Toyota Prius (2016/4) 後編

  

試乗車のグレードは "S" なのでシート表皮はファブリックで、早速このシートに座ると形状やクッションの反発の具合なども適度で、流石に最新のモデルだけあって並の欧州車と比べてもそれ程見劣り、いや座り劣り (?) はしない‥‥ような気がする。そしてシートの調整は手動式となるがこれも特に問題は無い。正面を見ると例によってプリウス独特のセンターメーターのために目の前にメータークラスターが無い事に違和感はあるが、まあこれは好みの問題というか慣れれば気にならないのだろう。とはいえBMW MINI もあのセンターメーターを止めたところを見ると、決して世の中が求めているモノではないと思うのだが、プリウスはそう簡単には諦めないようだ。

システムの電源スイッチはダッシュボード右端の押しボタンで、これはハイブリッドに限らず最近のクルマなら当たり前であり、偶に金属式のキーだったりすると返って面食らってしまうくらいだ (写真21) 。AT セレクターはこれもプリウスではお馴染の小さなレバーによる電子式 (写真22) で、操作力は殆ど必要無いが見た目の実にチャチでオモチャっぽいのは何とかならないものだろうか。同じく電子式とはいえ BMW のセレクターなんて実に高級感にあふれているが‥‥。次にパーキングブレーキの解除は足元の一番左、フートレストの上にあるハイテクの欠片も無い足踏み式のプッシュ/プッシュ方式で、これはやっぱり電気式でしょう、と言いたくなる (写真23) 。


写真21
電源のオンは当然ながらスタートボタンを使用するタイプとなっている。


写真22
例によって操作力は極めて軽いがチャチでオモチャっぽいATセレクター。


写真23
パーキングブレーキはハイテクのカケラもないプッシュ/プッシュタイプの足踏み式を使用する。


写真24
プリウス伝統センターメーターのカラー液晶表示は見易さでは十分に合格だ。

ブレーキペダルから足を放してユックリとアクセルと踏むと例によって無音でスムースなハイブリッド独特のフィーリングで前進する。今回はディーラーの裏口から狭い路地に出て100m 程進むが、アクセルを僅かに踏むとその分だけトルクを感じる事でこれは中々のレスポンスで、これからの試乗に期待が出来そうだ。大通りに出てハーフスロットルで加速すると、これも先代プリウスよりもトルク感に勝る事が感じられる。今まではドライブモードがデフォルトのノーマルモードだったが、ここでATセレクターの左横にあるスイッチ (写真25) でパワーモードに切り替えてみると、センターメーター内のディスプレイに "PWR MODE" と表示 (写真26) され、ハッキリとアクセルレスポンスが向上したのが感じられる。

このモードで少し走ってみると、兎に角巡航状態からの加速が迅速で先代とは雲泥の差となっている。新型プリウスの重量は先代と変わらずエンジンも基本的に変更されていない。しかも電気モーターのパワーとトルクの何れもがスペック的には先代より低い値となっているが、実際に走った時の印象は新型の方がトルクフルに感じるのは実用域でのトルクが大きい (これは単なる想像) のと、何よりレスポンスが良いことが感覚的に動力性能がアップしたように感じるのだろう。CVT の場合、どうしてもトルコン AT などの多段変速機に比べてシフトダウン時のレスポンスが悪く、更にプリウスの場合は一般的なスチールベルト式の CVT のようにある程度の減速比の変化が出来るものと比べて、特殊な遊星歯車を使った方式で、これが電気モーター入力、エンジン入力、ミッション出力の3つの関係で減速比を得るという方式で、これこそがトヨタのハイブリッドの高能率を成り立たせている原因でもあるのだが、言い換えるとこの方式では本格的に変速比を変えるような装置は無くて、言ってみれば1段変速、というか一段では変速とは言わない訳で、これがどうしてもシフトダウンによる急加速のような状況では不利になっていた。そんなこともあり、最近ではトヨタもハイブリッドに補助変速機を付けるべく開発中という噂もあるくらいだ。とはいえ今回のプリウスは特に補助変速機なんてなくても結構イケるじゃん、なんていう気にもなるくらいに実用的には十分なレスポンスだった。

そこで今度はフルスロットルで目一杯引っ張ってみたが、こうなると最高出力が物を言うし、エンジンの最高回転数付近では電気モーターのトルクは殆ど期待できないなどどう考えても不利であり、実際に大した加速は感じられない。まあ、フルスロットルで気持ちの良い加速を求めるならばプリウスは選択肢から外して方が良さそうだ。


写真25
AT セレクター隣の中央のスイッチがドライブモードの切替スイッチ。


写真26
ドライブモードスイッチで切り替えるとメータークラスター内のディスプレイに切り替わったモードが表示される。

ここでエンジンルーム内を覗いてみよう。新型 (ZVW50) のエンジン部分は先代 (ZVW30) と同じ 2ZR-FXE であり、性能も全く同じとなっている。しかし実際のエンジン外観は一見すると全く違うのは樹脂製のトップカバーが新しくなったからだが、それ以外でもクーラントのタンクの位置が違うなどレイアウトの違いも見受けられる (写真27) 。

そして電気モーターについては先代とは全く異なるものだが、モーターは見えないところにあるために比較は出来ないが少なくともモーター駆動系の補機類の形状は全く異なっている。そのモーターは前述のように先代よりもスペック的には劣っている位だが、実際に乗ってみれば寧ろパワフルに感じるのは低回転域のトルクが増しているなどスペックの数字では判らない部分が改良されているからと推測する。しかし従来のトヨタといえばスペック命であり、数字はライバルよりも立派だが実際に運転してみると大した事がないので、巷では "トヨタ馬力" なんて陰口をたたかれていたが、見事に方針が変わったようで目出度し、目出度し。


