BMW 435i Gran Coupe 特別編 [435i Gran Coupe vs Porsche Boxter S 後編] 特別編へようこそ。 前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。 今回は操舵性について比較するが先ずは中編と同様に435i Gran Coupeの試乗記から主要部分を抜き出してみる。 『動力性能は良き時代(と言ってもホンの10年ほど前だが)の良さを今に伝えていた訳だが、さて操舵性はといえば、これまた良き時代を彷彿させるに十分だった。まず中心付近の不感帯はソレナリにあるが決してダルくはなく、さりとてクイック過ぎて疲れる事も無いBMW独特のもので、ここでも良き時代のBMWを味わえた。 それより関心したのは走行中にステアリングホイールを通じで両手に伝わるインフォメーションで、道路状況をハッキリと把握できるという、これまた良き時代のBMW独特のステアリングインフォメーションを味わうことが出来た。実は最近のBMW各車を試乗して感じるのはどうも以前に比べるとステアリングからの情報が希薄になったように感じていたのだが、435iグランクーペに乗ってみて、やっぱり気のせいではなく最近のBMWは以前程の路面情報は伝わらない傾向だったようで、動力性能と共に操舵フィーリングでも良き時代のBMW的な要素を持っているのだった。 それでは、ステアリングに対する実際の車両応答性はといえば、残念ながら4気筒の320iや328i等のような軽快感がないのは重い直6エンジンを積んでいることによる回転軸方向のモーメントの大きさが原因で、こればかりはどうしようもないし、例えば5シリーズでも直4エンジンを搭載している523iや528iの方が直6エンジンを積む535iよりも軽快感では優っているし、更にV8となると例えM5やアルピナB5といえども528iに比べると何となく重ったい動作をするのは事実である。』 ということで、動力性能と同様に操舵性でも最近のBMWが失いつつあるものがシッカリと伝承されていた。では、次にBoxster S は 『操舵性に関しては911は勿論のこと、ボクスターもケイマンも流石にポルシェだけあって、他車と比べれば圧倒的に優っているのだが、その中でも911とボクスターの違いや、更に年代によって、そしてタイヤなどの仕様によっても微妙に、いや結構違ったりするので、試乗記を書く時にはその試乗車がどんなタイヤやオプションを付けていたかを把握することが重要となる。例えば先代987ボクスターを例にすると、ノーマルのサスを装着しているモデルとオプションでスポーツ・パッケージを付けたものでは車高が異なっているしダンパーも違うので当然ながら操舵性だって異る筈だ。 ステアリングの中心からの不感帯は走行モードによって異なり、ノーマルでは多少の緩慢な領域があるがあるが、これをSPORTに切り替えた瞬間にシャキっとする感覚が手に伝わってくるし、SPORT PLUSにすると更にズッシリと、しかも中心付近からの不感帯も殆ど無くなるから、ある程度のテクニックとともに腕力も必要となる。 高速を降りて一般道に入るためにのんびり左車線を走って出口に向かうランプウェイに入り、強いRで180°近いコーナーを回るが、この時既に先代987よりもアンダーが少ないのでは、という予感を感じる。まあ高速のランプはRがきつくて、速度も精々50q/h程度で回ってもアンダーの強い車では曲がらなくて大変な目に遭う場面でもある。』 リアエンドに重いエンジンを積んでいる911はもとより、ミッドエンジンのBoxsterも限界を超えた時の挙動は一般ドライバーには修正が難しい特性となることもあり、通常では意外にアンダーステアに振っている傾向がある。ミッドエンジンというイメージからは異様にクイックでオーバーステア気味なのではないか、と想像するが実際にはレーシングカーを含めてもアンダーステアが強いセッティングになっているようで、勿論これはポルシェのみならず他のミッドエンジン車も同様のようだ。 これに比べればBMWの各車は伝統的にニュートラルでまるでレールの上を走るが如く、という表現をされるように気持ちよく曲がっていくが、実はそれでも弱アンダーに設定してあるようで、本当にニュートラルステア、すなわち操舵角と同じだけ曲がるようにすると、ドライバーにはオーバーステアと感じられるそうだ。 このような違いがある両車は、言ってみれば万人向きであたかも運転技術がアップしたかのような錯覚さえ感じるBMWと、走りの基本を押さえてセオリー通りに走らないと結構曲がらないで驚くポルシェ、しかも911よりは安全だと甘く見ていると突然のブレークで廃車街道まっしぐらのBoxsterという具合に、クルマとしての性格は多いに異なる。 さて、ここでチョッと見方を変えて、特別編の前編で少し触れたホイールベースとトレッドの比率(縦横比)について、もう少し詳しく検証してみる。前編で述べたように縦横比は小さい程車両の運動性が大きくなり、一流のスポーツカー程より小さい値を示す傾向にあると言われているが、本当のところはどんなものだろうか? それで一覧表の結果はといえば、確かにポルシェやフェラーリは1.5〜1.6代に入っている。