人しい特性だった。まあ最近の電子制御は学習機能があるから、ボルボの試乗をするようなドライバーは大人しい走りが多い事で制御側も一番穏やかな特性を選んでいるのかもしれない。

XC60 には当然ながらマニュアルモードがあるので、今度は AT セレクターを左に押してマニュアルシフトを選択する。パターンは押してアップ、引いてダウンという BMW とは逆でポルシェと同じパターンだが、しかしこれって未だに統一されていないが、文句が出ないのは誰も実際に使わないからではないか。まあそれはそれとして試乗した XC60 にはパドルレバーが付いていなのでマニュアル操作は AT セレクターを使うしかない。それで実際にアップ、ダウンを試してみると、そのレスポンスはトルコン AT としては充分に速い部類であり、BMW と同等のレスポンスだった。BMW の AT は ZF 社製が多いが、もしかして XC60 も同じく ZF 社から購入しているのかもしれない。

ここで新旧のエンジンルームの中を比較してみる (写真47) 。新型のガソリン版である T5 のエンジンは今や定番となった 2.0L ターボ、所謂ダウンサイジングエンジンで、最高出力が 254ps / 5,500rpm 、最大トルクは350N-m / 1,500rpm 〜 4,800rpm であり、これは前述のようにライバル他社と比べてもハイパワーの部類に入る。なお未だ発売されていないが基本パーツを共有するディーゼルエンジンを搭載した D4 も仕様は発表されていて、最高出力が 190ps / 4,250rpm 、最大トルクは 400N-m / 1,750rpm 〜 2,500rpm と、これも同じく 2.0L ターボディーゼルである BMW X3 xDrive 20d の 190ps / 4,000rpm , 400N-m / 1,750rpm 〜 2,500rpm とほぼ同じとなっていて、これは偶然と言うよりもボルボがライバルの BMW に合せたという気がする。

対する旧モデル前期型では、最初は T6 SE AWD というモデルのみが発売されたが、このエンジンは直列 6 気筒 3.0L ターボで 285ps / 5,600rpm , 400N-m / 1,500rpm 〜 4,800rpm というものを強引に横置きしていた。なおその後はシリンダーを一つ減らして直列5気筒 2.5L ターボで 254ps / 5,400rpm , 360N-m / 1,800rpm 〜 4,200rpm というから今回の 2.0L ターボとほぼ同じ性能だが排気量が大きい T5 が主流となっていた。ここで気が付くだろうが、今回のモデルが何故4気筒なのに T5 かといえば、5気筒ターボの T5に相当するモデルだからという事だろう。

写真47
新型 T5 は 2.0L ターボ、所謂ダウンサイジングエンジンで254ps / 5,500rpm 、は350N-m / 1,500rpm 〜 4,800rpm と中々のハイチューンだ。

旧型では発売当初は直列 6気筒 3.0L ターボ 285ps / 5,600rpm , 400N-m / 1,500rpm 〜 4,800rpm という大きなエンジンを強引に横置きしていた。

このように動力性能的には充分に満足できるものだったが、さて次に操舵性と旋回性能は如何だろうか? 走り出して最初の交差点を左折する時に、操舵力が極々軽い事に気が付く。それでも速度が上がれば多少は重くはなるが、それでもやはり軽い。この軽さもあってステアリングレスポンスは結構良く感じる。いや感じるだけでは無くDセグメントとはいえセダンよりも大柄の SUV としては充分にクイックだし車両の動きも結構良い。次にスポーツモードを選ぶと多少操舵力は増すが、それでも軽い事に変わりは無く、ドッシリとしたフィーリングにはならないが、まあこれも慣れの問題で、そんなものだと思えば気にもならない。前述のようにスポーツモードでもエンジン特性は大人しい躾けだから、この際常にスポーツモードに入れっぱなしでも良いかもしれないし、実際今回の試乗でも 70% 位はスポーツモードで走行したが、全く違和感は無かった。

今回のコースも特別にハンドリングを試すような状況ではないが、途中のチョッとしたコーナーで試してみると、最初は念の為に少し慎重にコーナーに進入して見ると、これは難なくクリア―した。そこで次は少し速度を上げてみたがアンダーステアは少なく、X3 と比べて明らかに劣るような事は無かった。ただし、勝っているかといえば、まあそれは無いだろう。また旋回中に大きくロールするような事も無くグリップも安定しているから、ボルボというイメージからすれば想像以上にスポーティーに感じる。まあフォード時代やそれに至る迄の経営不振の時代が酷過ぎたとも言えるが‥‥。

新型 XC60 のタイヤ&ホイールはベースグレードの Momentum が 235/60R18 タイヤに 7.5Jx18 ホイールで、上位グレードである Inscription では 235/55R19 タイヤに 7.5Jx19 ホイールの組み合わせとなる (写真48) 。今回試乗したのは Inscription で、その乗り心地はチョッと硬く路面の荒いところでは付き上げもあるが、勿論一発で止まるから決して不快では無く、言ってみれば欧州車の少しスポーティーなモデルとして標準的なものだ。

XC60 のブレーキは極々普通の鋳物製片押しシングルピストンキャリパーで、これは BMW だって似たようなものだが、実際の効きも特に問題無く良く効く。以前のボルボは BMW と同じコンチネンタル社製のキャリパーを使っていたが、今回も同様のような気がする。まあブレーキの性能、特にフィーリングはキャリパーというよりも殆どがパッドの材質で決まるから、キャリパー自体は信頼性のあるものなら何処製であろうと全く問題は無い気がする。


写真48
試乗車は上級グレードの Inscription の為に235/55R19 タイヤに 7.5Jx19 ホイールを標準としている。
旧型の初期モデルでは 235/60R18 とワンサイズ小さいが、その割には随分とハイトが高く感じる。


写真49
ブレーキは極々普通の鋳物製片押しシングルピストンキャリパーを使用している。

さて今回の XC60 の試乗結果を考えれば、昨年の COTY の審査員は決して袖の下をもらって忖度した訳でも無さそうだ。昨年末に BMW の輸入元関係者が X3 のライバルは XC60 だと言っていたが、成る程ボルボは本気で X3 に対抗しているのだったし、BMW としても手ごわいライバルと思っているのは確かだ。

ただしクルマというのは新車時の性能だけでは語れないのが難しいところで、この XC60 だって耐久性やサービス体制はどうなのかと言う心配もあるだろう。まあ、こういうモノは長い時間を掛けてユーザーの信頼を得るモノだから、その面では一度どん底まで落ちたボルボとしてはこれからだろう。えっ? 「BMW だって結構ぶっ壊れるし、サービス体制だって怪しいし、ボッタクリのディーラーだってあるぞ!」 って、まあ確かにそうだ。

今までの結果では、すばりライバルは BMW X3 で、そう言えばこのところ特別編のライバル比較というのをやっていなかった事もあり、これはもう両車を比較するしかない。という事で‥‥

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。


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