Abarth 124 Spider 試乗記 特別編
  [ABARTH 124 Spider vs 500 前編]

特別編へようこそ。何時ものように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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マツダロードスターベースのアバルト124 はどこまでアバルトしているか?これを検証するためにイタリア製の現行アバルトということでアバルト500を例にして内外装を比較して見る、という企画は既にアバルト124 試乗記の最後で予告したが、その後放置状態で半年が過ぎてしまい「そろそろやるかぁ」という感じで今回の特別編をお送りする。何だおまえ、やる気あんのか? 何て言われそうだが、いやまあアバルト124 試乗記のアクセス状況を見ると、日本ではアバルトに興味があるなんていうのは貴重な存在だという事が判り、ましてや特別編だから閲覧注意なんて宣言すれば益々一部の常連さんしか見に来ないだろう事は想像に難くないが、逆にそれなら目一杯言いたい事を言っても罰はあたらないかな、ということで頑張ってみよう。

オリジナルのアバルト124 とそのベースとなるフィアット124 については前述の試乗記の冒頭である程度の説明をしているために、ここではオリジナルアバルト500 およびフィアット500 について簡単に纏めておく。フィアット500 は初代が1936年に発表され、その後終戦を挟んで1955年まで販売されたが、一般的に知られているのは2代目 (1957−1977) で、イタリア語で500を意味するチンクェチェントと呼ばれ、日本でも "通" の間では "チンク" と呼ぶ慣わしがある。はいっ、ここんとこ覚えておくように、試験に出ますよっ!

チンクのエンジンは空冷直列2気筒 479cc 15ps で、これをリアに搭載していた。サイズは全長 2,970 x 全幅 1,320 x 全高 1,325mm というコンパクトさで、チンクの翌年である1958年に発売された日本のスバル360 が空冷直列2気筒 356cc 16ps を同じくリアに搭載し、サイズは 全長 2,995 x 全幅 1,295 x 全高 1,335mm という可也近いスペックだったのは脅威だが、そこは旧中島飛行機の技術力の高さを証明している。

このオリジナルチンクをベースにシリンダー径 (ボア) を拡大して594cc とする事で出力は 18hp (この時点で) から 32hp へと大幅にアップしたのがアバルト595 で、これが現行型アバルト500 のツールにあたる。ただし、極初期には排気量を変更していないアバルト500 も存在したようで、アバルト自体が最初はマフラーなどのチューニング用パーツを販売していて、それを組み込んだモデルを経てオリジナル車のメーカーになったという、チューナーの代表的成功例というところだ。

話は21世紀に飛んで、フィアットは2007年に2代目500 をイメージした全く新しいフィアット500 を発売した。これは言ってみればレトロルックという部類のクルマで、フォルクスワーゲン ニュービートルやBMW ミニ、そしてフォードマスタングなどと同じコンセプトで、フィアット500 もフロントエンジンの FWD 方式であり、オリジナルのリアエンジンとは全く別物なのはニュービートルと同じだ。

そして今回アバルト124 と比較するアバルト500 は、この現行フィアット 500 をベースに強力なエンジンを搭載するという、その点ではオリジナルと同じ手法を採っている。なおアバルト500 は2017年2月から多少の変更と共にアバルト595に変更となった。んっ、 アバルト595 って? そうです、前述のようにオリジナル500 をベースに大幅チューンナップを施したのがアバルト595 であり、今回この仕来りに合わせて500 のアバルト版を 595 に変更したという訳だ。なお 595 自体はは500の上位モデルとして2013年に発売されていて、500 と並行販売されていたから話はややこしくなる。

そこで現行のアバルト500 と名称変更となったアバルト595 、そしてベースとなるフィアット500 の仕様を一覧表にしておいた。あっ、勿論今回500 と比較するアバルト124 も比較してある、というよりも124 が今回の主役だった。