その中でも旧ポルシェ911、すなわち997ポルシェはダントツだが、新型(991)についてはボクスターと大きく変わらなくなってしまった。これは991のホイールベースが997よりも100o長くなったことが原因であり、そいういえば991のスペックが発表された時にポルシェも終わったと言っていた三流評論家もいたが、実際はそれ程劇的にダメになったということは無かった。そりゃ、そうだろう。ポルシェほどのメーカーがFMCで全く良さを失う何てことは考えられないが、厳密に言えば多少はマイルドになったような気もするが、こういうクルマはグレードやオプション、そしてイヤーモデルによって操舵性が変わるのでなんとも言えない。 そして、BMWやM3に恨みはないが縦横比は1.75前後というサルーン的な値を示しているのはDNAがサルーンだから当然だろう。それでもノーマルの3シリーズよりは小さい値を示しているのはボディやシャーシーの一部を変更してトレッドを広げてているためで、3シリーズそのままではないのはやっぱりこだわりがあったのだろう。そして同じBMWでもフロントエンジン2シータースポーツのZ4や同じ構成のフェアレディZはともに1.63〜1.65位を示しているから、エンジンが後ろにある特殊なスポーツカーとサルーンの中間的な特性を示している。 今度は3シリーズやCクラスというDセグメントサルーンを見ると、どれも皆1.8を超えていて中には1.86くらいの車もあるのは、このクラスのプレミアムサルーンは安定性を重視していると想像する。それでは普通の国産車はといえば、如何にもクルマ好きとは縁の薄いプリウスとアクアはプリウスが1.7代の後半でDセグプレミアムカーに近い設定になっていたが、アクアの場合は1.73前後と多少スポーツに振っている訳ではないだろうが、意外に小さい値だった。そういえばアクアの不安定な挙動って、もしかしてサルーンとしては安定志向に欠けるショートホイールベース気味で、さらに安物の足回りと低剛性ボディと組み合わされた、と理解すれば、あの特性も何となく納得できる。 そして、残る国産スポーツカーはといえば、フェアレディZは前述のようにBMW Z4と同じくフロントエンジンスポーツカーとしては代表的な1.65前後であるが、マツダロードスターは驚きの1.56という値で、これはもう旧ポルシェ 911並だった。この値をみて念の為に再度マツダのサイトで調べてみたが、数値に間違いはなかった。そういえばマツダ ロードスターに試乗した時の好印象を思い出したが、成程ねぇ、911(997)並みの縦横比だったんだ。いやあ、お見事! それでは、コペンはといえば2シーターの割にはアクア程度の値だが、まあこんなモンでしょう。 ![]() 次にブレーキについて。 今から十数年前といえば例えば3シリーズ辺りでも今ほど一般化していない時代だったから、BMWの乗り味自体を知っているユーザーは少なかったのだが、それでも興味を持ったクルマ好きがBMW車、例えば3シリーズに試乗した時に一番印象に残るのはウルトラスムースなシルキーシックスエンジンでも、路面状態が手に取るように判るステアリングインフォメーションでもなく、実はチョイと足を載せただけで強力に効くブレーキだった(と思う)。当時の国産車といえば踏んでも効かないようなブレーキが当たり前のように付いていた時代だったから、一度この効き味を知ってしまうと一般的な国産車のブレーキでは不安を感じてしまう訳だ。 勿論当時はブレーキのみならず、前述のエンジンやステアリングインフォメーションと共に、何よりも高剛性のボディのもたらす独特の走行性能等、BMWやメルセデスの優位性は明らかで、実は日本のカーメーカーも既に気付き始めていて、これではいけないという事で本格的なプロジェクトとして、部品メーカーも含めての欧州車解析と日本車のレベルアップに取り組んでいたのだった(らしい)。と言うことは、メーカーの第一線エンジニアは欧州プレミアムカーの優位性を充分に把握していたわけだが、それを知らないネット社会の底辺層は何だぁ、かんだと必死になってアホな議論をしていた訳で、関係者から見ればアホくさくて見てられねぇや、という気持ちだっただろう(と想像する)。 そんなBMWのブレーキも上で述べたような国産メーカーの努力により、以前ほどのアドバンテージは無くなってしまったが、それでも良く効くことに変わりはない。それに、最近のBMWはブレーキユニットに金をかけないという方針を少し変えたのか、6気筒モデルにはフロントに対向ピストンキャリパーとドリルドローターを装着するようになったから、今回の435i Gran Coupeにも見るからに性能の良さそうなブレーキが(フロントだけだが)ホイールから覗いている。 そして、Boxster Sのブレーキはといえば、お馴染み対向4ピストンキャリパーとドリルドローターを備えているし、しかもS だからキャリパーは赤く塗装されている。そして、ポルシェのブレーキは世界一どころか宇宙一と喩えられた効き味は、実はリアベビーによる重量配分が制動時に荷重移動でフロント荷重が増えることで結果的に前後の重量配分が50:50になるという有利な状況が最大の原因だ。