Abarth 124 Spider (2017/2) 前編 その2

  

フロントが全く違うデザインであることは解ったが骨格は共通の筈で、そうなるとフロントのグリルと一体のバンパー (グリルまでつながっているからカウリングとでも言うべきだが) は一体何処でボディ外板の板金部分と繋がっているのだろうか。写真11-1を見ると、ロードスターの場合はヘッドライトの上端のラインから下が樹脂の一体部品であることは容易に判断できる。しかし 124 の場合はボンネットフードから下の部分が一体になってサイドのフェンダーまで回り込んでいる。となるとボディサイドの前の方、要するにフェンダーに繋ぎ目がある筈だ、と思って調べて結果が写真11-2 で、ボディーカラーがレッドの為に写真でも分割線が認識できる。なーる程ねぇ、こんなところで上手く繋いでいたんだぁ。ところで 124 のこの部品の材質はと言えば、ライト回りの深い絞りなどを考えれば板金プレスという訳ではないだろうから、多分樹脂の一体成型と思われる。

それでは後部はどうなっているのかとトランクリッドを開けてみると、何と中身は全く同じだった (写真12) 。ここもフロントと同じで外部のパネルは全く違うもののフレームは同じという上手い設計で切り抜けている。それにしてもロードスターのオリジナルのフレームを上手く利用して、最小限の部品変更でマルで違うスタイルにしているという事をみると、最近のマツダの技術は本当に大したものだ。

写真11-1
ロードスターはフロントバンパーがヘッドライト上面で分割されているが、124 は判らない?

写真11-2
実は 124 はフロントバンパーがフェンダーサイドまで回り込んた位置で分割されている。


写真12
トランクリッドを開けてみると、ここも中は全く同じだった。

アバルト 124 の場合どう考えてもブランド料が入っているだろう事は当然であり、そのためにも性能には関係無いとはいえアバルトに関するロゴなどのエンブレムがオリジナルのマツダ ブランドとどう違うかというのも重要な事だ。先ずはフロントのボンネットカバー先端を比べると、124 にはサソリの付いた "ABARTH" マークでロードスターはマツダのマークが付いてる、って、そりゃあ当たり前だ (写真13) 。リアにも当然ながら其々のマークと、車種を表す "124 Spider" および "RORDSTER" というエンブレムが付いている (写真14) 。

そして差別化と言えばクルマの世界では高性能 (=高価格) モデルにはより立派な排気管が付いているのが常識だが、それで両車を比べた結果はロードスターでは右側からダブルが見える。なる程ここはオープンスポーツカーだけあって、ファミリーカーのような細くてショボイ1本出しとは違うということだ。それでは 124 はとえいば、これはもうロードスターと差別化する為にも左右から其々ダブルでの合計4本出しとなっている。

写真13
フロントボンネット先端には其々のマークが付いている。


写真14
リア中央の其々のマークとサイドには車種のエンブレムが見える。

写真15
排気管は 124 が左右のダブルで合計4本出し、ロードスターは右のみダブルの2本出しと差別化されている。

ドアを開けて両車のシートを見比べると、ムッ? これ、もしかして、形状は同じではないのか (写真16) 。そこでもう少し拡大してみると、表皮の違いと共に素材の接ぎ目の位置が多少違うが、中身のフレームやウレタン (クッション) はどう見ても共通に思える (写真17) 。すなわち、表皮を変える事でアバルトらしく見せているのだった。なお、米国仕様ではオプションとしてレカロシートがあるようだ。

シートのポジション調整はマニュアル式でこれもマツダ ロードスターと共通と思われる (写真18) 。そしてシート表皮は前述の日記で触れているが、その後これも補足したが、その後これも違うという話もあり輸入元 (実は輸入ではないが) も大分混乱しているようだ。とは言え今回の趣旨、すなわちオリジナルのマツダ ロードスターと日本で買えるアバルト 124 の違いを知りたいという事からすれば、まあオプションの組み合わせの詳細なんていうのは実際に購入するユーザーが営業マンと話を詰めれば良いことで、ここではこれ以上触れる事はしない。


写真16
シート形状はよく見れば同一で、中のフレームやウレタンクッション類は共通だろう。


写真17
ヘッドレスト付近も実は同じ形状となっている。米国仕様ではオプションでレカロシートが設定されている。


写真18
シートのポジション調整も同じ。

ドアのインナートリムについても当然ながらロードスターと共通だ‥‥と思ったらば、何とこの部分は全く違った。この辺は ABARTH というか FIAT のポリシーなのだろうか? それで実際に見比べてみると、流石に ABARTH の方がイタリアンテイストと高級感では勝っている‥‥と思うのが普通だが、まあ好みの問題はあるにしても表面の質感やらフェイクとは言え赤いステッチなど、どう贔屓目に見てもマツダの方が勝っているように見える (写真10~11) 。この理由を想像すれば、ロードスターは生産台数が多いことからイニシャルコスト、すなわち金型や治具等の設備に予算が掛けられるのに対して、124 では生産台数が少ないので設備の償却を考えればフェイクステッチなんかを導入するのは無理な話で、この辺はオープンスポーツの最量販車 (多分) であるマツダ ロードスタ−の強みと想像する。いや、その前に何故に 124 がここだけオリジナルにしたのか知りたいものだが。


写真19
内装の殆どを共有している両車だが、ドアのインナートリムは全く異なっている。


写真20
何やらロードスターの方が手が込んでいるのは生産数量の違いだろうか。

ダッシュボードやセンタークラスターは当然ながらロードスターと同じだ。普通国産車ではCセグメント以下の小型車 (すなわち低価格車) ではオーディオレスが標準で、これにCDラジオや市販のナビ一体型オーディオを後付するのが一般的だ。しかしこれが上級車になると、主流はオーディオ、ナビ、エアコン等を一体で制御するようなシステム化が行われている。

ところが、マツダの場合は下位のセグメントでもダッシュボード天板から飛び出したディスプレイや (写真22) 、システムを制御するためのコマンドダイヤルをコンソール上に配置する (写真23) など、他車では上級セグメントでないとオプションすら用意されていないシステムが一部のグレードを除いて殆ど全ての製品で標準装備されている。そしてユニークなのはナビについてはアプリケーションをカードメモリ−で提供することで数万円程度の投資でナビが付くし、これは納車時ではなくとも後ほどゆっくりと対応することが出来るという大変な優れものだ。

そのマツダのシステムをそのまま流用した 124 は、これらのメリットをそのまんま使用できるわけで、これは FIAT 側にとっても美味しい事実だ。

写真21-1
ダッシュボードは勿論ロードスターからの流用となっている。しかもステアリングホイールまで中央のエンブレム以外は同じのようだ。

写真21-2
オリジナルのマツダ ロードスターのダッシュボード。


写真22
センタークラスターも全く同じだが、これにより 124 も先端のオーディオ、ナビ一体の情報システムが標準装備出来る。


写真23
コンソールとそこに配置された機器類も全く共通となっている。

ということで、いやいや、中々上手い設計をしているじゅあないか。

さて一番の興味である走行について今回は中編 (AT) および 後編 (MT) というように、両方のトランスミッションを比較してみる。先ずは AT をから‥‥

⇒中編 (AT車試乗編) へ