FORD MUSTANG 50 Years Edition (2015/5) 中編

  

エンジンの始動はインテリジェントキーとスタートボタンという世間一般の常識と同じで、これまたマッスルカーっぽくない。しか〜し、世の中そう単純ではなく、世間の常識で探すとスタートボタンが直ぐには見つからない。何を隠そうセンタークラスター下部に並ぶトグルスイッチ群の一番左に何か小さい字でゴチャゴチャ描かれた押し釦らしきものがあり、実はこれがスタートボタンだった (写真31) 。

始動により4気筒ターボエンジンはアイドリングするのだが、その時に振動というのは殆ど感じないが数秒おきくらいに何やら脈動みたいな、僅かではあるがブルッと震えるような挙動を感じる。これは走行中に信号待ちなどで停車中にも度々感じるものだったが、まあ気にしなければ問題は無いだろし、そもそも欧州車的になったとはいえ、そこはアメ車だから多少の事は我慢が必要だ。

AT セレクターはフロアーコンソール上の直線パターンを持つタイプだが、先代同様にDレンジの手前はSレンジであり、ここからマニュアルモードに移行できるが、それについては後ほど説明する (写真33) 。というか、これがまた先代とは変わっていてるのだった。パーキングブレーキはセンターコンソール後方にあるレバー式 (写真32) で、これこそ誰でも間違いなく操作できる方式だが、最近のトレンドである電気式を採用しないのはコストダウンか、それとも外に理由があるのだろうか? 例えば米国ではこの手のクルマはサイドターンすることが当たり前とか‥‥。

ここで、正面のメーターについて触れておくと、先代と比べるとクロームメッキの縁取りを施した丸いメーターが左右対称に各1個あるのは同じだが、回転計と速度計の位置が新旧で入れ替わっていることと、そのメーターの書体が先代ではレトロなものを使っていたのに対して新型ではオーソドックスな最近の書体を使用しているのが、これまたアメ車っぽくない (写真34) 。


写真31
トグルスイッチ群の一番左に小さい字でゴチャゴチャ描かれた押し釦がスタートスイッチだ。


写真33
フロアーコンソール上のAT セレクターは直線パターンでDレンジ手前のSレンジからマニュアルモードに移行する。


写真32
パーキングブレーキはオーソドックスなレバー式。

写真34
クロームメッキの縁取りを施した丸いメーターが左右対称に各1個あるのは先代 (写真下) 同様だが、回転計と速度計の位置が入れ替わったのと、メーターの文字がレトロな書体からオーソドックスな最近の書体へと変更された。

試乗前に走行モード切り替えなど最小限必要なオペレーションを聞いてから駐車場から右にハンドルを切って一般道に入りここから加速するが、何やら妙にスロットルレスポンスが良いというかオーバーレスポンス気味だし、軽くアクセルを踏んだだけなのに3,000rpmくらいまでシフトアップが起らない。これはもしかして、何やら過激なモードに入っているようだと思い教わったとおりにセンタークラスター下端に並ぶトグルスイッチを入れようとして、さてどのスイッチかということでその表示を見るが、何やら見難いし判り辛い (写真36) 。

そこで適当にスイッチを押してみると、エンジンやトランスミッションのコントロールとは別にステアリングのモード切り替えもありこれらは別々のようだから、エンジンを Normal にしてステアリングのみ Sport にするとかいうことも出来る、というか其々を別にセットする必要がある。トグルスイッチを押すとメーターの中央にあるディスプレイに其々のモードが表示され、スイッチを押す毎に移動して現在の設定を知ることが出来る (写真35〜36)。このモードは Drive Mode ボタンでは左から Normal、Sport +、Truck そして一番右は Snow / Wet となる。またSteerig Feel スイッチでは左からNormal、Sport +、Comfort の順になっている。

