Volkswagen up! 特別編 [Volkswagen up! vs Suzuki Wagon R Stingray T 後編] 特別編へようこそ。何時ものように、このコーナーは、この先の記事を冷静に読める知識と教養を身につけている読者のみ閲覧ください。従って、この先に何が書かれていようが、笑って受け流す事が出来ない方はTOPページに戻るかブラウザを閉じてください。 それでは早速ドライバーズシートに座ってみる。up!の場合はやはりフォルクスワーゲン一族だから、ゴルフなどと共通する雰囲気が無いとはいえないが、ポロも含めて上位の車種とは異なりup!独特のチャチさもあるし、実際に車内寸法、特に幅が狭く結果的にシートも小さく、また座り心地もゴルフなどと比べると少し落ちるようだが、シートに定評のあるVWだけあって一番下位のup!でもクラスの標準からすれば充分に出来の良いシートを備えている。そしてワゴンRはといえば、寸法上は全幅でup!より150mmも狭い割には体感上はそれ程でもないが、それでもヤッパリ狭い。とはいえ、軽規格変更前のワゴンRはもっと狭いし、初期の軽自動車、例えばエヌサン(ホンダN360)やスバル360などを今見ると、こんな狭いスペースに本当に大人が乗って走ったのが信じられないくらい小さい事に驚く。
エンジンの始動はup!の場合はオーソドックスというか時代遅れというか、金属式のキーをステアリングコラムの右側面のキーホールに差し込んで捻るとエンジンか掛かる。ワゴンRは日本車だけあってインテリジェントキーとプッシュボタンを使用する。エンジンが掛かって正面のメーター類が作動するので両車のメーターを比べてみる。up!のメーターはセンターに大径の速度計と、その左右に小さいメーターが各1個あり、これは右に燃料計と左には回転計となっているが、流石に回転計にしては小径すぎるから、これは大まかな回転数を知る程度の使い方となる。VWのメーターはポロ以上では共通の雰囲気だが、最廉価クラスのup!は他のVW車とは大分異る。ワゴンRのメーターは日本車得意の自光式で、目盛がブルーに輝いたりとケバいから高級車だとひんしゅくモノだが、軽自動車のワゴンRならば結構にあっているとも感じるから不思議だ。 ![]() フロアーコンソール上のup!のシフトパターンは、トルコンATやCVT、それにDCTなどおよそあらゆる2ペダルミッションと比べても独特のもので、右でニュートラル、左ではクラッチが繋がった(走行)状態で更に左に押すと1回毎にD(オートマモード)とM(マニュアルモード)を繰り返す。そしてMの時は押してアップ、引いてダウンのシーケンシャルシフトレバーとなる。up!は何度も述べているようにATモードはオマケで、2ペダルのセミオートミッションだから、マトモに走りたければMモードで使用することになるし、Mモードで始めて小さくてパワーは無いが何故か楽しいという、ドイツ丸出しのVW車としては異例のラテン系のような走りを楽しめる。ワゴンRのATセレクターはセンタークラスター中段のエアコンコントロールパネルの隣にあってレバーがほぼ水平に飛び出した、いわゆるインパネシフトとなっている。パダーンは直線式でDの手前にMがあるというチョッと変わった方式で、Mに入れた時のシフト操作はステアリングホイールに組み込まれたパドルスイッチを使う。 ![]() ![]() パーキングブレーキはup!がコンソール後方のオーソドックスなレバー式で、ワゴンRはインパネシフトなどを採用するくらいだからコンソールもなく、結局足踏み式にするしかなかったのだろう。作動と解除は踏む度に繰り返すプッシュ/プッシュタイプで、いまやクラウンも新型からはこのタイプになってしまった。んっ?ワゴンRのパーキングブレーキってクラウンと同じ方式だったのだ!
