BMW i3 (2014/9) 前編

  

BMWの電気自動車(EV)というと、i8とかいう如何にも高価そうなスポーツカーというのは何となく知っているが、あれはショーモデルみたいなもので、売ってはいるらしいが余程の金持ちでもまず買うことは無さそうなクルマだ。それでも、i8って今現在売っているのかを知りたくなり、BMWのサイドで調べたらばi8の項目はあるのだが価格が表示されて無い。それでも販売はBMW i 販売店が取り扱っているそうだが、 i 販売店って何? という感じだ。

結局BMWの公式サイトではよく解らなかったのでネット上で色んな情報を集めてみたらば価格は1,917万円で、納車までは1年とも2年とも言われているようだ。まあ、数量自体が少ないのだろうが、これを心待ちにしている幸せなオーナーもいる訳だ。とはいえ1年待ちなんていうのはポルシェ ボクスター/ケイマンだってチョッと変わった仕様を注文すると、春に注文しても特殊仕様をまとめて生産ラインに流すのは2~3月ごろだったりするから日本に到着して通関してPDI を行えばちょうと1年待ちとなる。以前911 (996) の右ハンドルMT仕様を注文したらば1年経っても納車されず、結局日本に届いたものは何とFMCした997だったという、嘘のようだが本当の話もあるくらいだから、i8 なんていう特種なクルマならば驚くべき事では無い。

それで i8 だが、概略の仕様はエンジンが直列3気筒 1.5L 231ps 320Nmで‥‥えっ? エンジン?? 何とこのクルマ、EVだとばかり思っていたらばプラグインハイブリッド(PHV)だったらしい。そして電気モーターは113ps 250Nmというから、まあ大したことはない、というかスーパーカールックの割にはこんな性能で良いのだろうか。と思ったらば、車両重量が1,490kgと軽いことと、エンジンとモーターのシステム合計では362ps(何やら計算が合わないが?)になるそうで、0-100 q/h加速も4.4秒というから、これは立派な高性能車ではある。

そしていよいよ本題の i3 だが、i8 がPHVということは真っ当なEV という意味では i3 はBMW初であり、しかも普通に生産して売っている量産車だし、価格だって500万円という現実的なものだ。

現在日本国内で販売されている量産EVとしては、現実的な価格としては日本初のEVであったミツビシ i-MiEVが思い当たるが、これは軽自動車であるなどの不利な面もあったのだが、それでも他にライバルがいない状況では意義があった。ところが i-MiEVの発売(2009年6月)から僅か半年後の2009年12月にニッサンから発売されたリーフは車格としてはCセグメントであり、モーターのパワーもトルクも圧倒的に勝っていながら、価格は補助金適用後でも i-MiEV より多少安いくらいの価格設定であり、これではミツビシの立場は丸潰れだが、勿論その後 i-MiEV も値下げをしたのは言うまでも無い。それでも現行価格をみれば軽自動車とC セグメント車の価格差が35万円程度という妙なことになっている。

そこで比較相手をリーフに絞ってみると、アウターサイズは長さ方向ではリーフが1クラス、いや。2クラスくらい上と言ってもいいくらいに大きいが、幅方向に関しては全幅は同等でトレッドに至ってはi3のほうがより広く、この辺は思想と交通状況の違いだろうか。とはいえ、リーフは日本国内専用ではなく世界の各地で販売するだろうが、それでも日本の事情を充分に加味しているとも思えるのは、米国に目が向いている最近のニッサンにしては珍しいことだ。対する i3 のアウターサイズなどの詳細については次項にて写真を交えての検討とするので、ここでは触れないことにする。

EVであるからには最も興味のあることはモーターの特性や性能だが、両車はトルクの最大値こそ同等だが発生回転数は低回転域から最大トルクを発生し、しかもそのまま4,800rpmまでフラットな i3 は出力で比べるとリーフ(109ps)よりも50%以上も優っているし、加えて車両重量はリーフ(1,430kg)よりも 軽量(i3、1,260kg) なこともあり、パワーウェイト (P/W) レシオ (i3:7.4kg/ps、LEAF:13.1kg/ps) では大いに差が付いている。なお、i3は諸元ではモーターの最大トルクの下限が100rpmと表記されているが、右の表を見れば停止(0rpm)から最大トルクを発生しているし、実際にメーカーの公式サイトでも停止から最大トルクを発生すると書いてある。