ではその変化はどうだろうかということで早速試してみる。先ずはDrive Mode をNormal すると世間一般のAT 車と同様で一般道での巡航時には1,200〜1,500rpm 辺りで静々と走行するし、ハーフスロットルくらいの加速では2,000rpm くらいでシフトアップが起きる。そしてもっと急な加速が必要な場面ではアクセルベダルをコレっと踏んづけても結構長めのタイムラグの後でないとシフトダウンは起らないが、まあこれも世間の常識どおりだ。この時のトルク感も世間一般の常識からすれば充分にトルクフルだが、マスタング=マッスルカー=大トルクを期待するにはチョイと物足りないが、まあそういうユーザーは来年以降に販売が開始されるであろうV8モデルを買うしかなさそうだ。

写真35
モードスイッチを押すとメーターの中央にあるディスプレイに其々のモードが一定時間表示される。

写真36
4つのトグルスイッチの右端にあるMODEと表示されたものが Drive Mood 、その左のステアリングのシンボルマークのものがSterreng Feal のスイッチとなっている。 それにしてもスイッチの表示は見辛い。

次の SPORT+ では既に冒頭で触れたとおりにヤタラと過激で、常に低いギアを選択して高回転を維持しようとするし、スロットルレスポンスもまた過激すぎて少しでもペダルを踏もうものなら行き成りガバッとスロットルが開いてエンジンが唸るという、かなりのオーバーレスポンスだから走行はギクシャクしがちだ。この特性はどこかで似たようなモノを経験して覚えがあるが、そうだ先代BMW 5シリーズ (E6O) の初期モデルが丁度こんな感じだったのを思い出したが、世間からはあまり良い評価を得られなかったようで、その後年々マイルドになっていった。

この SPORT+ でのフルスロットルはといえば、別にモードが変わってもエンジンの出力特性が変るわけではないようで、レッドゾーンまで引っぱってもV8モデルのようにはいかないが、それでも車両重量1,660kg 対して314ps だからパワーウェイト (P/W) レシオは5.3 kg/ps となり僅かに5.0 kg/ps を超えたものの充分に高性能な値ではあるが、やはりV8 のイメージが脳裏に浮かぶことから実際よりも遅く感じでしまう。それで、メーカー発表の 0-100 q/h 加速データーを探したが残念ながら発表されていないようだったが、まあP/W レシオから想像しても5秒台で充分に走り切るだろう。

それではTruck モードはというと、これは要するにサーキットモードでありコレを選んだ瞬間に一体どうなるのかと一寸ビビるが、実際には元々過激な Sport + に比べてそれ程の差はなく、まあ「多少変わったかな」くらいだったが、実際にサーキット走行でもしてみれば違うのか、それとも単なるハッタリなのかは興味のあるところだ。

ここでエンジンルーム内を眺めてみれば、V8 5.0L が入るスペースに直4 2.3L を搭載したのだからスカスカの隙間だらけかと思ったら、確かにエンジン自体はコンパクトだがターボの補機類等が結構ギッシリと詰まっていて、大きな隙間は殆どなかった。なお先代の GT V8 には、まるで街のスピードショップで後付けした町工場製みたいなストラットタワーバーが付いていたが、今回のモデルには付いていなかった。新型でもV8 には付くのかどうかは判らないし、もしかしてもっと洗練されたものになるか、という期待もあるが‥‥。

写真39
314 ps / 5,500rpm、434 N・m / 3,000 rpm を発生する直4 2.3L ターボエンジンは当然ならがV8 5.0L よりもコンパクトだが、補機類が結構付いていてスペース的には大きな隙間は無い。


写真40
車両右側にあるバッテリーにはカバーが掛かっていて、写真の状態にするにはネジを3本外す必要がある。


写真41
車両左側はブレーキのマスターシリンダー&バキュームブースターがあるが、こちらはバッテリーと異なりカバーが無い。

動力性能はこれも想定通りに充なものだったが、それでもV8 の強力なパワー&トルクを求めるとチョイと寂しいモノもある。それでは操舵性の方はどうなのだろうか? この続きは後編にて。

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