Porsche 981 Boxstar S (2012/12) 後編 |
|
![]() |
|
やがて高速道の料金所に差し掛かり、ETCゲートが開いた状態で10km/h位から一度左右のクルマを確認するために10m程は20km/hで走行し、更に10km/h程度まで落として安全を確認、と言えば聞こえが良いが、実は少しでもスタンディングスタートに近い条件にしたい為で本当は一時停止したいくらいだが、後続車が迫ると危険なので10q/hくらいが限界でもあり、ここでフルスロットルを踏む。この場所は半年前にカレラSでも使用したが、ボクスターSの加速はカレラSと比べても100km/hくらいまでは、それ程違わない感じがする。そこで、スペックを調べたらば0~100km/h(以下ゼロ百と記す)はカレラSが4.3秒であるのに対して、ボクスターSは5.0秒だったから、実際にはスタート時のタイミングなど他の要素によっては、確かにあまり変わらないかもしれない。これがスタンダードのカレラとなると4.6秒であり、更にカレラのMTだと4.8 秒だから、その差は僅かに0.2まで縮まってしまう。それにしても、3ペダルのMTよりも2ペダルのPDKの方がスペック上でも速いというのは大変な時代になったものだ。しかし、ボクスターがこんなに速くて良いのだろうか?なんて心配になってしまうが、少なくともスペック上はカレラの方が少し速い訳で、この辺は商売上手のポルシェだけあってやることに抜け目が無い。 試乗車の排気音は巡航中では結構静かだが、それでも987の後期モデル程大人しくはない。これがフル加速時にはソレらしい音になり、結構な爆音を周囲に撒き散らすが、987の初期モデルのようた爆裂音という訳でもない。高回転域での加速時はスムースさが際立っていて、レッドゾーンまでの勢いもボクスターとは思えない程だ。元々ボクスターはポルシェ社の戦略により、911系に比べるとどうしても5,000rpm以上では勢いが足りなかったのだが、今回はその縛りも大分緩和されていた。 当日は暮れも押し迫ってきたこともあり、3車線の高速道路も全ての車線でクルマが詰まっている、というよりも右車線に行くほど混んでいて、中央車線のほうが右端の追越車線よりも少し流れが速かったりする。トラックやビジネスユーザーの多い平日でもこれだから、長期連休などで高速道路に不慣れなドライバーが多ければ更に酷い状態となる。これだけ日本のモータリゼーションが発達したにも関わらず、未だに交通マナーは後進国丸出しというのも情けないものだ。 |
|
|
|
それでも今回は充分な時間があったので、いつもと違い高速をひたすら郊外に向かって走っていくと、やがて少しは空いてきた。そこで、例によって犯罪にならないで反則で済むギリギリの速度を上限として加速性能を試してみる。カレラSのようなゼロ百が4秒台前半のクルマというのは80q/hを過ぎてからの加速にこそ価値があるわけで、取り分け120q/hを過ぎてからの加速でハッキリと違いが判る。ここでPDKはマニュアルにして走行モードはスポーツを選択し、7速で80q/h巡航では約1,600rpmで、ここから左のパドルを一段引くと約2,000rpmに回転が上昇する。しかし、これではフル加速の醍醐味は味わけそうもないので更に一段下げて5速では2,400rpmとなるが、まだまだということで4速2,900prmまで回転数を上げたところでフルスロットルを踏むと、十分な迫力で加速していき、あっという間に5,000rpmくらいまであがったことろで5速にシフトアップして4,000rpm強に回転を落とす。更に6速にアップすると3,400rpmで、これが実際にはちょうど良い巡航という感じで、その時の安定性は明らかに先代987ボクスターSを上回っている。 と思ったのも束の間で、前車の集団が迫ってきたので、これ幸いとブレーキのテストをしてみる。幸いにもバックミラーに他車は写っていなかったので、ちょっと強めのブレーキを踏むとグイ~ッという感じで正に見えない手で掴まれるように減速する。