Volvo V40 T4 (2013/2) 後編
  

今回の試乗車は上位モデルのT4 SEであり、シートは一部に人工皮革が使われているが、実質はファブリックシートと変わりない。着座位置は結構高めでオーソドックスなポジションであり、前方視界も良くボンネット先端も認識できる。シートの座り心地も中々良いのは、北欧家具のイメージどおりだが、一時期のボルボはシートまで手抜きだったことを考えれば、この面でも復帰できた事になる。

エンジンの始動は電子キーとはいえセンタークラスター上部右端のキースロットに差し込んでから、その上部のボタンを押す。このボタンは世間一般の大き目で丸いものとは異なり長方形で小さいから、最初はちょいと戸惑ってしまうが、オーナーなら問題無いだろう(写真31)。このクルマのミッションはDCTタイプだから、ATセレクターというよりもマニュアルシフトレバーとでも言うのだろうか。まあ、そのレバーのパターンはシフトノブの上部に書かれているのだが、それがエンジン始動で白く浮き上がってくる。パターン自体は奥から手前にかけてP→R→N→DでDから横に動かしてマニュアルという、世間一般の常識的なパターンとなっている(写真32)。

セレクターをDに入れて、これまたコンソール上のオーソドックスなレバー式パーキングブレーキをリリースしてブレーキペダルを離すとDCTとはいえ僅かなクリープが有り、スタート自体は実にスムースだからトルコンATとの区別が付かないくらいだ。駐車場から国道に出るために左にフルステアを切ってユックリ前進するが、このような低速で負荷の大きい発進でも飛び出したりせずにスムースな挙動はこのDCTの優秀さを感じる。本線に入ってアクセルペダルを半分ほど踏む感じで加速すると結構トルク感があり、街中での使用ならば全く不満はないくらいの加速性能がある。その後は地方道に入り流れに乗って走ってみるが、完全な巡航状態では1,200rpm程度の低い回転数を維持するのは最近のクルマの定番だが、そこから少しアクセルペダルを踏んだ場合にトルコン式のATならばトルコンのスリップにより多少回転数が上がるが、DCTの場合はMTと同様に直結されているから、ユックリと加速するかシフトダウンが起こるかだが、静かな運転をしている限りはシフトダウンは起こらない。そこで、このぉ〜っ!という具合にドカッと踏むと少し遅れてキックダウンが起こる。今度は中間的に踏んでみたらば少し加速しながら、ヤッパリ無理だと諦めたような感じでシフトダウンが起こった。

最近のクルマには走行モードが切り替えられる物が多く、よく確かめないと大人しい設定のデフォルトモードしか使用しないで間違った評価になる危険があるために、今回もこの点だけは事前に確認しておいた。それでV40のモードはATセレクターを左に倒すことでDからSレンジとなるという、BMWの各車と同じだった。そして、そこからレバーを前後に動かすとマミュアルモードとなるのもBMWと同様だ。そこで、Sモードにすると、その瞬間にシフトダウンとともに回転計の針が跳ね上がる‥‥ということはなかったが、それ以後はキックダウンが敏感になったり、加速時のシフトアップポイントが高回転側に移行するようになる。


