Mercedes Benz C180 & C200 (2014/9) 後編

  

中編では動力性能について両車の試乗結果を比較したが、この後編ではその続編として操舵性やブレーキ等についての試乗結果を比較する。

先ずはC180 AVANGARDから操舵性について試してみるが、今回の試乗コースには本格的なワインディングロードというものは無かったから本当のところは判らないが、通常走行の限りでは適度にクリックなステアリングは以前のメルセデスとは打って変わって、スポーティすら感じられるのは既に先代W204から実施されていて、要するに3シリーズ対策でメルセデスの伝統を綺麗さっぱり捨て去ったわけだが、これは正解だったと思う。

このステアリング特性は当然ながら走行モードでも変わり、上記のフィーリングはCOMFORTの時で、これをSPORTにすると更にレスポンスは向上し、SPORT+では従来のメルセデスでは有り得ないくらいにクリックになるが、BMWのSPORT+使用時のようにオーバーレスポンスぎみという訳では無く、極々自然でありながら極めてクイックという、もう自分自身がベタ褒めモードから抜け出ることができなくなってしまうくらいだ。と、速報版では書いたが、この件についてはC200 AMG Lineの項目で補足する。

それで、前述のように今回はワインディング路は無かったが、途中のコーナーや右折時で試した限りでは極々自然でアンダーステアも弱いようだが、BMW3シリーズ程にはニュートラルでは無さそうで、まあ重量配分からしても3シリーズ程徹底した前後50:50という訳でもなさそうで、これについては別の機会にもっと徹底して試したみたいと思っている。

次にC180の乗り心地はといえば、基本的には固めだが勿論シッカリしたサスとキチッとショックを吸収するダンパーに剛性の高いボディだから乗り心地が悪いわけがない。元々Cクラスは3シリーズよりも乗り心地重視の傾向があったが、最近は3シリーズを意識して結構スポーティーなセッティングになってきた。まあ、それを言ったらマツダのスカイアクティブサスだって乗り心地と安定性を両立していたりして、メルセデスのアドバンテージも昔ほどではない、というか国産車が、いやマツダの進歩が著しかったとも言える。


写真31
AVANTGARDはC180、C200ともに225/50R17タイヤが標準で、AMG Lineはフロント:225/45R18、リア:245/40R18タイヤにAMG5スポークホイールを装着している。

次にC200 AMG Lineの操舵性についてだが、その前の予備知識として今回試乗したC180 AVANGARD とC200 AMG Lineにはサスペンション形式に大きな違いがあることを認識しておこう。今回の新型Cクラスには連続可変ダンパーとエアサスペンションを電子制御することで快適性と俊敏性を両立するAIR MATIC サスペンションという機構があり、これはC250 SPORT に標準装備され、C200 AVANTGARDN にはパッケージオプションとなっているが、AMG Line にはこのオプションが標準で装着されているために、今回のC200 AMG Lineにも当然このAIR MATIC サスペンションが装着されていた。

それではC200 AMG Line の試乗レポートを再開しよう。

最初に駐車場から出るときにチョッと大きめの歩道の段差を降りながら公道に出るような状況で、この時段差を降りた瞬間に結構きついショックを感じたが、勿論一発でシッカリと収まったのはダンパーが"良い仕事"をしているからだろうが、この時はAMG Lineというグレードから相当にスポーティーなサスであろうと想像した。ところが、その後の一般道走行ではそんな硬さや粗さは一切なく、寧ろ乗り心地はかなり良い部類であることにチョッと戸惑ったが、実は上述のAIRMATICアジリティーパッケージが付いているわけで、エアサスというと何やら観光バスのフワフワサスが目に浮かぶが、そこはメルセデスだからエアーっぱさは全くなく、硬いが安定性抜群で乗り心地もすこぶる良いものだった。これに近いのはポルシェ カレラに電子制御のサス(PASM) を付けた時で、考えてみればどちらも電子制御のダンパーを備えていたから似ていて当然でもあるが、何れにしてもこのAMG Lineのサスには高得点が付けられる。

それで肝心の旋回性能だが、C200 AMG Line の試乗コースは片側1車線の一般(地方)道が多くで途中には何箇所かのブラインドコーナーがあった。ただし、結構狭くて全く先も見えない正にブラインドコーナーであることから無理な進入速度は禁物だが、それでも少し速めで入ったコーナーは全く何事もなかったかのように通過してしまった。この時は走行モード、もといアジリティースイッチはスポーツにしておいた。そしてライバルと比較すると、3シリーズのようにドライバーに楽しさを与えるようなことはなく、また如何にもニュートラルなオンザレールでもなく、多少のアンダーステアを感じる。この点では3シリーズを意識して以前よりもスポーティーな味付けに路線変更したメルセデスではあるが、やっぱりBMWの操る楽しみには至っていなかったという結果だが、まあ、これは好みの問題でもある。