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そしていよいよ実際の走りを比べてみるが、何時もならば両車のギア比を比較するのだけれども、ワゴンRのミッションはCVTだから比較のしようが無い、ということで今回この項目は無し。なお、両車のエンジンスペックは前編の仕様一覧表で紹介済みだが、参照の度に前編に戻るのは不便だろう、ということでエンジンに関連する部分だけを以下に抜き出してみた。 両車のエンジン性能を比べてみると、up!の75ps 9.7kg-mに対してスティングレイTは64ps 9.7kg-mとパワーではup!が幾分勝るがトルクは全く同じ。しかも数字上はターボのスティングレイTの方が発生回転数が低いというパワフルさだ。スティングレイTのパワーがイマイチなのは自主規制の問題であり、その気になれば75psなんて簡単だろう。それにしても、小排気量化とターボによるダウンサイジングが流行のドイツ車であるup!が自然吸気で、ダウンサイジング化に乗り遅れている感のある日本車が小排気量ターボという、何とも一般常識とは異なった状況が不思議だ。 ![]() それではいよいよ実際に走った状況を比べることにする。up!は前述のようにシングルクラッチのセミオートミッションなので、セレクターをDに入れてブレーキペダルから足を放しても、車は停まったままでウンともスンとも言わない。そこで恐る恐るアクセルを踏んでみたらばカツンという軽いショックと多少のスリップ感とともに前進する。それでも一度動き出してしまえば特に違和感なくアクセルを踏んだ分だけ前進する。 今度は国産の小型&軽では今や当然となったCVT搭載のワゴンRの発進だが、最近のCVTは以前のような不自然な動きはなく、特に意識しなければ何の問題もなく発信できる。そして走行中も以前のCVTのようにエンジンが喚いているわりには進まないような感覚が少なくなり、随分と違和感も減ってきた。それに対してup!のDレンジはといえば、国産CVT車などと比べるとシフトレスポンスはメッチャ悪いし変速ショックはあるから、マトモに勝負にはならない状況だが、元来セミオートにおまけ程度で付いている機能だからこんなモノなのだが、これを理解してMモードを主として使うことが許容出来るかが、up!を選ぶことが出来るかの境目になる。 ここでDレンジが駄目ならばMモードがあるさ、と言うわけで実際にup!をマニュアル操作で乗ってみるが、先ずマニュアルモードでシフト操作はといえばコンソール上のレバーを使用して押してアップ、引いてダウンというBMWなどとは逆でポルシェのPDKとは同じという混乱した現実の話は置いておいて、シフト操作に対するレスポンスは国産トルコンATやCVTのマニュアルモードと大して変わらない。ただし遅い分だけ逆に繋がりはスムースでシフトダウンのショックも少ないが、回転合わせはモア〜という感じで、ここは本来鋭いブリッピングでも効かせてもらいたところだが、燃費を考えれば仕方がないのかもしれない。 次にワゴンRのマニュアルモードは無断変速のCVTを何段階かに分けて使う事自体が何やらバカっぽいが、今回取り上げたスティングレーTはターボのスポーティーモデル的立ち位置だから、マニュアル操作はステアリングホイールのパドルスイッチを使用する。言い忘れたがup!は本来パドルスイッチが欲しいセミオートにも関わらずパドルは付いていないし、オプションにもないようだ。それでワゴンRのマニュアルはといえば、まああっても邪魔にはならないが役に立つとも思えない。恐らく買った直後は面白がって使ってみても結局飽きてしまって、そのうちにパドルの存在すら忘れられそうだ。 パワートレインと動力性能については両車ともあまり良い評価とならなかったのは、現在のクルマとしては2車ともボトムエンドになる訳で、性能自体を絶対比較したら当然ながらアンダーパワーだし、トランスミッションだって、特にup!の場合などは、これがDCTタイプでも搭載されていれば評価は大きくアップしたのだろうが、何しろ日本では受け入れられるのかが心配なシングルクラッチのセミオートだから、これが大きく足を引っ張った結果となった。 という訳で、動力性能については下品に言えば目くそ鼻くそという状況だったが、それでは、操舵性はどうだろう。既に何度も述べているように軽のハイトワゴンという縦横比からいえばチョッと無理したら転倒してもおかしくはないワゴンRだから、多くを期待するほうが間違いだし、up!