Mitsubishi Eclips Closs (2018/3) 後編 その2


  

それではご自慢の 8速スポーツモードに切り替えるために前述のように欧州車みたいにドライバーから遠い左側にレバーを押して、発進からこのお〜っ!という気持ちでアクセルと踏むと、大トルク車独特のホイールスピンを伴って‥‥何て事がある訳でも無い。まあ 4WD だから大地を確実に捕えて加速して行く、なんてぇ程じゃあねぇが、まあこれも決して目を覆う程酷くも無い。そしてそのまま加速をしてレッドゾーンの 6,000rpm よりも 1,000rpm 程手前で右のパドルを引いて2速にシフトアップ‥‥したような感じに CVT が変速する。加速中のトルク感は特性図と同じように 4,000rpm くらいから落ち込んでいくのが判るが、パワーウェイトレシオ 9.7s/ps という数字成りの加速はする。

それでは同じ 1.5L ターボで 140ps/4,600rpm 220N-m/1,480-4,200rpm の BMW X1 sDrive 18i と比べての加速感は如何だろうか。エクリプスクロスのエンジン性能は 150ps/5,500rpm 240N-m/2,000-3,500rpm だからパワーでもトルクでも勝っている筈だが、実際に体感するフル加速では X1 のエンジンは明らかに伸びがあり、ドライバーの官能に訴えるという面では明らかに上だ。とはいえ、まあエクリプスクロスだって決して悪い訳では無く、言い換えればヤッパリ BMW は伊達に高くは無いという事だ。

なお下の図で BMW X1 sDrive 18i に搭載されている B38A15A エンジンとエクリプスクロスの 4B40 エンジンとのトルクを比較してある。これを見れば特性上ではエクリプスの方が1枚上手なのだが‥‥?

エンジンルーム内を見ると左右のストラットタワーを結ぶ補強、所謂ストラットタワーバーが付いている。しかしその形状はまるでアフターマーケットのチューニング屋の仕事みたいで、大メーカーにしてはチョイと芸が無いようにも思えるが、ボディーの剛性アップを考えている事は評価できる。ただしこのバーがあると例えばボディの左側を事故で潰した場合に、このバーにより伝わった力で右側のフレームも変形してしまう‥‥というデメリットもあるようだ。

写真15
Eclips Cross のエンジンは 4B40 4気筒 1.5L ターボで 150ps/5,500rpm 240N-m/2,000-3,500rpm と BMW X1 sDrive 18i の 1.5L ターボよりも数字上では少し勝っている。

ストラットタワーバーは標準装備で剛性アップを図っている。

今度は操舵性や旋回性について纏めてみると、先ず操舵力は適度で結構クイックという点では悪く無い。試乗車は 4WD のモデルであり、これについては三菱では S-AWC (Super All Wheel Control) と呼ぶ、これまた如何にも三菱らしい名前のシステムだ。それでどんなに凄いシステムというと、電子制御の 4WD と AYC (Active Yaw Control) という旋回輪の駆動/制動力を制御するシステムと、ASC (Active Stability Control) という横滑り制御システムと ABS を統合的に制御するという。はぁ?こんなの今時何処のメーカーだってやっている事で、それを仰々しく横文字の名前を付けてあたかも凄いシステムを搭載しているように大々的にアピールするという何時もの三菱手法で、もう会社がこんな状況なのに未だそんな事をやっているという、懲りない体質には尊敬すらしたくなる。

まあそれはそれとして、この S-AWD という大そうなシステムの旋回性能は楽しみだ。今回のコースは一般道の途中に何箇所かの中速コーナーらしきものがあるので、先ずは最初のコーナーへは常識内で少し速目の速度で進入してみると、これは難無くクリアし、その時のアンダーステアも少なかった。そこで次のチャンスでは更に速度を上げてみると、これも悪くは無い。そりゃそうでしょう、何たって S-AWC だから、これはもう天下の BMW の X1 と比べても決して見劣りはしない‥‥と断言する程の勇気はない。と、ここで思い出したのは三菱の 4WD といえばその昔のランサーエボリューション、通称ランエボのシステムはどんないい加減なコーナーリング操作をしても簡単に旋回してしまうという、殆どコーナーリングロボットみたいな特性だったが、成る程三菱にはその手の技術があったのだった。ではマツダ CX-5 に比べて如何かと言えば、あちらはスカイアクティブシャーシ―だからそれはもう、って言いたいが、正直言ってこのエクリプスクロスと明らかに性能差があるとも思えない程度だ。言い換えればエクリプスクロスの旋回性能は会社自体がヨレヨレの三菱としては上等じゃねぇ、という感じだ。

さてそのエクリプスクロスの乗り心地は一言で言えば可也硬く、チョッと路面が荒れていると突き上げも結構感じる。それでもボディ剛性は結構あるようで、路面振動でボディがギシギシと撓る感じも無い。そう言えばエンジンルーム内を見た時にストラットタワーバーが標準で付いていたのを思い出した。最近の国産各社は三菱に限らず各社とも車両剛性の向上には気を使うようになってきたようだ。なお "G" グレードの標準タイヤは 225/55R18 で、これからすれば決して乗り心地が悪そうでもないから、やはりサスの設定自体が硬目なのだろう。

ブレーキは喰い付き感が無くチョッとペダルに足を載せた程度では減速度を感じ無いが、これを強く踏めば踏んだだけ効いてくる、要するに踏力の重いタイプで、この辺は好みの問題とは言え最近主流の軽くて喰い付くような特性に比べると最初は頼り無さを感じるが、勿論強く踏めば何の問題も無い。これもランエボ譲りか? なおホイールから覗くブレーキキャリパーは意外に前後の大きさの差が少ない処を見ると、実は結構前後の重量配分は良いのかもしれない。


写真16
Eclips Cross G の標準タイヤは 225/55R18 が標準で、専用のケバいアルミホイールも標準品だ。


写真17
ブレーキキャリパーは前後の大きさがあまり変わらないから、前後の重量配分は意外に良いのかもしれない。

エクリプスクロスは三菱として長いブランクの後の久々のニューモデルだが、会社の状況は最悪という環境で開発されたであろう事は想像に難く無いが、その割には結構マトモに仕上がっていて、決して悪いクルマでは無さそうだ。とは言え CX-5 のような今や強力になったライバルとの戦いは大変だろうし、天下のトヨタの C-HR だって同クラスであり、しかも良く売れている。その C-HR と比べれば性能的には充分にアドバンテージがあるが、何しろあの販売力に加えて価格が50万円程安いから売れて当然だ。エクリプスクロスの主戦場は海外であろうから、日本での販売はそれ程期待していないとは思うが、そうは言っても苦しい経営状況であろう国内ディーラーを救済する意味でも、このエクリプスクロスの売り上げがどうなるかは気になるところだ。