そういう点では、静的には50:50のBMW各モデルも動的には荷重移動でフロントベビーになる訳で、これはもうポルシェとは根本的に設計思想が違う、というよりもポルシェの思想が特別異なっているのだが‥‥。 ここで、いやらしくもGarnCoupeとBoxter Sの米国価格を比較してみよう。一般に米国価格は世界で一番安い設定なので、日本価格は米国価格と比べたら極端に高いからボッタクリ、とは一概に言えない事情もあるのだが、米国価格同士で相対比較するのは充分に説得できる方法だと思う。それで調べてみた実際の価格は、435i GarnCoupe $45,800 Boxter S $63,300。ただし北米向け435iではナビなどがオプション($875)となるのでその分を考慮しても約$47,00であり、Boxter Sとはワンランク、いや下手をすると2ランク違うクルマだ。そういえば8月24日の日記で触れたようにM3の米国価格は$62,000だから、あれっ? M3 でもBoxter Sより$1,300安い!ということで、まあ日本でのM3 のボッタクリは既に多くのユーザーが気が付いているが、 435i GarnCoupeも似たようなものだった。考えてみれば、今回の比較でも判るようにひと時代前のスーパーカー並みの性能を誇るBoxter Sと、所詮はファミリーカーの3シリーズベースの5ドアハッチであるGarnCoupeが、いくら3Lターボエンジンを搭載しているとはいえ同価格というのが間違っているのだが、日本での実売価格はどうなっているのだろうか? 実は相手によってはあっと驚く超大幅値引きとかやっていたりして‥‥?? これは想像だが、M3などのボッタクリ価格はその価格を付けることで価値を上げて、多くの普通のBMWユーザーにポルシェ911と同等の、要するにトップレベルのスポーツカーであることをアピールする必要があるのだろうし、それだからこそM3に憧れたユーザーが何時かはM3という夢を見ながら実際には320i M Sportを買って満足する訳だ。そんな事情だから、下手に良心的にM3を値下げして、たとえば700万円代の値を付けたらば、多くの3シリーズユーザーの夢を壊すことになる訳で、その面でもM3の価格は911並であることが必要なのではないかと思うし、勿論これに反対する気はないどころか、それが正解だと思う。それでBMWの車両価格はワンプライスでは無く、あくまで希望価格だから、実際の販売では適正価格に値引きすればいいわけだ。911並のクルマと思っている金持ちには1,100万円で売り、M3の性能を気に入った本気のマニアには大幅値引きをすれば良い訳で、ぶっちゃけ先々代のE46 時代ではモデル前半では強気だったが、その後は一声1本引きなんていう話が公然の秘密になっていた訳だから、今度の新M3 だって同様だろうと思う。どなたか交渉してみたらば如何かな? まあ季節的には来年の今頃に2016年モデルが発売されているにもかかわらす売れ残った2015年モデルとか、在庫させられたM3を来年3月の年度末までに何とか捌かないと自社登録で試乗車かアプルーブドカーセンター行きとなる、みたいな状況の時が買い時だろう。 まあ、そうは言っても今回の結論のようにBoxterというのは一般のユーザーには決して向いていないし、何よりも2シーターで室内のラゲージスペースは殆ど無いクルマだから、これを買うのは大いなる決断が必要だ。尤も、他に実用車を持っていれば良いのだが、だからといって普段乗りを並の国産車というのでは何時もはクルマの楽しみを満喫できないし、それなりのクルマを別に持つには最低でも500万円くらいは必要だし、それならその分を足して1台にすれば911の下位グレードが買えるし‥‥なんていうループに陥ってしまいそうだ。 ということで、販売現場ではBMWもBoxster との直接対決というのは無さそうだし、BoxsterとZ4もユーザー層が被らないから、BMWとしては今はそれ程慌てることも無さそうだが、最近のポルシェは近日発売のマカンでコンパクトSUV(どこがコンパクトじゃ!)に進出する訳で、この延長線でパナメーラのダウンサイジング版を600万円くらいで発売したならば、Gran Coupeとガチンコ勝負、どころか3シリーズの牙城にも食い込み始めるかもしれない。実際にポルシュのオーナー向け内覧会でマカンが展示されていたら、その関心度はもの凄くて常に人集りが絶えなかったそうだ。ということで、良き時代のBMWの持っていたものを感じる435i GarnCoupeに惚れ込んで買うならば割高を承知で買うか価格交渉を頑張るかだが、GarnCoupeのスタイルなどに惚れたのであって、435i程の性能が必要無いのならば、米国では435iよりも$5,500しか安くないが日本では140万円安い428iにするか、それとも米国では販売されていないが日本では435iよりも約180万円も安くて590万円よりの420i GarnCoupeを更にたたいて購入するのが賢明だ、ということで結論としよう。
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