BMW M2 Coupe (2017/1) 後編 その2


  

ここで正面のメーター類をよくよく見れば、中央の2つの大径メーターの右側にある回転計はフルスケール、レッドゾーン共に M135i と同じどころか1シリーズのボトムグレードである 116i とも同じだった (写真41~43) 。ただし、ボトムモデルにはメーターの下 1/3 を占める液晶部分が省略されているが、メーター本体は共通のようだ。おっといけない、M2 の回転計には ”M” のロゴが付いていた。そして左側の速度計はといえばフルスケールが M2 では 300q/h、M135i では 260q/h、そして 116i はというと何と M135i と共通で 260q/h だった。最近は BMW も部品の共通化によるコストダウンに徹底しているようで、プレミアムブランドとは言え競争は熾烈ということだ。なお蛇足ながら 116i は2015年のマイナーチェンジから 118i という名称になり、車両型式は116i の DBA-1A16 から DBA-1A16 、あれっ? でもまあエンジンが 1.6L ターボの N13B16A から同じく 1.6L ターボ ではあるが型式は‥‥N13B16A って? 要するに 116i から 118i に代わったのはあくまで名称だけで中身は同じだった。しかし話はまだ終わらない。何と2015年秋には118i は車両型式が DBA-1R15 となり、エンジンは 3気筒ターボの B38B15A となったのだ。この複雑な切り替え時期には当然ながら旧モデルの売れ残りが出る訳で、それに新型のデリバリー遅れも加わって結構混乱していたという噂もあった。

話を戻すと、デフォルトのコンフォートモードでの巡航中は回転計の針は 1,200〜1,500rpm 辺りを指している。走行モードの切り替えは BMW に共通のATセレクター右横にあるスイッッチで、これをスポーツにすると状況により 1,500〜2,000rpm くらいに上昇するが、それ程劇的には感じられない。ところがスポーツプラスとなると 3,000rpm 位で巡航し、如何にも走り屋的なシフトセレクトを勝手にやってくれて自然吸気ならば丁度良いところだが、低速からトルクのフラットなターボではあまり意味はないかもしれない。それでもこのクルマを選ぶようなオーナーなら少なくともスポーツモードは常用でも良いだろう。

写真41
メーターは 1 & 2 シリーズに共通のもので僅かに速度計のフルスケールと回転計内の ”M” のロゴが異なる程度だ。

 


写真42
M135i のメーターは速度計のフルスケールが M2 の 300q/h よりも低い260q/hである以外は同じものだ。


写真43
最も安いBMWである 116i でも右側下部にある燃費計が無い事とセンターのディスプレイが小さいくらいに違いしか無い。

ここで M2 のエンジンルーム内を覗いてみると、そのには直6 3.0L ターボ 370ps/6,500rpm 465N-m/1,400~5,560rpm の N55B30A エンジンが見えるが、さてこれが M135i (M235i も同じ) ではエンジン型式では最後の桁が ”A” と ”B” の違いとなる N55B30B で、外観上も実は殆ど同じでトップカバーの文字が M2 では "POWERED BY" + ”M” ロゴ、M135i では ”M” ロゴ + "Performance" の違いだけだった。まあ両車は性能もそれ程大きな違いはなく (370ps vs 325ps) 、その点では M2はMモデルとは言えのカリスマ性がイマイチでもある。

なお M235i は極最近になって同じ 3.0L とはいえエンジンを一新 (B58B30A) して M240i となったのは前記のとおりで、これによって増々 M2 との差を縮めてしまった。

写真44
直列6気筒 3.0L ターボ 370ps 465 N-m の N55B30A エンジンは何を隠そうM235i の N55B30B とは末尾の識別用の桁のみ違う。


写真45
トップカバーは MモデルとMパフォーマンスモデルの違いという訳で、一応差別化はしてある。


写真46
型式名が極めて近いM135i & M235i のエンジンの外観はトップカバーのエンブレムのみ。

次に操舵感についてはコンフォートモードでは少し軽過ぎてどうもシャキっとしないが、スポーツモードを選択すれば多少重く、しかも中心付近の不感帯も少なくなるのは他の BMW 各車と同様で、元来 M3 などでも決してクイックとは感じない操舵感で、これは BMW のポリシーだろう。2車線の道路はうまい具合にクルマもいないことから素早い車線変更を試みたら、結構反応も良く機敏な動作をするのはクルマが小さい事も有利になっているだろう。考えてみればCセグメントのハッチバックである1シリーズをベースに 3.0L ターボエンジンを搭載するという言ってみればアンバランスなクルマである M2 だからマトモな走りが出来ないのではないか、何て思うかもしれないがそこは流石に BMW であり、特に意識しなければアンバランスさを感じることはない。