写真31
エンジンの始動は電子キーをスロットに挿入してから、小さめな四角いスタートボタンを押す。


写真32
DCTのセレクターはノブ上面に白色で浮き出る。パターンはオーソドックスなものだ。

V40のメーターは正面が大径の円形メーターで、その左右には縦長で幅の狭いメーターが付いていて、更に左右端には左が燃料計で右がATセレクターのポジション表示となっている。実はこのメーターには他社にない仕掛けが付いていて、中央部の3つのメーターが3つのモードを持っており、ステアリングコラムの右側から生えているレバーで切り替えることによってメーター表示が全く変わってしまうことだ(写真33)。まずはEleganceと呼ばれるデフォルトの設定だと正面の大径メーターが速度計で、左に水温計、右には回転計として表示されている。これをEcoにするとメーターはグリーンを基調としたカラーに変わり、左のメーターはEcoメーターと呼ぶ燃費計に変身する。なお、このEcoとEleganceを選択すると中央の速度計は、現在の速度の前後30q/hずつくらいしか表示されないのが特徴的で、これは余計な情報をカットすることでドライバーに集中力を与える、と推定するのは実際に使用してみた感触からだ。元来、ボルボは独自のユニークな提案をするので有名だが、フォード時代には目先の利益を追求する経営陣の方針から、ボルボの良き伝統は全く発揮されなかったが、このV40を見るとボルボの良い面が見事に蘇生したようだ。

なおEcoとEleganceの場合、速度計内に速度標識が表示されるが、これは路上の標識をカメラが読み込んで制限速度を表示するということで、法定速度60q/h制限のために標識がないところや、高速道路上では上手く作動しないということだ。なお、速度以外には追い越し禁止にも対応している。

このメーターに結構感動して、面白半分で切り替えて遊んでみたが、そろそろ真面目な試乗に戻るとして、左に倒してSモードとなっているセレクターを前方に押すとシフトアップ、手前に引いてシフトダウンというパターンのマニュアル操作を試してみる。先ずは40q/hで巡航中にレバーを引いてシフトダウンをすると、そのレスポンスは並のトルコンATに比べれば充分に速いが、DCTであると考えれば決してレスポンスの良い方ではない。特に待機側のミッションが指令と逆な場合、すなわち4速巡航中なのでシフトアップを想定して奇数側では5速でスタンバイしていたのにシフトダウンを司令されて、おっといけねえ、とばかり慌てて2速に入れ替えてからクラッチを繋ぐための明らかなタイムラグはハッキリと感じるわけで、レバーを操作したのに変化がない、あれっ?と思っていると行き成りシフトダウンが起こるということが偶にある。

まあ同じDCTタイプといってもポルシェのPDKと比較するのは価格から言っても無茶だが、VWのポロあたりと比べれば特に劣っているという程でもない。そのマニュアルモードを使って、今度はスタンディングスタートを試してみる。例によって交差点の赤信号に先頭で引っかかって、青信号で発信する際にフルスロットルを踏むとエンジンは適度な騒音を発しながら回転数が上がって行く。ハーフスロットル以下の加速では結構なトルク感があったが、フルスロットルでは意外に大した事がないのはスロットル特性を上手く誤魔化して、もとい、調整して通常走行でのトルク感を増すという日本車的な小細工が上手くいっているからのようだ。という訳で、まあパワーウェイトレシオが7.9であることから判るように、実用車としては悪くはないが、走りの好きなドライバーにはちょいと物足りないかもしれない。それでもエンジン自体はスムースに6,000rpmまで回るし、高回転側で行き成りトルクが減ってしまい失速するうような気配も無い。なお、V40にはマニュアル用のパドルシフトがステアリングコラムに組み込まれているモデルは今のところ無いようだから、DCTとはいえDレンジでオートマとして使うことを想定しているのだろう。

写真33
3つのモードから選択することで、メーター表示は全く違う雰囲気に変身する。

EleganceとEcoでは中央の大径速度計は指針の前後のみに速度の数字が表示される。また最高速度の標識が表示されるが、これは路上の標識をカメラが読み込んで制限速度を表示する。

なお、Performanceでは中央が回転計となり、速度はその中にデジタル表示というポルシェ方式に変身する。

写真34
エンジンは直4 1.6L ターボで最高出力180ps/5,700 最大トルク24.5kg-m / 1,600-5,000rpmを発生する。

次に操舵性については、ステアリングは軽くて頼りなく、直進性も何となくがイマイチだが、実はV40には今回は試せなかったが3段階から選べるパワステアシスト設定があり、今回のデフォルトに対して重く設定することも出来るので、この機能を使えば大分変わるだろう。このイマイチな操舵性に対して、旋回特性自体は驚くほどにニュートラルというかアンダーステアを全く感じず、オンザレールで素直にコーナーを回っていく。この全く意外だった旋回特性の良さはV40の最大の利点であり、FRの1シリーズとは異なるが、FFの見本であるVWゴルフよりもニュートラルなのではないか、というくらいで正に驚きだった。動力性能はマアマア程度だったが、この旋回性能で一気にV40が優位になってしまった。