操舵感については、C180 AVANTGARDではベタ褒め状態だったから、今回は相当な期待をしていたのだが、ステアリング系の剛性感や中心付近の遊びは劇的な違いというのは感じられないどころかが、むしろC180 AVANTGARDの方が良いくらいだった。これは一体どうしたことかと考えた時、いくつかの原因が推定された。先ず考えられるのは1.6LであるC180の方が2.0LのC200よりも車両重量、取り分けフロントの軸重が軽いという可能性であり、早速車両重量を比べてみたらばその違いは30kgしかなかった。まあそれでもフィーリングの違いにはなるだろうが、排気量の差程には違わないのは既述のように両車はシリンダー径は同じでストロークのみ異なり、エンジン型式も基本的には同じであることが原因であろう。

更にはタイヤの違いも原因かもしれない。両車のタイヤはAVANTGARDはC180、C200ともに225/50R17 タイヤが標準で、AMG Lineはフロント:225/45R18、リア:245/40R18タイヤにAMG5スポークホイールを装着している(写真31)のだが、AMG Line の太めのリアタイヤが逆に悪い結果となった可能性もあるが、ホイール径が違うとはいえフロントの幅はどちらも225であるとかで、どうもそれ程の原因とも思えないが、結局は色々な事実が重なったのだろう。

というように、ここで納得しておけば波風も立たないのだが、実はもう一つ気になることがある。というのはC180 AVANTGARDの試乗は発表早々に六本木のメルセデス直営ショールムで行ったもので、この試乗車は日本向けの量産仕様に先立ってサンプル輸入されたクルマで、車検も型式未取得の少量輸入車枠でのナンバー取得らしく、ということは欧州仕様? 右ハンドルだったから英国仕様の可能性は十分にある。実は以前、メルセデス初の新時代ディーゼル乗用車の日本国内販売ということでE320 CDIに試乗して結果は抜群だったのに、その後のFMCされたE350 BlueTec(ディーゼル)はそれほど良くなかったということがあった。実は最初に試乗したクルマは英国仕様をサンプル輸入したものだった。ということは、今回も同じ現象の可能性はある。最近は各国の自動車に関する法律を合わせることで、相互認証する制度が進みつつあるとはいえ、やはり日本国内仕様は欧州向けよりも"鮮度"が落ちているのかもしれない。

 
写真32
AMG Lineに標準、C200 AVANTGARD にオプションとなる、電子制御の可変ダンパーとエアサスによるAIRMATICサスペンション。

その昔はメルセデスといえば今で言うSクラスを指していて、フルサイズではない言わば廉価版のメルセデス、今で言うところのEクラスだが、そのルーツは厳密に言えば戦後では1961年から発売されたW110という説が一般的だと思う。ただし、W110はフルサイズのW111と基本構造を共有していたから、その意味では後継車であるW114が真の意味でのEクラスのルーツということになる。そして、このW114の後継車種が例のW123で、これこそ B_Otaku が始めてステアリングを握って、そのシャーシー性能に度肝を抜かれて、当時の国産車のダメさを身を持って感じてしまい、それ以後欧州車(というよりもメルセデスの)の良さを常に周りにアピールしてきたのだが、国産車がそんなに劣るわけがないという愛国精神の塊である無知な立派な日本国民が多いのか、なかなか理解は得られなかった。まあ、自分自身もW123 を知るまでは国産のGTという名の付くクルマだって欧州車との差は極一部と思っていたいたわけだから偉そうなことは言えないが‥‥。

話を戻すと、フルサイズではないメルセデスは少なくともW114 時代には”コンパクト”とも呼ばれていたようで、実際にW123 は確かにマニアの間ではコンパクトメルセデスと言って通用したが、これをコンパクトと呼ぶのを知ったのは当時では輸入車ファンのバイブルでもあったカー雑誌、カーグラフィックの小林彰太郎エディターの記事だった。因みにエディターという言葉も小林氏の文章で知ったのだが。ただし、当時の日本車の常識である全幅1,700o以内、要するに5ナンバーサイズからすれば確かW123の全幅は1,800oくらいもあった覚えがあり、どこが”コンパクト”なんじゃあ!なんて下品な表現はしないまでも多少の疑問はあったが、これは日本との文化の差であろうと解釈していたものだった。

そんな状況が大きく変わったのはEクラスよりも更に小型の、日本では5ナンバークラスに適合する190E(W201) が発売されたことだった。5ナンバーの小型車といえどもそこはメルセデスであり、前述のW123 の後継車であるW124に極めて類似したクルマであり、今は死語となってしまった「最善か、無か」という思想だったから、たとえ小型車(当時の日本でも5ナンバー登録だった)である190Eでも決して妥協はしていなかった。このW124 はメルセデスの歴史の中でも最も成功したクルマであり、実際の発売は190E より遅かったが両車の共通点は多く、同時に開発が進んだことは間違いない。実際に当時街中でW201を見ても、フロントから見る限りはW124との区別は付きづらかったが、実はナンバープレートを見れば一目瞭然で、5ナンバーならば190E と見分られたのだった。それで当時は190E を「小ベンツ」といってバカにしていた輩も多かったが、勿論その連中がEクラス以上のオーナーの訳がなく、言ってみればN大を馬鹿にするのは高卒か専門卒だったりするのと同じことだ。