ポルシェのブレーキは世界一どろこか宇宙一などと比喩されるが、確かに市販車のブレーキとしては理想的に効くし、車両の挙動も安定そのものだ。そのポルシェのブレーキはお馴染みのブレンボ製アルミ対向ピストンで、試乗車はボクスターSだからSの証である赤いキャリパーが付いていて、さらにベースグレードのボクスターを含めて全グレードに採用されているドリルドローターが、嫌が上にも強力な制動力を連想させる。だかといって、並の国産車にブレーキブレンボ製キャリパーを付けたからといって、これ程の性能を発揮する訳ではなく、優秀なプラットフォームや足回り、乗用車とは一線を画する低い重心などがあって初めて達成できるものだ。 | |
|
|
|
|
操舵性に関しては911は勿論のこと、ボクスターもケイマンも流石にポルシェだけあって、他車と比べれば圧倒的に優っているのだが、その中でも911とボクスターの違いや、更に年代によって、そしてタイヤなどの仕様によっても微妙に、いや結構違ったりするので、試乗記を書く時にはその試乗車がどんなタイヤやオプションを付けていたかを把握することが重要となる。例えば先代987ボクスターを例にすると、ノーマルのサスを装着しているモデルとオプションでスポーツ・パッケージを付けたものでは車高が異なっているしダンパーも違うので当然ながら操舵性だって異る筈だ(写真55)。 ステアリングの中心からの不感帯は走行モードによって異なり、ノーマルでは多少の緩慢な領域があるがあるが、これをSPORTに切り替えた瞬間にシャキっとする感覚が手に伝わってくるし、SPORT PLUSにすると更にズッシリと、しかも中心付近からの不感帯も殆ど無くなるから、ある程度のテクニックとともに腕力必要かもしれない。 ここで新型ボクスターとカレラのギア比を比較してみよう。 ![]() PDKの場合、991と981のギア比は1速から7速とリバースも含めて完全に同じだった。まあ、あの複雑な構造を見れば、複数のギア比を用意するなんて言うのは不可能でもあるだろうから、共通で当然でもある。ただし、ファイナルギア比は少し変えているようで、ボクスターの場合は2.7Lが少し低く設定されているのはパワーが少ない分を回転数でカバーするということだろう。なお今まで触れていなかったが、スポーツモードをSPORT PLUSにすると、Dは勿論MTモードでも7速には入らなかった。要するに7速は完全なオーバードライブだから、走り命のSPORT PLUSでは不要ということのようだ。流石にポルシェだけあって筋が通っているし、ポルシェのエンジニアとしての本音は巡航ギアなんて付けたくなかったのではないか。日本の法律上で許される上限の100q/h時の回転数は7速で1,700rpmであり、最高出力が6,700rpmのエンジンをこんな低回転で巡航したいドライバーは、他のクルマを選ぶべきだと思うのだが。 やがて高速を降りて一般道に入るためにのんびり左車線を走って出口に向かうランプウェイに入り、強いRで180°ちかいコーナーを回るがこの時既に先代987よりもアンダーが少ないのでは、という予感を感じる。まあ高速のランプはRがきつくて速度も精々50q/h程度で回ってもアンダーの強い車では曲がらなくて大変な目に遭う場面でもある。そして料金所を通過してその先の一般道の信号が赤なので緩い減速をすると、速度計と回転計の指針はどちらもユックリと下降してゆくが、回転計の針が1,200rpm位になったところで行き成りストンっと800rpmのアイドリング回転まで落ちて、クルマはそのまま惰性で進むのでブレーキベダルで更に減速してから停止する。この動作を見ていると、もしかしたらPDKは極低速になるとクラッチを外してニュートラル状態で惰性走行するというMT的な動作をするのだろうか、と思うがどんな物だろうか? 