BMW M4 Coupe 特別編 [M4 Coupe vs Porsche 911 後編 その2] 特別編へようこそ。 前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。 この手のクルマは動力性能も大切だが、それにも増して加速時のワクワクするようなエンジン音も重要だ。例えば先程から何回も話題にでてくる E60 M5 だが、このクルマの最大の売りは当時の F1 エンジンの技術を元にした自然吸気 (NA) V10 エンジンであり、そのフルスロットル時の音は正にこれでなければ出ないようなサウンドを奏でたのだった。しかしこの高回転 NA エンジン故に、低速トルクは全くスカスカでしかも前述のようにAT モードは使い物にならないから、AMG 辺りから乗り換えたユーザーからすれば「なんだこりゃ。全く走らないじゃねぇか。これじゃあ525ï の方が速いくらいだ!」なんてことになる訳で、発売当時はあれ程大騒ぎして予約したセレブ達も2年ほどで殆どが買い換えてしまった。 それに比べると M4 の加速時の音はイマイチ大人し過ぎるがエンジンの扱い易さは抜群で、これならM5 で痛い目にあったセレブでも文句はないだろう。えっ? そういうセレブからすれば M4 なんて眼中に無いって? 確かにそうかもしれない。 さて、対するカレラSだが、標準モデルは以前と比べてM4 程ではないがやはり大人しくなっている。しかし、試乗車にはオプションと思える何やらマフラーみたいなシンボルマークのスイッチがあって、それを押すと何と排気音が強烈な爆裂音に変化する。しかもスロットルをオフにすると後部からパン、パンというアフターファイヤの音までするから、こんなのが車検を通るのが不思議なくらいだが正真正銘の合法品なのだ。 モードスイッチといえば両車は単純な走行モードではなく、其々に色々なモードが備わっている。M4 の場合は写真左下のようにAT セレクターレバーの右側にあるスイッチでエンジン特性とステアリング特性を別々に選択できるし、試乗車には付いていなかったがダンパーのセッティングも変更できる。またセレクターレバーの手前にはDレンジのシフトスケジュール変更のスイッチもある。 カレラSの場合は写真右下のようにセレクターレバー手前に並ぶスイッチ群に走行モードとダンパーモード、そして前出の排気音のモード切り替えスイッチがある。 ![]() ここで正面にあるメータークラスターについて比較してみよう。M4 のメーター類は基本的に3シリーズセダンと同じであり、言い換えれば400万円代の 320i 同じと言うことになる。勿論速度計のフルスケールは 320iの 260km/h に対して 330km/h だし、回転計のレッドゾーンは7,000rpm に対して7,500rpmという違いはあるが、それでも一見したところは同じというのがオーナーとしては物足りないのではないか。 それに比べると911系の場合はお馴染みの5連メーターで、これはボクスター/ケイマンの3連メーターとはしっかりと差を付けている。なお下の写真は ”S” の付かない ”カレラ” であることから中央の回転計も盤面が黒だが、カレラSは中央の回転計がシルバーとなるのも 996 から続くしきたりだ。さらに写真でも判るくらいだが、M4 のメーターに比べてカレラのメーターはコントラストが強くで実に見易く、この点でも差が付いている。 ポルシェがグレードや車種によるヒエラルキーを強調するかのようにメーターやブレーキなどに差を付けているのは、職場のイスや机が課長になると机が両袖になってイスには肘掛けが付くとか、部長になると椅子の背もたれが高いハイバックシートになるとか、まあそんなのと同じようなものだ。尤も最近は全ての椅子に肘掛けが付いていたり、役員を含めて役職に関係なく同じ机と椅子を使う会社もあるくらいで、こういうところでは全ての椅子が役員クラスのものだし、机も全てが十分な幅を持っていたり、何よりもフリーアドレス制で仕事の情況で自由に席を替わる、というのが進んだ会社の方式で、グローバル企業の手では結構あるようだ。 ![]() 何やらまた脱線してしまったが、まあ特別編ということでこれもまた良いだろうし、何しろ M4 と 911 の比較なんていうテーマを考えただけでも気持ちが乗ってくるものだ。だからこれが1シリーズ vs Aクラスなんていうことになると‥‥おっといけねえ。