Volkswagen Passat Variant 特別編
  [Volkswagen Passat Variaqnt vs Subaru Levorg 後編]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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それでは実際に走ってみての比較を行うことにする。先ずはドライバーズシートに座ったところから。

着座位置は両車共実用車として極常識的な高さであるが、言い換えれば特にスポーティーというモノではない。と書いてみてふと思ったのだが、スポーティーな着座位置って何なんだと自分で突っ込みたくなるが、要するに一般に本格的なスポーツカーというのはボディの全高自体が低いし、当然ながら着座位置も低い。そういう面では両車共特に低いというわけではないということで、更にシートのサポートも極端に両端が盛り上って体をガッチリサポートする ”スポーツシート” という訳でもない。

シートの座り心地は流石に Passat は適度に硬いが座面は体を上手くホールドしてくれるという椅子文化の国のクルマだけあって、ホンの 100 年前までは多くが畳に座って生活していた日本の文化ではシートで欧州車に勝つのは難しいが、Passat だって少しは良いところも見つけてやらないと、という大きな気持でシートは Passat の勝ち!因みに Levorg も、というかスバル自体が以前のどうしようも無いシートからは大いに進歩している。スバルの弱みはシートなどの部品を昔から付き合いのある地元の中小メーカーに依存していることで、まあ規模が小さいから駄目とは言わないが自動車部品というのは世界中を相手にするようなグローバル企業が有利となる商売であり、これは天井知らずの開発費をペイするためには極力販売数を増やす必要があるからだ。なお欧州車顔負け、というかあのレカロにも匹敵するシートを標準装着している Subaru BRZ の場合は Toyota 86 と共通ということもありシートはトヨタ系の豊田紡織が生産していて、その豊田紡織もここで一気に世界のトップレベルに匹敵するシートを開発しよう、という意気込みだったのだろう (単なる推測だが) 。

エンジンの始動は両車共インテリジェントキーと押しボタンスイッチという最近では当たり前の、国産車ならば軽自動車でも余程の廉価グレード以外は標準で採用している方式だ。しかし Passat の場合はフロアーコンソール上のAT セレクター右横にある小さな丸いスイッチで、しかもシルバーに START / STOP の小さな文字が刻印されているだけで光線の具合では文字が読めないという状況だから、初めて乗ると探すのに一苦労だ。とはいえ、一度覚えれば良い訳だからオーナーなら特に問題はないが。対する Levorg はインパネ右端にある標準的な大きさのボタンだから、チョッと探せばすぐに見つけることは出来る。

AT セレクターは両車共フロアーコンソール上にあり、パターンも直線式のティプトロタイプなのでP レンジからガチャガチャとDレンジまで引いていく。パーキングブレーキはこれまたどちらもAT セレクターの手前にある電気式スイッチを使用し、これを押すことで解除される。最近のクルマではこの手の電気式パーキングブレーキが増えているが、どちらかと言えば上級グレードに多く、BMWでは3シリーズはレバー式で、5シリーズ以上がこの手の電気式を採用しているが、それを考えれば今回の両車のパーキングブレーキは分不相応のモノを使用している傾向にある。5シリーズオーナーからすれば「Dセグの分際で生意気な!」なんてことも無いだろうが‥‥。

5シリーズといえば以前さる BMW ディーラーを訪れた時に3代前の5シリーズ (E34) に乗ったお客が現れて、それを見た新米セールスは必死に相手をしていたが、日曜に中年の男2人連れの E34 なんてクルマおたくもいいところで、恐らくメンテは自分たちでやっている筈だ。だから5シリーズの新車に買い替えなんてある筈もなく、ベテランセールスならば適当にあしらうところだが、これだけ古ければそろそろ買い替え‥‥なんて思うところが新米の辛さだ。

しかし、同じディーラーにやはり古い輸入車、すなわちメルセデスの初代 C クラスに乗る上品な初老の夫婦が現れて、これはベテランセールスが即対応。後日聞いた話では、次の週に320i ツーリングを見事にご成約!となったということだった。この辺が輸入車オーナーの見極め方で、まず日曜日に家庭サービスもせずに男二人で車屋に来るなんて言うのはコテコテのマニアであり、しかも国産車の軽自動車並みの価格で買った中古5シリーズを自分でメンテすることで維持費も国産以下というタイプのオーナーだから、これはディーラーとしては最も商売につながらないタイプだ。

