Mercedes-Benz (W213) E220d (2017/7) 後編 その2 |
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ここでボンネットフードを開けてエンジンルーム内を比較してみる。E220d と E200 は双方とも4気筒 2.0L ターボだが、見た目は全く異なっている。まあ車両重量から推定して E220d のディーゼルエンジンは100kg 以上も重いのだから外見が違って当たり前だが‥‥。しかし最近のエンジンは樹脂製のトップカバーで覆われていてエンジン本体、シリンダーブロック外形などが見えないのが普通で今回の2車種も同様だが、いくらカバーがあるとはいえ E220d の方が遥かに大きそうだから、恐らくシリンダーブロックも肉が厚くて外寸も大きいのだろう。 |
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対する E200 は 274型 4気筒 2.0L ガソリンターボで 184ps/5,500rpm 300N-m/1,200-4,000 rpm とパワー、トルクともディーゼルに劣るが高回転まで特性を維持している。 カバーが掛かっているとはいえ同じ排気量でもディーゼルの方が大きいように見える。 |
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動力性能ではほぼ同等の両車であったが、それでは操舵性と旋回性ではどうだろうか。今回試乗したコースは E200 と全く同じだが、前編のトップ写真でも判るように当日は運悪く土砂降りの雨で、路面は濡れるどころか多少水が溜まっているくらいだった事を考慮する必要はある。 実は表道路に出て少しの巡航の後に極緩いカーブでステアリングを切ったら何やらレスポンスが悪いのを感じたが、同じコースを走った E200 は決してこんなではなかったのを思い出す。それで少し急激な車線変更を試みると、やっぱり結構緩慢というか穏やかというか、まあ個人の好みもあるが兎に角クルマの重さというか慣性というか、そういうモノを感じる。クルマに試乗する時は先入観を持たないように乗る前にスペックなどは見ない方針なので、今回も試乗を終了して帰宅後にスペックを調べたら、何と E220d (1,800kg) は E200 (1,670kg) よりも車両重量が 130kg も重いのだった。その重量差の大部分はディーゼルエンジンが重い事が原因だろうから、フロントアクスルに掛かる軸重は 100kg 以上も重いし、慣性モーメントもその分だけ増している事になり、そりゃあ E200 よりもトロい訳だった。 重量バランスはどうにもならないにしても、レスポンスは走行モードを SPORT にすれば改善される筈だ、という事で SPORT モードに切り替えると、確かに操舵性については中心付近が大分シャキッとしてレスポンスも向上したが、勿論エンジンが軽くなる訳ではないのでニュートン先生の理論からは逃れられない。ただしこれは悪い事ばかりでも無く、前述のように試乗時は土砂降りの雨で路面は濡れるというよりも多少水が溜まっている状況だったが、曲がらない代わりにディーゼル車はこんな状況でも鬼のような直進性を発揮してくれて、その面では安定そのものだったからこれは本来のメルセデスらしさなのかもしれない。やがてこのコースでは数少ない中速コーナーが近付いてきたので走行モードを再度 SPORT にしてコーナーに進入すると、まあ思った通りのアンダーステアーであり、そのアンダーの度合は E200 よりも大きいのは想定どおりというところで、そりゃあフロントが130kg も重いのだから当然だろう。それでも例えばクライスラー 300 に比べればは遥かにクイックでレスポンスも良い‥‥って、比べる相手が悪過ぎだろう。 今回試乗した E220d アバンギャルドに装着されていたタイヤは 225/55R17 で、前回の E200 はグレードが "アバンギャルド スポーツ" だったためにフロントに245/40R19、リアには275/35R19 というファットなタイヤを装着していた。ということは E200 の試乗車は今回の E220d に比べてフロントの重量差と共にタイヤでも旋回性や操舵性ではより有利な状態だ訳で、そうなると E220d でもグレードが同じくアバンギャルド スポーツだったらば、また結果も違っていただろう。そういう意味では乗り心地はというと E220d アバンギャルドの方が良かったというか路面からの突き上げなどはほとんど感じられないし、高級車らしい重量感でも多少勝っていたようにも感じたが、あくまで感じた程度で、E200 だって決して乗り心地は悪くはなかった。 ブレーキについては E200 はこれまたアバンギャルド スポーツという事でフロントにはアルミ製対向4ピストンキャリパーとドリルドローターという高性能車として定番品が装着されていたが、E220d は "只のアバンギャルド" だからフロントも片押しの鋳物キャリパーだった。それで効きはというと、実は今回の試乗車は表の道路に出て最初の交差点で軽くブレーキペダルを踏んだら思いの他減速度が出て、要するにカックン気味で驚いた。ただし前述のように当日は土砂降りの雨でブレーキパッドは湿っていただろうし温度も冷えていただろうから、こういう湿気を吸った状態のブレーキパッドは μ (ミュー、摩擦係数) が一時的に上がってしまった事も考えられ、この現象は早朝効果 (Morning Effect、通称ME) と呼ばれていて昔のドラムブレーキでは顕著だった。ただし、その後走行を続けるうちに気にならなくなったのは湿気も蒸発して温度も適度に上昇したと解釈すればやっぱりあれは ME だったのだろう、と勝手に納得する。 |
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最近の欧州製ターボディーゼルの進化は目を見張るべきものがあるが、それでもガソリンエンジンと比べれば多少の振動と騒音はあるし、何より実用回転域の狭さは隠しようが無い。今回の比較でも確かに最大トルクは 220d の方が 30% 以上も勝っていたが、高回転域が使えない事でその分をファイナルギアを高く設定することで同じ速度を出すからその分トルクは減ってしまい、ディーゼルエンジンのメリットの一つである強大なトルクのご利益は大したことが無くなってしまう。その理由の一つはガソリンターボも進化していて以前に比べればディーゼルエンジンとのトルク差が少なくなったことも原因となっている。 もう一つディーゼルエンジンのメリットである低燃費はどうかといえば、発表された JC08燃費の90%を実燃費と仮定すると E220d と E200 の燃費はそれぞれ 21.0 x 0.9 = 18.9q/L および 14.7 x 0.9 = 13.2q/L と算出されるから 10q走行に必要な燃料は0.53L および 0.76L となる。ここで燃料の価格を軽油 102円/L 、ガソリン 125円/L と仮定すると 10q走行に必要な燃料コストは 54円および 95円でその差は41円となる。次に E220d (698万円) とE220 (675万円) の価格差は23万円で、この元を取るには 230,000 / (41/10) = 57,000q の走行が必要となる。実は想像していたよりも意外に早く元がとれそうなのは、両車の価格差が少ない事と最近はガソリンと軽油の価格差が少なくなっている等の理由があるのろう。 こうなると10万キロ走行すれば燃費の差は41万円となり、車両価格差の23万円の元をとって更に18万円の黒字となるが、多少の振動と車両重量増による操舵レスポンスの悪化を両天秤にかけて、さてどうだろうか? しかしこの結果は比較検討する意義が十分あるということだ。えっ? レクサス GS200t にすれば100万円以上節約できる、って? いや、そういう考えもあるんかいな。しかし言い換えれば GS に100万足せばEクラスが買えるという事も言える訳で、まあ人それぞれ色んな考えもあるだろう。 さて特別編だが、これはもう今や宿敵とも言えるライバル BMW5シリーズ以外は考えられないし、2.0L ターボディーゼルといえば 523d となるのは自然の成り行きだ。 ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。特別企画「Merdedes-Benz E200 vs BMW 523i」に進む
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