その昔はメルセデスといえば今で言うSクラスを指していて、フルサイズではない言わば廉価版のメルセデス、今で言うところのEクラスだが、そのルーツは厳密に言えば戦後では1961年から発売されたW110という説が一般的だと思う。ただし、W110はフルサイズのW111と基本構造を共有していたから、その意味では後継車であるW114が真の意味でのEクラスのルーツということになる。そして、このW114の後継車種が例のW123で、これこそ B_Otaku が始めてステアリングを握って、そのシャーシー性能に度肝を抜かれて、当時の国産車のダメさを身を持って感じてしまい、それ以後欧州車(というよりもメルセデスの)の良さを常に周りにアピールしてきたのだが、国産車がそんなに劣るわけがないという愛国精神の塊である無知な立派な日本国民が多いのか、なかなか理解は得られなかった。まあ、自分自身もW123 を知るまでは国産のGTという名の付くクルマだって欧州車との差は極一部と思っていたいたわけだから偉そうなことは言えないが‥‥。
話を戻すと、フルサイズではないメルセデスは少なくともW114 時代には”コンパクト”とも呼ばれていたようで、実際にW123 は確かにマニアの間ではコンパクトメルセデスと言って通用したが、これをコンパクトと呼ぶのを知ったのは当時では輸入車ファンのバイブルでもあったカー雑誌、カーグラフィックの小林彰太郎エディターの記事だった。因みにエディターという言葉も小林氏の文章で知ったのだが。ただし、当時の日本車の常識である全幅1,700o以内、要するに5ナンバーサイズからすれば確かW123の全幅は1,800oくらいもあった覚えがあり、どこが”コンパクト”なんじゃあ!なんて下品な表現はしないまでも多少の疑問はあったが、これは日本との文化の差であろうと解釈していたものだった。
そんな状況が大きく変わったのはEクラスよりも更に小型の、日本では5ナンバークラスに適合する190E(W201) が発売されたことだった。5ナンバーの小型車といえどもそこはメルセデスであり、前述のW123 の後継車であるW124に極めて類似したクルマであり、今は死語となってしまった「最善か、無か」という思想だったから、たとえ小型車(当時の日本でも5ナンバー登録だった)である190Eでも決して妥協はしていなかった。このW124 はメルセデスの歴史の中でも最も成功したクルマであり、実際の発売は190E より遅かったが両車の共通点は多く、同時に開発が進んだことは間違いない。実際に当時街中でW201を見ても、フロントから見る限りはW124との区別は付きづらかったが、実はナンバープレートを見れば一目瞭然で、5ナンバーならば190E と見分られたのだった。それで当時は190E を「小ベンツ」といってバカにしていた輩も多かったが、勿論その連中がEクラス以上のオーナーの訳がなく、言ってみればN大を馬鹿にするのは高卒か専門卒だったりするのと同じことだ。
ところで各セグメントを表すクラス名のS、E 、C というのは何を意味しているのかといえば一節によるとSクラスは "Specialty" 、Eクラスは "Executive" 、Cクラスは"Compact" だそうだが、そうなるとW20*をコンパクトと呼ぶのはCクラスとなったW202からだということになるが、まあ、この辺は定かではないしだからどうした、という程度のものだ。要はメルセデスというのはSクラスが本来の姿であり、C クラスは勿論 E クラスだって廉価版というかコンパクトなメルセデスとされていたというくらいの高級車メーカーだったが、今ではC クラスどころかBやAなんていうのまで出てきて昔とは全く変わってしまった、ということが重要なのだ。
また話が横道にそれたが、内容的にはEクラスを多少小さくしただけの190Eだったから、ブレーキも当たり前のように対向ピストンが付いていた。当時はメルセデスのブレーキは有無を言わさず対向ピストン(オポーズド)であり、片押しキャリパーなんていうのはクルマじゃあない!と、言ったかどうかは判らないが、考えとしてはそういうことだったのだろう。ところが初代Cクラス(W202)ではより大きく、より安くに方針が変わってしまい、その次のW203では更にコストダウンが進んで、気が付いてみたらばCクラスは勿論のこと、Eクラスまで片押しキャリパーが標準となったしまったが、それでも流石にSクラスは伝統的にオポーズドキャリパーを標準としていて、多分片押しキャリパーの付いたSクラスというのは無かったはずだ。そして、メルセデスのブレーキフィーリングといえば他社に比べて極端に遊びが少なくでガッチガチのブレーキが思い浮かぶくらいに、BMWとはフィーリングを異にしていた。ところが、先代W204ではまるでBMWのような大きな遊びと軽い踏力に変わってしまった。
それでは今回の新型はというと、C180 AVANGARDは前後とも片押しのシングルピストンキャリパーという極普通のタイプが付いている。しかし、C200 AMG Line はフロントに4ピストンのアルミオポーズドキャリパーとドリルドトーターが装着されている。そして効き味はといえばどちらも先代よりは本来のメルセデス的に、すなわち少ない遊びと多少重めの踏力で踏めば踏むほど効いてくるが、しっかり踏まないと効かないというヤツで、個人的にはメルセデスはこれで良いと思う。ということは立派なオポーズドキャリパーを使っている C200 AMG Line は極普通の片押しキャリパーの C180 AVANGARDとでは一般的な走行をする限りではフィーリング上では大きな差はないということだ。まあ、これは最近のクルマではよくあることで、ニッサン スカイラインやフーガなどもオポーズドキャリパーのスポーツモデルと片押しキャリパーの一般モデルとのフィーリングにはそれ程大きな差はない訳で、実を言えばブレーキフィーリングを変えるにはブレーキパッドを交換するのが一番効果がある。言い換えると、性能の悪いバッドを付けるといくら高級なブレーキメカを使ってもその性能が全く発揮されない、ということになる。更にはBMWのような喰いつくようなフィーリングも、その大部分はパッドの特性が原因となっていて、その証拠にBMWと全く同じメーカーの同じ材質のパッドを純正採用しているレクサスのブレーキはBMWとほぼ同じ喰いつくようなフィーリングを持っている。
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