逆に夫婦で来るということは買い替えを検討のために大蔵大臣同伴で、更に古いメルセデスでしかも古ぼけたナンバープレートを見れば新車で買って長年乗っていたが、いよいよメンテナンス費用も増大してきたし折角思い入れのある車だが、この際ライバルのBMWにでも変えてみようかと考えている、という推定が出来る。

何やら話が妙な方向に飛んでしまったが、これぞ特別編の真骨頂! ということでチョイとサービスをしてみた。

それでは実際に走り出してみる。最初に Passat だが、もう既に日記や試乗記で何度か述べているので今更の感はあるが、同じ Volskwagen DSG でも Golf GTI で採用されている湿式多板クラッチで無く、廉価版である乾式単板クラッチを採用していて、これが Passat のような D セグメント車では容量的に限界に近く世界中で重大トラブルが報告されているものだ。試乗車の場合は派手なジャダー (ガッ、ガッと振動する) は無いにしても兎に角スリップが多くてレスポンスが悪い。特に坂道や段差などの負荷の多い場所からの発進はアクセルを踏んでも発進出来ないので更に少し踏み増すと突然飛び出すという20年前の国産車のような特性であり、コレはハッキリ言って危険ですらある。

Passat の場合はトランスミッションの出来の悪さと共にエンジンの非力さもあり、動力性能はもうボロボロだ。と思ってよく見たらば Levorg 1.6 GT だって Passat と比べてパワーでは 20ps 勝るものの最大トルクは同じで、しかも車両重量もほぼ同じなのに、Levorg は何故か実際の走りは十分実用になるくらいの動力性能を持っているのはなぜだろうか? その Levorg のトランスミッションはクルマ好きの多くが忌み嫌う CVT だが、実際の挙動は極低速でも充分なトルク感とレスポンスであり、アクセルをフルに踏み込んでも平均的なトルコンAT程度の挙動は充分にある。というよりも予備知識が何も無ければこれが CVT とは気が付かないだろう。そしてこの Levorg の体感性能は、これまたスペックがほぼ等しいメルセデスベンツのC180、すなわちCクラスではベースとなる1.6Lターボモデルに近いものだった。ということはやっぱり Passat は最先端のライバルん対して水準以下ということだ。

ところで運転中にドライバーが前方とともに最も目にするものといえばメータークラスターだが、そのメーター類はどちらも大径メーターが左右対象に2つ並ぶタイプで配置も似ている。ただしパネルの色使いや目盛りのふり方などは其々の個性を反映しているが、まあこれは好みの問題だろう。

動力性能については前評判通りに Levorg の圧勝だったが、さて操舵性などはどうだろうか。Passat でステアリングの中心付近のフィーリングを試してみると、まあ実用車としては悪くはないがこれまた Golf、取り分けGTI の方が遥かに良い。そしてステアリングに対する車両のレスポンスはこれまたデカいなりの並みのクルマだった。とはいえコーナーで強大なアンダーステアが出るとかいうことは無いが、決してコーナーが楽しいクルマでは無い。

更には直進時の安定性も大したことはないし、その割に乗り心地は結構硬くてゴツゴツしている。2006年に試乗した3代前の旧型 Passat は極端に硬いサスを除けばその走行安定性の良さには大いに関心したのだが、今回の新型はこれまた同じ Volkswagen のクルマ、いや同じ Passat とはとても思えない訳で、9年前の方が遥かに良いクルマだったというのも理解し難い事実だ。

それでは Levorg はといえば、レガシィ時代から乗り心地と安定性の両立といいう意味では国産車トップ、いや欧州車を含めてもこれだけ靭やかなサスはそう簡単には見つからないぞ、というくらいだったから今回のレヴォーグも十分期待が出来たし、実際に走った瞬間からやっぱり予想通りだったことが判る。まあ、この辺が熱烈なスバルファンを生む理由なのだろう。

そして操舵感覚はといえば、これも中心付近からの不感帯も極少なく、それでいて決して過敏ではないがその気で少し振ってやると間髪をいれずに反応するという、これまた国産トップというところか。考えてみればレヴォーグはステーションワゴンであり、運動性能から言えば決して有利ではない訳で、それが下手なスポーツセダンでは歯が立たないくらいの操舵感というのは考えてみれば脅威だ。

Levorg の旋回時の特性自体も、これまた予測通りに弱アンダーの素直なもので、一般道のコーナー程度で常識的な程度、すなわち危険運転にならない範囲では全く余裕で限界なんてはるか遠くという感じだ。ところで Levorg が Passat と大きく違うのは駆動方式で、それぞれ 4WD と FWD という違いがある。4WD の場合は下手をするとアンダーステアが強くなる傾向があるが、長年4WDを生産している Subaru だけあって手慣れたものだ。まあそいういう意味では Volkswagen といえば出来の良いFWD の代表なのだが、何故かこの長兄は出来が悪い。