ということを踏まえた上で早速 i3 のエクステリアから見ていこう。トップ写真のようにフロントのグリルを見れば明らかにBMWの製品とは判るが、実際に目の前で見るとBMWにしては随分と小さいのを感じるが、そりゃあまあ、全長が4mといえばVW ポロと同等だから小さく見えるのも当然だ。その割には全高は1,550oもあるから、何やらコロンとしていてどう見てみスタイリッシュとは言えない。

このi3はBMW LifeDriveと呼ばれる全く新たに開発されたオリジナルのボディ構造を持っている。ボディはパッセンジャー・セルと呼ばれる居住エリアを一体のカーボン・ファイバー強化樹脂(CFRP)製として軽量化を図っている。CFRPを量産車に使ったというのは世界でも初だろう。それとともにシャシー・コンポーネントやドライブ・コンポーネントならびに高電圧バッテリーを搭載したドライブ・モジュールという部分の2つで構成されている。LEAFよりも170kgも軽量だった理由は、このような全く新しいオリジナルのボディ構造がもたらしたものだったのだが、このようなオリジナルの発想では、やっぱりドイツに敵わない面がある。トヨタのプリウスに始まるHVも確かにユニークなオリジナル技術を多数使用しているが、このi3のオリジナリティーには唖然とするばかりだ。

i3のエクステリアの特徴はフロントボンネットカバー → ルーフ → リアゲートと継る幅方向の部分が全て光沢のあるブラックで、これをBMWではブラックベルトと呼んでいて素材は恐らく樹脂製だろう。そしてサイドパネルと前後バンパーがカラー塗装されている。写真のクルマはソーラー・オレンジというカラーだが、その他にはグレー系とシルバー系がそれぞれ各2種類、そしてカバリス・ホワイトという6種類がある。


写真1
小さいボディでもフロントにはシッカリとキドニーグリルがついていて、誰が見てもBMWと判る。


写真2
リアビューは中央のBMWマークがなければ何の車だか判らない。 勿論エクゾーストパイプは見えない、というか無い。


写真3
サイドビューは短い全長に対して妙に大きなホイールなど、決してスタイリッシュとは言えない。


写真4
エクステリアは言ってみればSUV的なもので、短い全長から一見すると随分小さいクルマに見える。

i3に関してはカタログも他のBMW車とは異なり、細かい装備表などはなく詳細が判らない部分が多々ある。それでヘッドライトについては当然ながらLEDタイプ、と思ったがLEDヘッドライトはオプションになっていた。ということは標準はというと‥‥カタログを見ても解らなかった。リアゲートはボンネットからつながる例のブラックベルトと呼ぶブラック塗装で、テールランプのユニットも一体化されている。そしてリアのラッゲージスペースはというと、全長が短いことやスペース的に不利なEVであることを考えれば充分なスペースがあると言えそうだ。

ところでi3 を見ると気が付く事としてボディの塗装が光り輝いていることで、これは従来のスチールボディと異なり塗料の乗りが悪いために特種な塗料を使っているそうで、結果的に表面の艶が全く異なる結果になったらしい。


写真5
LEDヘッドライトはオプション装備となっている。


写真6
テールランプはボンネットから継るブラックベルトと一体になっている。


写真7
短い全長やEVということを考慮すればラッゲージスペースは結構広い。


写真8
ボンネットカバーを開けても当然ながらエンジンはない。

いよいよドアを開けてインテリアを見るのだが、既に日記でも述べているように i3のドアは観音開きでガバっと、まるで軽のハイトワゴンみたい大胆に開いた開口部に驚く。そしてこの状態で気が付くのは室内のフロア位置が高い割にはボディ底面の位置は結構低いことで、実はこの空間にバッテリーが入っているのは既に説明したドライブモジュールの構造を見れば判る訳だが、このレイアウト自体はLEAFなどでも同様となっている(写真9)。

注目の観音開きのドアは実にガッチリと出来ていて、国産のペラペラでフロントドアを開けたら残ったリアドアはグラグラしているようなものとは違うのは流石にBMWだ。すなわち、最初にフロントドアを開けた状態ではリアドアが観音開きでBピラーが存在しない、何て言うことは全く想像できないくらいにシッカリと出来ているリアドアは、閉めた状態ではマルでBピラーみたいに見える(写真10、右側)。それがリアドアを開けると、あっと驚く巨大な開口部となるわけで、これを室内側から見てもリアドアが閉まっている状態ではリアパッセンジャーからみれば2ドア車のリアに収まっているような感じとなり、この壁がまさか開くとは、なんていう状況だ(写真11)。