とはいえ 0-100q/h が 4.3秒というトップクラスの高性能車の世界で比較するとポルシェカレラやケイマンS等が対戦相手となってしまい、そうなると流石に差が付いてしまう。途中何箇所か多少のコーナーがあったが、ここでは BMW らしく3シリーズのようなレールの上を走るがごとくのニュートラルステア‥‥という訳にはいかず、コーナリング性能自体は充分に優秀だが旋回中に多少アンダーを感じ、さらにコースに従って多少の修正舵を入れると、何となくレスポンスが悪いというか微妙な遅れも感じるし、動作がギクシャクする傾向だった。いや、勿論強力な動力性能に対して多少感じる程度で、決して直線番長という訳ではない。

乗り心地については当然硬いし、硬い中にも靭やかさを感じるという事も無く、これまたポルシェと比べてはいけないが、BMW の高性能車としてもチョイと安っぽくて国産高性能車的だ。試乗車のオドメーターは 12,000q弱を示しているから少なくともダンパーの初期の当りはついている筈で、距離を重ねてもこれ以上の大幅な向上は無いだろう。そして走行中の安定性だが、これも何となく地に足が付かないというか路面をシッカリと捕まえている雰囲気に乏しいのも乗り心地と共に未成熟さを感じるところだ。とはいえ、このボディーに強力過ぎるエンジンを搭載したクルマとしてはフルスロットルでも危険を感じるような事も無く、その点では十分に評価に値する。

タイヤについては M2 の標準サイズはフロント 245/35R10 リア 265/35R19 というCセグメントとしては身分不相応というくらいに立派なものが付いている (写真47) 。これが 235i (240i も同様) ではフロント 225/40R18 リア 245/35R18 と少し小径で幅狭となり、これが 220i スポーツだと前後共に 225/45R17 になるが、220i でも M Sport の場合は M235i と同サイズになり、外見上は排気管以外は殆ど同じとなってしまう。さてその M2 のタイヤだがリアの 265/35R19 というのはチョッと太過ぎないだろうか。むしろM Sport の 245/35R18 くらいの方が乗り心地も巡航時の安定性も良いような気がするが‥‥。

最後にブレーキについては以前に比べて最近は高性能モデルには対向ピストン (オポーズド) キャリパーをおごるようになった BMW の傾向に従って、このクルマにも MモデルのシンボルカラーであるブルーにMのロゴに付いたフロント4ポット、リア2ポットのオポーズドキャリパーが装着されている (写真48) 。それで効きはといえばこれまた以前の BMW のような効きすぎる傾向も影を潜めて十分にコントローラブルになっている。ただし、オポーズドキャリパーの割には初期の遊びも普通であり、ガッチガチのレーシングタイプという事は無い。

実は BMW が始めてオポーズドキャリパーを採用したのは 130i クーペであり、何故にBMWとしてはボトムの1シリーズで使用したのかは謎だったが、その後は徐々に他のシリーズの M モデルなどに展開されていった。という事は M235i もオポーズドキャリパーか? というと、勿論そのとおりで、写真48 のようにどう見ても M2 と同じキャリパーが付いている。ただしローターについては M2 はドリルドホールタイプという違いはある。なお写真47を見ると両車のフロントキャリパーの取り付け角度が少し違うのに気が付く。という事はフロントアクスルの部品が異なるという事であり、そう言えばプラットフォームは同じでもサスについてはサブフレームからして違うものだ、という話を聞いたことがあった。


写真47
M2 の標準サイズはフロント 245/35R10 リア 265/35R19 というCセグメントとしては太過ぎる気もする。


写真48
M2 も M235i もフロント4ポット、リア2ポットのオポーズドキャリパーが装着されているが、ローターは M2 ではドリルドホールタイプとなる。

性能的には 0-100q/h 加速では 1,309万円のポルシェ 911 カレラ(PDK)よりも 0.1 秒速い!M2 だからその点からすれば 793万円という価格は大いに買い得とも言えるが、例によって米国価格 51,700ドルと知ると簡単には喜べない気持ちにもなる。そしてパワーは 10%程劣る事とミッションがDCTではなくATである等を気にしなければ M240i を選ぶことで約150万円節約できるし、クーペといってもどうせ大して格好は良くない2シリーズだから、ハッチバックの1シリーズでも性能が同じならということでM140i を選べば更に 55万円の節約が出来て、これはM2よりも何と 200万円も安い買い物となる。

まあクルマ選びなんて言うのは個人の考え方次第だから、911カレラと同等性能の M2 を買うという考えに何ら反論することは無い。でも、まあ、個人的には M140i を薦めたいが‥‥。

それで、当然ながらM2との比較を特別編として企画したが、その相手はといえば‥‥ポルシェ 718 ボクスターを選んでみた。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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