現行フィアット500 は表に掲げた直列2気筒 0.9L ターボ 85ps のツインエアと直4 1.2L NA 69ps の1.2 というエンジン違いで2種類のバリエーションがあり、 1.2 ポップ は199.8万円と最も安い。しかしチンクらしさからすればオリジナルと同じ2気筒の方を選びたくなる。パワーはターボだけあってツインエアの方が勝っているが、それでもパワーウェイト(P/W) レシオは11.9 kg/ps というどう考えても加速性能は期待できない数値だ。

ここでオマケとしてP/W レシオについて補足すると、現在日本で一般的に使われている車両重量は車両のみの重さであり、実際には少なくとも燃料が無いと走れないし、いやその前にドライバーの体重すら含まれていないから、これでは走行条件とかけ離れている。そこで欧州では UNLADEN 、日本では軽積載と訳しているが、要するに車両重量に満タンの90%の燃料、ドライバーの体重 68kg、荷物7kg を加えたものを使用する事になっている。体重が68kg というのは流石に欧米人の基準だろうが、要するに概ね120kg くらいが加算されることになり、これは実際の走行状況に近い。

ここで気が付くのは燃料は小さい車ならタンクが小さい事も考えられるが、ドライバーの体重は 700kg の軽自動車も2,000 kg 超のSUV も変わらない訳で、2トンに68kg なんて誤差の範囲だが 軽自動車ではほぼ10%も加算する事になる。ということは一般に軽い車ほど計算上の P/W レシオの割には動力性能が良くないと感じる訳で、実際に数値の割に軽自動車は遅いというのは気のせいだけでは無いのだった。そんな程度のモノだから、自分の愛車の値が小数点以下で如何したこうした、というのは全くのナンセンスであり、所詮は単なる参考値ということだ。ただし、上記の事を理解していれば充分に目安にはなる。

さて、どう考えても動力性能を期待できないフィアット500 に比べれば、アバルト500 は伊達にアバルトの名を冠していないという事になる。また500 から595 に名称変更となった 500 は、それを機にパワーアップされたがホンの申し訳程度の 5〜10ps だから殆ど変わらないと考えて良さそうだ。

これに対してアバルト124 は意外にもアバルト500 と比べて車両重量が精々50kg程重いくらいで、その割にはエンジンパワーは大いに勝っているから、動力性能的にもワンランク以上の差があるが、価格もワンランク上で100万円程高い。では何故124 の比較相手が500なのかといえば、現在日本で販売されているアバルトブランドのクルマはこの2種類しか無いということだ。ただし、500 (595) にはカブリオレやパワーアップ版などもあるが基本的には単なるバリエーションと考えられる。

それではいよいよ本題の両車比較を行うが、何時もなら既に日記で詳細な写真比較を済ませていて "詳細はそちらにて" とリンクを貼るのだが、今回のアイテムは日記では扱っていない。すなわち今回が初めてとなる。ああっ、きったね〜んだ。特別編の価値を上げる為に日記で扱わなかったんだ、とか言っているキミ、いやぁ良いとこ突いているじゃねぇか。父ちゃん母ちゃんを大事にしろよ 。

しかし考えてみれば低いボディの2シータースポーツカーと、コロンとダルマみたいなコンパクトハッチバックのエクステリアを比較してもあまり意味は無さそうだが、まあそこは考え方を変えて、アバルトブランドがこんなにタイプの違う2車種しか売っていないという現実を認識するため、という事にしよう。そんな事もありエクステリアの解説文は最小限にするので、各自勝手に評価してもらおう。

前後真正面から比較すると 500 は1,625mm という 124 よりも115mm も狭い全幅に対して、1,515mm という 124 よりも何と 275mm も高い全高という極端な違いが認識できる。ところで 124 の後方からの写真はフルオープン時とした。あっ、きったねーぞ、エコ贔屓しているやがる、何て言われそうなので写真右には 500 (実は限定モデルの695) のオープンモデルを掲げておく。なおオリジナル 500 (2代目) のルーフは何を隠そうキャンバストップが標準だったから、現行500のバリエーションであるキャンバストップモデル 500Cには大いなる意義がある。流石はお洒落なイタリアン、終戦後の混乱期でさえもキャンバストップを標準にするなんて憎いねぇ、このお〜。と言いたいところだが、実はスチールルーフだとリアに積んだ空冷2気筒エンジンのノイズが共鳴して凄まじい騒音となるために、キャンバストップに吸音材の役目を期待しての事だった。