最後にブレーキについて比較しておくと、Passat の特性は如何にも欧州車という感じの軽くて喰い付くようなもので、最近は BMW でさえ多少マイルドな方向となっているのに対して、これは可成り過激でいわゆるカックンブレーキだ。ただし本当のカックンブレーキというのはペダルに軽く足を載せただけでガツンっとロックするくらいのものを指していて、ここまでのカックンはディスクブレーキでは発生しない。今から半世紀程前にはディクスブレーキが殆ど普及していないために当然4輪共ドラムブレーキだったのだが、リアに比べて負荷の大きいフロントにはディオサーボという自己倍力機能が極端に強力な方式を採用していた。これはブレーキライニングの摩擦係数 (以下μと表す) の10倍以上のブレーキ力を発生するのだが、言い換えれば温度や湿度などの変化でμが大きく変化して、特に夜露でライニングが湿っている朝などはμが高いためにブレーキペダルに足を載せただけでタイヤがロックしてしまうということもあり、これを ME (Mornig Effec ) なんて呼んでいたが、ディスクブレーキの普及した現在では殆ど死後になっている。

話を Passat のブレーキ特性に戻すと、前述のように出来の悪いDSG のために上り坂や段差などでの発進で飛び出しやすいことから、このような場合はブレーキを軽く踏んで飛び出しに備えるのだが、Passat のように喰い付きが良すぎると微妙な調整ができずに結局はピョコン、ガツンというのを繰り返すという見た目も悪いし何より危険な挙動となる。

Levorg のブレーキは国産車の標準的なもので、適度に軽い踏力はコントロールの容易さなど日本国内を常識的に走行するには全く問題ないものだ。ここで常識的と書いたのはリミッターが設定されている180q/h 以上は保証されないことと、更に150q/h 位になると当然効きは悪くなる。それでもリミッター速度以下はある程度の性能を確保はしている筈だ。それに関して、高速道路の覆面パトカーはリミッターを外してあるなんていう噂もあるが、そんなことをしたらばブレーキ性能が保証されず最悪殆ど効かないということがあるわけで、少なくともメーカーは全く保証しないから、先ずはそんなことはしないだろう。

なお、ホイールから覗くブレーキは極々普通の型押しキャリパーだが Levorg の場合はフロントにはレガシィからの伝統である2ピストンを採用している。これは普通の街中の走行ではオーバースペック気味だが、サーキットのスポーツ走行などをするとその差は歴然で、2週目以降の第1コーナ−への制動で他社が軒並みフェードを起こしているのに対してスバル車は周回を重ねても明らかにフェードの出方が穏やかだったという実話を結構聞く。

結局今回の Passat の最大の敗因は世界的に評判の悪い乾式単板 DSG だが、既に問題が山積みなのになぜに新規発売のクルマに採用するのかといえば、新型車の開発では何年もの期間を必要とするから、今更どうにもならなかったのだろう。ただし、最近追加されたPassat Variant ベースのクロスオーバ−タイプである Alltrack では 6DSG は当然ながら 7DSG も湿式多板タイプを採用しているから、Sedan と Variant も今後のマイナーチェンジで変更になる可能性はある。まあそれまでは手を出さない事だ。

今回は Levorg の圧勝だったが、しかしVolkswagen vs Subaru として考えれば今回は特例であり、何時もSubaru の楽勝とは限らない訳で、例えば Golf vs Impreza 、とりわけ Golf がGTI だったら流石の Impreza も相当な苦戦をするのではないか。

それでは 320i Touring とか C180 Wagon はどうなのかといえば、勿論予算さえあればイチオシであり、流石に 3シリーズや C クラスは Levorg では味わえないものを持っている。でもねぇ、200万円の価格差がねぇ、といっているアナタは、子息の大学の学費が私立理科系なので年額150万円! 4年間で600万円ということは充分に 320i Touring が買えてしまうのですよ。

えっ? そうじゃあ無いって?? 成る程、今の世の中では大卒なんて当たり前だから高学歴と言われるのは大学院修士課程終了以上ということらしく、そうなれば6年間で 900万円だからあと数十万円で535i ツーリングが買えてしまう。1人でこれだから2人だったら1,800 万円で、3人だと何と2,700万円‥‥もう、子供なんかいらない、ってことで増々の少子化になるのだった。