ところで各セグメントを表すクラス名のS、E 、C というのは何を意味しているのかといえば一節によるとSクラスは "Specialty" 、Eクラスは "Executive" 、Cクラスは"Compact" だそうだが、そうなるとW20*をコンパクトと呼ぶのはCクラスとなったW202からだということになるが、まあ、この辺は定かではないしだからどうした、という程度のものだ。要はメルセデスというのはSクラスが本来の姿であり、C クラスは勿論 E クラスだって廉価版というかコンパクトなメルセデスとされていたというくらいの高級車メーカーだったが、今ではC クラスどころかBやAなんていうのまで出てきて昔とは全く変わってしまった、ということが重要なのだ。

また話が横道にそれたが、内容的にはEクラスを多少小さくしただけの190Eだったから、ブレーキも当たり前のように対向ピストンが付いていた。当時はメルセデスのブレーキは有無を言わさず対向ピストン(オポーズド)であり、片押しキャリパーなんていうのはクルマじゃあない!と、言ったかどうかは判らないが、考えとしてはそういうことだったのだろう。ところが初代Cクラス(W202)ではより大きく、より安くに方針が変わってしまい、その次のW203では更にコストダウンが進んで、気が付いてみたらばCクラスは勿論のこと、Eクラスまで片押しキャリパーが標準となったしまったが、それでも流石にSクラスは伝統的にオポーズドキャリパーを標準としていて、多分片押しキャリパーの付いたSクラスというのは無かったはずだ。そして、メルセデスのブレーキフィーリングといえば他社に比べて極端に遊びが少なくでガッチガチのブレーキが思い浮かぶくらいに、BMWとはフィーリングを異にしていた。ところが、先代W204ではまるでBMWのような大きな遊びと軽い踏力に変わってしまった。

それでは今回の新型はというと、C180 AVANGARDは前後とも片押しのシングルピストンキャリパーという極普通のタイプが付いている。しかし、C200 AMG Line はフロントに4ピストンのアルミオポーズドキャリパーとドリルドトーターが装着されている。そして効き味はといえばどちらも先代よりは本来のメルセデス的に、すなわち少ない遊びと多少重めの踏力で踏めば踏むほど効いてくるが、しっかり踏まないと効かないというヤツで、個人的にはメルセデスはこれで良いと思う。ということは立派なオポーズドキャリパーを使っている C200 AMG Line は極普通の片押しキャリパーの C180 AVANGARDとでは一般的な走行をする限りではフィーリング上では大きな差はないということだ。まあ、これは最近のクルマではよくあることで、ニッサン スカイラインやフーガなどもオポーズドキャリパーのスポーツモデルと片押しキャリパーの一般モデルとのフィーリングにはそれ程大きな差はない訳で、実を言えばブレーキフィーリングを変えるにはブレーキパッドを交換するのが一番効果がある。言い換えると、性能の悪いバッドを付けるといくら高級なブレーキメカを使ってもその性能が全く発揮されない、ということになる。更にはBMWのような喰いつくようなフィーリングも、その大部分はパッドの特性が原因となっていて、その証拠にBMWと全く同じメーカーの同じ材質のパッドを純正採用しているレクサスのブレーキはBMWとほぼ同じ喰いつくようなフィーリングを持っている。

写真33
C180、C200ともにAVANTGARDのブレーキは前後とも片押しのシングルピストンキャリパーという極普通のタイプだ。

そしてリアキャリパーは恐らくシリンダーハウジングのみにアルミを使っているようだが、これも今では主流の方式であり国産車でも採用している。

写真34
AMG Lineのフロントには4ピストンのアルミ対向ピストンが装着されている。

以上、C180 AVANTGARD と C200 AMG Line の試乗結果を述べてきたが、結局C180かC200のどちらがベストバイかというのは解らなかった。この辺がメルセデスの上手いところで、予算さえあればやっぱりC200かな、と思い始めて、しかし同じC200でもやっぱりAMG Line の方が何て事になり、気が付いたらば上級モデルを選んでいた、何てことになる。何れにしても今回の新型C クラス(W205)がDセグメントセダンとしてはベストの1台であり、このクラスの定番であるBMW 3シリーズと比べてもCクラスの方が勝るという部分は多々ある状況で、BMWからすれば結構な脅威だろうと思うが、販売網と言う点では今やメルセデスを凌ぐほどのBMWだから、そう簡単にCクラスに負けることはないだろう、という現実もある。

ということで、3シリーズとの比較を特別編で行うのは半ば義務のようなものと感じているから、当然ながら‥‥

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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