1シリーズオーナーが聞いたら怒りだすところだった。 次にマニュアルシフトについては両車共にコンソール上のセレクターと共にステアリングホイールに装備されたパドルスイッチが用意されている。この手のスイッチは殆ど見えないところにプラスチッキーなチャチいスイッチがある場合もあるが、2車共に見た目も立派な物が付いている。そのスイッチのフィーリングも電卓のようなゴムっぽさも無く価格相応のフィーリングと言いたいが、残念ながら特に良いとも言えない。そして一番の興味であるシフトレスポンスだが、これについては過去の試乗記で何度も指摘しているようにポルシェの PDK が圧倒的に優れていて、シフトアップ・ダウンともにエンジン音が全く途切れずに回転数のみが変化するくらいで、丁度 F1 レースの車載カメラからの音声みたいだ。対する M4 だってトルコン AT に比べれば圧倒的に優れたレスポンスだが、PDK と比べれば全く勝ち目はない。 |
次に旋回特性だが、これは動力性能以上に見極めが難しい。何しろこのクラスの高性能車の旋回能力はベラボウに高いから、一般人の腕と道路情況では限界どころがそのはるか手前で使うことになるし、この手の高性能車はもしも限界を超えてしまうといきなり破綻してしまう可能性もある。特に今では唯一のリアエンジンパッセンジャーカーとなったカレラは車両の最後端に重いエンジンをぶら下げているという、そのままではオーバーステアまっしぐらの基本構成であり、それを長年の経験で上手く抑えているだけなので、やっぱりいざと成れば急激な破綻に至る事になる。 次に操舵力とレスポンスについて比較すると、今回の M4 の操舵力はノーマルである CONFORT モードではかなり軽くてクルマの性能を考えると心もと無いところだ。そこでコンソール上のステアリングホイールのシンボルが付いたスイッチを押してステアリング系を SPORT モードにすると、CONFORT に比べると大分重くでシャキッとなったがそれでも軽めだ。ただしBMW の操舵力というのは歴代でも車種やイヤーモデルによって重くなったり軽くなったりと、そのチューニングには迷いがあるようで、結局未だに結論は出ていないのだろうか。 対するカレラSでは M4 に比べると明らかに操舵力は重いが、それでも重すぎると言うほどでは無い。ただし、このクルマも当然ながら走行モードを SPORT に切り替えれば更に重くシャキッとする。なお中心付近の不感帯は伝統的に多少緩慢にしている BMW に対してポルシェはといえば、これも車種やモデルイヤーによって異なるので何とも言えないのは、先代997 カレラSの試乗車は特に SPORT モードにおいては中心付近がガッチガチで操舵力もかなり必要とした経験もあるから、これも結構悩ましい問題だ。 旋回性についてはのっけから見極めの難しさを強調したが、とはいえそんな限界性能ではない部分ではどうだろうか、ということで M4 の場合はBMW らしくニュートラルだがフロントに重いエンジンを積んでいる事から同じ BMW でも軽量なエンジンのモデル、言い換えればよりアンダーパワーのモデルの方がよりニュートラルでありレスポンスも良い。対するカレラSでは何しろ車両後端に重いエンジンを積み、重量配分では圧倒的なリアーヘビーだから、フロントグリップは良くないし安全性の面からも基本的にアンダーステアに躾けてあるから、綺麗に曲がるにはそれなりの走り方、すなわち減速度を利用して少しでもフロントに荷重を移すなどが必要となるから、最近は乗りやすくなったとはいえある程度のスキルを要求するクルマではあるし、その点では M4 とは違う種類のクルマだ。 次に両車のタイヤとホイールを比べてみると、M4 はフロントが 9J x 18 ホイールと255/40ZR18タイヤ、リアは 10J x 18 ホイールと275/40ZR18タイヤの組み合わせで、カレラSではフロントが 8.5J x 20 ホイールと245/35ZR20タイヤ、リアは 10J x 18 ホイールと295/30ZR20タイヤの組み合わせとなり、特にカレラS場合はフロントは M4 よりも小さめなのにリアとなると圧倒的なサイズとなるのは、M4 に比べれば極端なリアヘビーであることの証明でもある。