乗り心地はチョッと硬めではあるが不快感は無くボディの剛性感もあり、その昔のヨレヨレだった時代のボルボからすれば大した進化だ。そしてブレーキは極々普通の鋳物製片押しキャリパー(写真36)と、バキュームサーボのマスターシリンダー(写真35)というオーソドックスなもので、踏力も適度に軽くて効きも良い。このブレーキキャリパーはBMW3シリーズと同じドイツのコンチネンタル製のようで、構造的にも3シリーズや1シリーズと殆ど同じだ。BMWと同じというと何やら高級なブレーキのように感じるかもしれないが、BMWは伝統的にブレーキユニットに予算をかけないので有名であり、またこのキャリパーは言い換えるとマツダアクセラとも同じだ。と聞くとガックリするかもしれないが、これには経緯がある訳で、そのうち機会があったら触れることにする。


写真35
オーソドックスなバキュームサーボによるマスター・シリンダーを使用している。


写真36
ブレーキユニットはBMW3シリーズと同じメーカーのキャリパーを使っている。


写真37
ホイール+タイヤはT4が "Matres" 7.0Jx16 + 205/55R16、T4 SEは "Segomo" 7.5Jx17 + 225/45R17が標準装備となる。

ところで、ボルボといえば安全が謳い文句だが、どん底のフォード傘下時代は安全分野でも他社に遅れをとり、3点式シートベルトを考案して最初に装備したのはボルボであることをアピールするなど、10年前に紅白に出場した実績で辛うじて地方公演というか、ドサ周りをやっている演歌歌手のような状況だったが、ようやく安全のボルボが復活したようで、V40にも他車に先駆けて各種の先進的な安全装備が装着されている。ただし、標準で装着されるのはシティ・セーフティ(低速用追突回避・低減オートブレーキシステム)のみであり、フルに装着するためにはセーフティ・パッケージという20万円のオプションが必要となるのだが‥‥実は、発売時点では何と全車にオマケで付いてくる!今後はどうなるのか判らないが、事実上の値引きとして実際には全車装着となったままのような気もする。なお、これらの安全装備については既にVOLVO S60 DRIVe & T6 SE試乗記で説明済のために、ここでは細かい内容は省略する。


写真38
フロントガラス中央上部にはセーフティ・パッケージ用の赤外線レーダーやカメラが装着されている。


写真39
ミリ波レーダーのユニットはラジエターグリルの中に仕込まれている。

細かいことを言えば多少の不満もあるが、200万円代後半で買えるCセグハッチとしては充分に満足できる結果であり、とりわけ素直なハンドリングやライバルよりパワーのあるエンジンなど、意外にもスポーティーな事は全く想定外の出来の良さだった。とはいえ、このところ輸入Cセグメント車の市場は賑わっていて、一足先にFMCしたBMW 1シリーズ、最近大きくコンセプトを変えてFFとは言うものの1シリーズ的に変身したメルセデス Aクラス、そして欧州では既にFMCを実施し近日日本国内でも発売されるVW ゴルフとその兄弟でもあるアウディ A3というように、正に百花繚乱という状況になってきた。そんな中でV40がどのくらいの勝負をするかは見ものだが、元々ボルボ(取り分け40や50)の購買層は寧ろ国産車からの乗り換えで、いわば輸入車入門のような対象だったのだが、今回のV40も1シリーズやAクラスとの比較対象というよりも、国産ミドルクラスのミニバンなどからの乗り換え、なんていうのが主流にも感じるが‥‥。

というわけで、欧州車好きの読者ならば話の種に試乗してみるのも良いだろう。

 

 

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