今回の試乗車はインテリアカラーが明るいアイボリーのために巨大な開口部から見えるインテリアは如何にもモダーンなEVにふさわしいものだ。ただし、バリエーションにはブラックもあるようで、カタログ写真を見るとアイボリーとは全くインテリアの雰囲気が変わってしまう。そしてそのインテリア素材はといえば、これがまた新時代への拘りというか環境に目一杯配慮していて、随所に天然繊維など再生可能な原材料が目に見える形で使用されている。

シート表皮を見ると今までのBMWでお馴染みのファブリックとは少し違うのは、シート素材が100%リサイクル繊維によって作られているからで、オプションのレザーシートではなめしにオリーブオイルと使っているという。

写真9
ドアは観音開きでガバっと、まるで軽のハイトワゴンみたい大胆に開く。

写真10
フロントドアを開けた状態ではリアドアが観音開きでBピラーが存在しない、何て言うことは全く想像できないくらいにシッカリと出来ている。

写真11
室内側から見てもリアドアが閉まっている状態ではリアパッセンジャーからみれば2ドア車のリアに収まっているような感じとなり、この壁がまさか開くとは思えない。
そして全開した時のギャップに驚くことになる。


写真12
シート素材は100%リサイクル繊維を使用している。


写真13
スカッフプレードなどは存在せず、CFRPの素材らしきものが見えている。

ドアのインナートリムは従来のBMW車とは一線を画していて、デザインも素材も先進的だ。ドアトリムを拡大すると黒い樹脂の部分はガラス繊維が見えているような表面加工なしの素材を使用しているのも新しい。サイドウィンドウの開閉スイッチはフロント用と思しきものしかないから、リアドアのウィンドウは開かないのだろう。

写真14
従来のBMW車とは一線を画していて、デザインも素材も先進的なドアトリム。

写真15
黒い樹脂の部分はガラス繊維が見えているような表面加工なしの素材を使用している。
サイドウィンドウの開閉スイッチはフロント用と思しきものしかないから、リアドアのウィンドウは開かないのだろう。

インパネデザインも他のBMW車とは大分異なるが、キャビン内のプラスチック重量の25%が、再生可能またはリサイクル可能な原材料が使用されていて、またインテリアトリムにはヨーロッパで栽培され、森林管理協議会(Forest Stewardship Council®)により認証されたユーカリ材のみを使用するとで、輸送距離の短縮につながり、これがCO2排出削減に貢献するらしい。また前出のCFRPボディについては米ワシントン州のモーゼスレイク工場で製造されているのは、CFRPは製造工程で結構な電力を必要とするために水力発電で供給される同州を選んだということだ。しかし米国から欧州にボディーを輸送するって、ボディ輸送でのCO2は大丈夫なのか、なんていう疑問もある。それに水力発電がクリーンなのは判るが、クリーンといえば原子力!という事だったんじゃあないか、な〜んて嫌味も言いたくなるが、311の前までは本気でそんな宣伝をしていたし、多くの日本人がそれを信じて疑わなかったのだから。えっ? 今でも原子力はクリーンだって信じているって? そうか、福島の事故は収束したって政府が宣言したし、30q圏も除染の結果近いうちに戻れるって? と、何やら変な方向に行ってしまったが、要するに i3 はBMWの環境に対するポリシーも含めての提言ということのようだ。

次にインパネ周りを見てみれば、やはり従来のBMWとは一味、いや二味は違いそうだ。そしてセンタークラスターというよりもダッシュパネルの水平部にオーディオ&エアコン関係のパネルが組込まれているという感じになっている(写真16)。その操作パネル部分を拡大してみると、下半分はエアアウトレットで上半分は大部分がエアコン関係となり、オーディは上部の極一部となっている(写真17)。

写真16
インテリアトリムの材質が異なるくらいでそれ以外はグレード差が無いインパネ。
インテリアはプラスチック重量の25%が、再生可能またはリサイクル可能な原材料を使用している。

写真17
操作パネル部分の下半分はエアアウトレットで上半分は大部分がエアコン関係となり、オーディは上部の極一部となっている。

EVというのは未だ最先端技術ということもあり、各部を見回しただけでも斬新なアイディアが盛り込まれているのが判るi3 だが、さてその走りはということで、この続きは後編にて。


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