にしたところで決して安定が良さそうな形状ではない。と、最初から言い訳をしておいて、さて実際のコーナーリングはといえばup!の場合、ブラインドコーナーに少し速度を上げて、このコーナーとしてはちょっと速めかな、という速度でそのまま突入してみたが、なんと危なげもなくステアリングの切り増しもなく綺麗にクリアして、ハッキリ言ってポロGTIよりも上ではないかというくらいだ。そして、市街地では使いにくかったセミオートミッションをMにして適度なギア位置を選択し、レベルの高いコーナーリング性能を満喫すると、今までのネガティブな評価は一変して、実にマニアックで楽しめるキャラクターに変身する。要するに、こういう楽しみ方をしてこそ、up!の良さが判るというものだ。 これに対してワゴンRの場合は、軽自動車としては結構クイックなステアリングだし、硬めのサスのセッティングは通常の市街地走行ならば外見の割りには充分な安定性を持っているが、2車線道路でちょっと過激なレーンチェンジをしただけで妙な挙動を感じるから、このクルマでワインティング路を云々という走り方はとてもチャレンジする気にはなれない。スズキの高性能ターボ搭載軽自動車といえばワークスという名を思い出すが、スティングレーTはワークスの流れを汲んだものではないということを肝に命じたほうがいいだろう。まあワークスだって、結構危ないクルマだったが。 ブレーキはどちらもフロントディスク、リアードラムであり、この手のフロントベービーのFF車で、しかも小型軽量なクルマではリアに必要なブレーキ力は極々少ないのでこれで充分だし、実際に軽い踏力で良く効くから、両車の性格からして全く問題はない。 ![]() 携帯電話の世界では日本独自規格の携帯をガラパゴス携帯、略してガラ携といいい、世界基準のスマートフォンをグローバルスマートフォンの略でグロスマというらしい。そういう面では、今回のup!はグローバルAセグメントだからグロAとでも呼ぼうか。そしてワゴンRはガラ軽か。こうなるの他のカテゴリーも分類したくなり、Eセグメントで言えばクラウンはガラE、レクサスGSはグロEということになるだろうか。 そのグロAとガラ軽の対決の結論だが、この2台ならどちらを選ぶか?と聞かれれば、ハテ、困った。マニアックな面白さではup!で決まりだが、家族が乗るなどを考えれば出来の悪いDレンジのミッションは問題があるし、以前に比べて大いなる進歩をしたといっても軽自動車であるワゴンRに百数十万円も出すのは躊躇するし‥‥‥。 という具合に、結論が出ないままで、今回は終わってしまうが、同じ価格帯でのベストバイは、ということは今後の宿題としておこう。 と、まともな結論で終わってもいいのだが、これでは毒舌を期待している一部の読者の期待に答えられそうにない。そこで、VWそれもup!のような低価格車を選ぶユーザーについて考えてみよう。輸入車か国産車かという場合、せめてDセグメントくらいになれば、例えば最近はアドバンテージが少なくなったとはいえBMW3シリーズの良さは充分にあるから、国産車にないものを求めたらこれになった、という理由は充分に説得力がある。そして100歩譲ってCセグメントでも、BMW1シリーズやVWゴルフなどを選ぶのも、まあ納得できる。 ところが、up!のようにAセグメントの場合はどうだろうか。従来は輸入Aセグメント車というのはイタリヤやフランスなど、いわゆるコテコテのラテン系でマニアックなクルマが極少量売れているくらいだった。ところがup!の場合は、VWとしてはマニアックな特性だとはいえ、チンク(フィアット500、とりわけアバルト)やトゥインゴRSなどの超マニアックなクルマに比べれば普通のクルマであり、そういう面ではユーザーターゲットがイマイチ絞れない辛さがある。それでも考えられるup!ユーザーはといえば、輸入車というブランドが欲しいが予算がない。と、思っていたらば総額でも200万円以下で買える外車があった、ということで飛びつくブランドおたく、というところだろうか。勿論、マニアだっているいだろうが、VWディーラーでみる客層はちょっと独特のものがある。まあ、それを言ったらBMWだって、今や単なるブランドモノであり、多くのユーザーがヴィトンのバックの自動車版として憧れているのもまた事実。このことは今に始まったことではないが、輸入車がこれだけ増えてくると、益々マニアよりもブランド志向のユーザーが増えてしまうという、どうにも辛い現状ではある。 |