Porsche 718 Boxster (2016/12) 後編 2 |
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ここで前回試乗した 991 Ph2 のカレラS (以下991S) と比較をしてみると、あちらは発進時のアイドリングに毛の生えたような回転域から強大なトルクを感じ、ちょっとラフなアクセル操作をすると飛び出すくらいに過激だった。これに対して同じく常識では低回転域から飛んでもなく強大なトルクを感じる 718 ではあるが、特に極低速域では 991S 程ではなかった。そこで下のグラフと比べてみると991S は1,300rpmで何と380N-m、すなわち 718 の最大トルクと同一値となっているから、確かにアイドリングプラスαの回転域で有り余るトルクに振り回されるのが判る。対する 718 は 1,300rpm では約180N-m であり、1,500rpm でも220N-m で、これは 981ボクスターと殆ど同じ値だ。しかしその 1,500rpm から 2,000rpm までの間で急激にトルクが立ち上がっているから、この部分がグイグイと加速が上がることを体感できる範囲となる訳で、確かに実際の加速感もこれに近い。 さて次に操舵性や旋回性について纏めてみる。今回のハイライトはエンジンの小排気量ターボ化という如何にも解りやすい内容で、しかも結果はフィーリング云々を別にして性能的には圧倒的なアップだった。ところがシャーシーについては細かい改良があるだろうがエンジンのようなドラスティックな変化が無い事と、もともと動力性能のように数字で表し難いフィーリングの領域の操舵感などは正直言って 981 からの大きな違いは感じられなかった。というか操舵感についてはポルシェに関わらず BMW でも同様だが、そのイヤーモデルによって軽くなったり重くなったりと常に考えが変わっているような事実がある。 そして旋回性については、何を隠そう今回も勝手知ったるワインディング路で試す予定でその場所に向かって行ったのだが、運悪く時間的に激混み情況で渋滞となってしまい、予定の時間迄に戻れそうも無いことから途中で引き返す羽目になってしまった。そうなると帰路である程度見極める必要があり、一般道のコーナーなども少し意識して (要するに少し旋回速度を上げて) 走ってみたが、その程度では極弱いアンダーステアと充分すぎる程の安定性は持っているのが確認出来たという程度だった。ただし、帰りの国道バイパスではちょっと急いだので多少上品ではない走り、すなわち3車線の道路の空いた車線を求めて頻繁な車線変更をする事になったのだが、この時素早い操作をすると間髪を置かずにクイックに車両は隣の車線に移動した。これは明らかに 981 を上回っている。そこで理由を考えるために先ずは車両重量を比較したが殆ど変わらす、いやむしろ多少 (10s) 増えているので軽量化による恩恵は無い。それでは何かと想像すれば、それは6気筒から4気筒になった事でエンジンが短くなり、その結果車両中心 (重心) 側に重量配分が変わり、これで重心からの回転モーメントが減った事が原因だろう。あの様な動きはステアリング系のメカを云々などでは実現出来るものでは無く、どう考えても物理的な原因だろうから回転モーメントの減少が原因という推理には間違いないだろう。 ブレーキについてはナンタって宇宙一のポルシェのブレーキだから廉価モデルとは言え他社とは一線を画す性能に変わりはないが、実は 718 では今回の試乗車のような ”素の” モデルと ”S” とでは明らかにキャリパーサイズが異なっていた。981 迄はSのキャリパーは色こそ違うものの中身は一緒!というイマイチいんちき臭いものだったが、718 ではフロントキャリパーを比べると明らかにSの方がサイズが大きい (写真39~40) 。ボルシェは加速の良いクルマほど減速 (ブレーキング) も良くあるべきというポリシーだから、997カレラSと同等の性能ならばブレーキも同等品が必要という事だ。ここで何故に減速度が大きくなるとフロントブレーキの強化が必要かとえば、減速度が大きい程フロントへの荷重移動が大きくなるからで、リアヘビーのポルシェと言えどもこれだけの性能となると動的な荷重はフロントが大きく上回る。何しろ718 の場合、Sでは350ps, 420N-m というエンジン性能であり、これは何と先代911 である997 の前期カレラSの355ps, 400N-m と同等であり、カレラSの赤キャリパーはカレラよりも大きなサイズを使用していたから、718 もそれと同等のサイズで当然なのだった。 なお今回試乗した ”素の” 718 (300ps, 380N-m) でも 997前期の ”素の” カレラの 325ps, 370N-m と比べてもパワーで 25ps 少ないとは言えトルクでは 10N-m 勝っているから事実上は同等という事になる。 |
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それにしても 718 は 12年前に FMC した時のカレラ&カレラSに性能的に追いついてしまった事になり、やはり最新のポルシェは最良のポルシェに間違いは無かった。そして圧倒的な性能アップと引き換えに古き良き時代の6気筒自然吸気エンジンのフィーリングは失われた訳だが、それを言ったら空冷エンジンが水冷化された時も同様の事が起きていた訳で、これも時代の流れという事だ。しかしここで興味が湧くのは718 の6気筒搭載モデルが販売されることが有るのか否かという事だが、さてそれはどうだろうか。 最後に 718 は買いか? については、予算があって本当にクルマが好きなら買っても絶対に損は無いと思う。しかも最近は走りでは有利なクローズドボディーの兄弟車であるケイマンの方がオープンボディのボクスターよりも安いという価格体系になったから、素のケイマン (PDK:671万円) に最小限のオプションを付けて700万円也で一時代前 (996) のカレラ同等の性能が楽しめるという訳で、更に6MT ならば50万円程安くなるからこれは絶対買い得だ。とベタ褒めしたところで今回は終わりにしよう。
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