それにしても295幅のタイヤというのはすごい迫力で、カレラSの後ろを追従走行するとマルで車幅の半分近くがタイヤじゃあないか (計算上は全幅の1/3) なんて思うくらいで、道路工事のタイヤローラー真っ青だ。 ![]() 走る、曲がるは解ったが、それでは止まるはどうだろうか。ブレーキ性能に付いては最近のクルマは極普通の国産車でも結構良くなっているくらいだから、今回の2車のような高性能車ならば高速道路も含めて日本の公道で常識的に使う限りでは全く問題はない。それでは非常識な範囲ではどうかといえば実際にテストした訳ではないが下の写真を見ればブレーキ容量の違いは一目瞭然だろう。M4 では従来BMW はブレーキに金を掛けないと言われていた悪口を一掃するかのような、フロント4ポット、リア2ポットのアルミオポーズド (対向ピストン) キャリパーを採用しているから、それだけ見れば「サッスガあ、Mモデル」となって目出度し目出度しだが、これをカレラSと比較するとこんなに小さいのお~? なんていうことになる。カレラSの場合はホイールもバカでかいがその中に入るキャリパーはそれ以上にデカい。 両車の違いを見ていると M4 が適性サイズでカレラSがオーバースペックなのか、ハタマタ カレラSくらい無いと超高速では不安なのか、という疑問がでるが、少なくとも M4 とはいえBMW車は 250 km/h くらいでリミッターが作動すると聞いたことがあるし、ポルシェの各車はリミッターが付いていないということだが試してみたことはない、って当たり前だろう。ということは本気で300km/h 走行するには、ブレーキも含めてこのくらいの装備が必要ということだろうか。 ![]() 以上BMW M4 とポルシェ 911 と比較してきたが、此処で何時も問題になるM4 (M3) の米国価格とかその辺の話は、このサイトで何度も指摘しているので今回は特に触れないが、初耳だという方のために2014年8月24日の日記 (BMW M3) から一部を転載しておく。 『‥‥ということで、今までM3の内外装を見てきたが、憧れのM3とはいえ、その価格は今や1,104万円もするわけで、初回に述べたように素の911カレラ(MT)の1,178万円と同等というのは何やら腑に落ちないものがある。そう言えば、今丁度前編を発表したばかりの435i GranCoupe試乗記特別編の本題であるポルシェ ボクスターSとの比較でも同様にほぼ同じ価格帯となっている。以前からBMWの上級モデルの割高感は有名だったが、最近はチョッと極端なようにも感じる。 それで、米国のサイトでM3の価格(MSRP:メーカー希望価格)を調べてみると、2015年モデルは62,000ドルで、片やポルシェ 911は84,300ドル也。まあM3の装備が日本国内向けとは違う可能性はあるとはいえ、M3の日本向価格はやっぱりボッタクリと言いたくなる訳で、この点でBMWの輸入元に見解を聞きたいところだ。なお、以前は米国向けM3は欧州や日本向けとは全く性能の異なるものだったが、E46からは米国向けも欧州向けとほぼ同等となっていて、最新モデルも425HPと表記されていたから日本向の431psと大きな違いは無いだろう。』 上記の車両は M3 であり、言って見れば今回の主役 M4 のセダンバージョンで、ということは何とこの特別編の結論にもそのまんま当てはまることになってしまうが、それはそれとして実は M4 の購入には別のメリットもある。 というのは、M4 は普通の人が見れば只の3シリーズクーペであり、今時3シリーズなんてちょっと給料の良いサラリーマン家庭では普通にファミリーカーとして使われているから、取引先の親会社や患者さんからすれば今時社長や院長なら3シリーズ何て当たり前で、特に何とも思わないだろうが、これがポルシェ911 となると話は違う。そんなものに乗っていれば親会社からの値下げ要求は厳しくなるし、患者さんからは不要な治療で金を取っているんじゃないか何て疑われて、挙句に税務署から目をつけられて‥‥もう碌な事はない。 ということで、実際に購入予定の読者は実際に両車に試乗したり、ご自分の社会的地位を考えて自己責任の上で決定願おう。間違っても B_Otaku の意見なんて信用しない方が良い。えっ? 最初から信用なんかしてねぇよ、って? こりゃまた失礼しました。チャンチャン。
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