サイドビューを比べると、これまた両車の違いはハッキリとする。しっかしねぇ、この 500 がカッコよく見えるチンクファンっていうのは、一度眼科と精神科を受診した方が良いんじゃねぇかぁ、と煽ってみる。おっと、アクセスアップ狙いの見え見えの燃料投下だった、反省反省‥‥。

さてここからは本命のインテリア比較となるが、マツダ ロードスターをどこまでイタリアンテイストに誤魔化せたか、というのを検証して見る。イタリアンといえばド派手なインテリアが似合うというのが多くの日本人のイメージだが、下の写真を見ればなるほどマツダロードスターベースとは思えないくらいにイタリアンしているのはシートのセンターがレッドというのが最大の理由となる。そのレッドもこうして見ると結構 500 と似たような色具合で、この点だけは譲れないぞ、という気迫さえ感じる。と言ってはみたが、124 でこの内装というのはごく一部のモデルだったりして、まあその辺は色々事情もあるのだうが、124 にアバルトらしさを求めるならば絶対にこのシートの選択は必要だ。

ただしシート自体の形状が全く違うのは、124 の場合表皮はイタリアンだがシート自体はマツダ ロードスターそのものという事情もある。要するにイタリア人とのハーフで、顔はラテンの血を髣髴させるイケメンだが、残念ながら体系はジャパニーズだからハッキリ言って短足だった、みたいなモノかな。

アバルト500 のスカッフプレートは "500" をモチーフにした実にお洒落なロゴが付いていて、こういうラテンのセンスは日本人には如何にもならない部分だ。なお 500 は一応4人乗りだからリアにシートがあるが、ここはレッドの表皮が使われていない。リアシートまでレッドにしていないのはセンスの良さなのか予算が無かっただけなのか?

ドアインナートリムは 124 の場合、わざわざマツダ ロードスターとは全く異なるデザインのものを新設している。そこまで金を掛けたのだから、ここは 500 みたいにアームレスト周辺をレッドにしたいところだが、なぜかまっ黒けだ。対する 500 はオリジナルのフィアット 500 自体がイタリアンだからそれを流用してアームレストをシートセンターと同じレッドにしただけで如何にものアバルト感を演出している。

ところでアバルト 500 のアームレストにあるスイッチはミラーの調整のみでパワーウィンドウの操作スイッチが見当たらない。実はセンターコンソール上にあるのだが、それによりアームレストの特殊感が強調される。さっすがぁ〜はフィアットと思ったが、よく考えればコンソール上にパワーウィンドウスイッチを置く方法は BMW 3シリーズでも十数年前の E46 で採用していたし、40年以上前のメルセデスEクラス (当時はEクラスとは言わなかったが) でも使われていたのを思い出した。

次にダッシュボードを比較するが、これに関しては 124 の場合はどう考えてもマツダのオリジナルを流用するしか手は無いだろうし、事実そのとおりだ。それでもステアリングホイールの中央にアバルトのマークを入れると、これがアバルトっぽくなるから不思議なものだ。

センタークラスターを拡大してみると、ここは当然ながら日・伊のセンスの違いが如実に出るところだ。特に 500 のエアコンの操作パネルのデザインはイタリアンしていて、いやまあ恐れ入りましたというところか。実際、今回の比較でも 500 として最もイタリアらしい部分の一つと思える。

ここまでのインテリア比較では 124 も結構アバルトしてんじゃねぇか、という感じだが、未だ残っている操作系、すなわちコンソールとかメータークラスターとかは 500 の場合、かなりの個性を発揮しているから、こうなると 124 は不利になるかもしれない。

というところで、この続きは後編にて。

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