写真27
エンジン部分は先代 (ZVW30) と同じ 2ZR-FXE であり、性能も全く同じとなっている。
しかし一見すると全く違うのは樹脂製のトップカバーが新しくなったのが原因だ。


写真28
運転席と隔壁を隔てて、トヨタのハイブリッドの独占技術の一つであるフルエレキのブレーキシステムのアクチェーターがある。


写真29
車両左側にはモーター関連の電子 (電気) デバイスが配置されていて、これは先代とは異なっている。

”走る”については先代プリウスよりも少なくともフィーリングは大いに向上していたが、それでは曲がるの方はどうだろう。操舵力はトヨタの実用車らしく軽目だし、決してクイックとはいえないが、それでも実用車として考えればこの程度のレスポンスで調度良いという気持ちになる。途中からセンターラインはあるが決して広くない市道を走ってみるが、左右に余裕のない道でも思ったラインにクルマを持っていけるから不必要に減速することも無い、何て書くと今時当たり前だろうと言われそうだが、いえいえ10年前のカローラ何て特に初期モデルは思ったラインを通れなくてヒヤっとすることもあるくらいだった。あれっ、これって1年生の頃は偏差値が30代で、コレでは本当に底辺高校しか入れないと悩んでいたら3年になって成績がアップしてきて、偏差値も50までアップして目出度くも "並" の県立高校に入学出来たというようなものか。だから劇的に向上したと入っても所詮は偏差値50だから、70クラスのトップ校は勿論のこと、60代の中堅校と比べても歯が立たないということは認識が必要だ。

そのまま市道を走っているとやがて上手い具合に適度なRのブラインドコーナーが見えて来た。実はここまでの道すがらで旋回性能も結構シッカリしていそうな片鱗をみせていたので、ここは思い切ってこの手の芋ファミリーカー、おっといけない、実用的ファミリーカーというべきだった、にしては速めの速度でコーナーに進入してみると、それでも不安げ無く多少のアンダーステアを感じながら綺麗にクリアーしていった。 今回からプリウスとしては初めてリアサスペンションにダブルウィシュボーン方式を採用したが、その御利益はあるようだ。そしてボディ剛性もアップしたということで、これも成る程クルマの挙動が安定しているなど "曲がる" の性能も並以上になっていたから、世間の自動車評論家がべた褒めするのも強ち嘘では無いようだ。

ボディ剛性がアップしているという事は乗り心地にも良い影響を与えていて、サスペンションセッティング自体は結構固めだが、それでも決して不快ではないから、この面でも並の欧州車程度にはなっている。要するに千代田区や中央区には敵わないが葛飾区や足立区程度にはなってきた千葉県の一部みたいなものだろうか。

ブレーキについてはトヨタの独壇場であるフルエレキのシステムでこれにより回生ブレーキの性能をフルに発揮できる。そしてそのフィーリングも新型になる度に違和感がなくなってきたが、勿論今回の新型は更に自然になっている。そしてハイブリッドといえば低速で軽くブレーキペダルに足と載せた時に ”クィーン" という小田急みたいな音が聞こえるのが常だったが、今回の新型はこの音が殆ど聞こえないから、増々違和感が無くなっている。そいうえば電車も最近の新型では発進と減速の時に聞こえる VVVF のインバーターの音が殆ど聞こえないまでに小さくなっているので、あの音に痺れるという鉄ちゃんには寂しい物があるかもしれない。


写真30
タイヤサイズは 195/65R15 と燃費向上のために幅が狭いのも何時ものとおり。


写真31
ブレーキは先代から4輪ディスクを採用している。

この新型プリウスは世間の評判はすこぶる良いようで、とりわけ評論家の先生達の評価はべた褒めであったが、どうもあの手のインプレッションは眉唾物の傾向があるのであんまり期待はしていなかった。何しろ初期型のアクアなんてどうしようもないクルマでもべた褒めしたくらいだから、このプリウスもまあ話半分と思って試乗してみたが、結果は何と当方も結構なべた褒めになってしまった。

B_Otaku のヤツ、メーカーから袖の下もらったんじゃあないのか、何て言われそうだが、いや実は‥‥てな訳もなく、期待以上であったことは間違いない。とはいえ、新型の価格はほぼ200万円代の後半から300万円が中心であり、先代よりも50万円程価格帯が上がってしまった。勿論のその分だけ見るからに車格が上がったとも感じられるし、200万円前後を求めるユーザーはアクアへ行くということもあり、その点では低価格のハイブリッド専用車であるアクアの存在は大きい。

そのアクアもマイナーチェンジ後は大分マシなクルマになったが、さて個人的にどちらをとるかといえば、それぁもう50万円余計に出してプリウスでしょうねぇ。いやその前にハイブリッド車を選ぶかといえば、これも微妙なところだ。何しろ250万円といえば VW ゴルフのベースグレードであるコンフォートラインが買えてしまう訳で、これは結構悩ましいものだ。

という訳で、ここはひとつ「Toyota Prius vs VW Golf」なんていうのも面白そうだ。まあ実際に上手い比較が成り立つかは検討の余地もあるが、上手く行くようならやってみることにする。それまでチョイとのご辛抱を‥‥