高速道路を降りた時点で既に1.5時間くらいは運転していたので、クルマにも慣れてきて細かい挙動に気が付くようになってくると、このクルマのPDKミッションの凄さをつくづく感じるようになる。Dレンジで速度を上げていく状態ではエンジン音に途切れがなく、シフトアップポイントに到達した瞬間にエンジン音の音程が低くなることと回転計の針が一瞬に下がったことでシフトアップしたことに気付く程度だ。首都圏近郊から僅かに離れた程度でも、地方道は殆ど交通がなくてド田舎の雰囲気丸出しだから、途中でフルスロットルを踏んだりシフトダウンを繰り返したりと色々試してみた。そして、Dレンジでの減速時だが、SPORTモードでさえ速度が下がるに連れてガンガンとシフトダウンをするという程でもなかった。例えばランエボのDCTではSSTモードをスポーツにした場合は、減速時に速度が下がるに従って派手はブリッピングとともにシフトダウンを行ったが、ボクスターではそれ程派手にはやらない。 今度はマニュアルシフトを少し繰り返してみた。加速状態で右のパドルを引くと、一瞬で回転計の針が下がると同時にエンジンの音は途切れることなく、音程だけが一瞬で低くなるのは既にDレンジで経験しているが、マニュアルの場合は自分でパドルを操作した直後に起こる動作が実に気持ちがよく、ついつい無意味なシフトを繰り返してしまう。 やがて中速コーナーがいくつも続く付近に差し掛かり、ここから束の間のワインディング走行をしてみる。実はこの道を走るのは2年ぶりくらいで、都心から見れば可也離れているために中々行けないが、以前は仕事に関係で度々通った勝手知ったる道だ。先ずは最初のコーナーでは50q/h弱で素直に進入してみると、クルマは極々弱いアンダーで難なく旋回してしまった。ボクスター987では、それ以前の986に比べて大いにアンダーが少なくなって、コーナーリング中のフロントタイヤのグリップも増したと言われていたが、こうして981と比べてみると最良のポルシェは最新のポルシェという言葉通りでハッキリと進化しているのが判る。そこで気を良くして徐々に速度を上げて行ったが、60q/hでもマルで余裕のコーナーリングで、結局それ以上速度を上げるのは借り物の試乗車ではリスクが大きいために打ち止めにしたが、同じ場所を998カレラSで走った時よりも更に安定感では上を行っている位だった。 それでは981ボクスターと991カレラのコーナーリングはどちらが上かといえば、これは難しい問題だが、素直で制御しやすいという面では当然ながらボクスターに軍配が上がる。元々911系はリア後端に重いエンジンを積んでいる訳だから、コーナーリング特性では良い訳がないのだが、それを長年の熟成で今の状態まで改良していったことと、リアサスがボクスターのストラットに対して911はマルチリンクと、ひとクラス上の設定になっていて、戦略的に911が上回っている状況にしているのは多くの読者がご存知と思う(写真56)。ということは、ボクスターに911のマルチリンクを付けたらば最強のハンドリングマシンが出来ると思うのだが、噂ではそのような仕様の実験車を仕立ててサーキットでテストしたら、911を大幅に短縮するタイムが出て、こりゃあまずい、とばかりに封印してしまったとか……。確かに利益率抜群の911が無かったら、ポルシェ車の財政は一気に悪化してしまうだろう。 | |
|
|
|
|
兄貴分の911に半年ばかり遅れてボクスターも新型になった。そして、その結果は例によって最新のポルシェは最良のポルシェであり、987から大きく前進していた。そして何よりも感心したのはPDKが益々完成されて、これなら3ペダルのMTが無くても良いかな、なんて思ってしまうほどのハイレスポンスで、近い将来にはMTが消えゆくような予感を感じるくらいだ。そういえば、991のGT3 CupCarは遂にパドルシフト(ただし、PDKではなくシーケンシャルドッグミッション)が採用されたということだし、噂によればストリート用のGT3はPDKが搭載されるとか。 そして、今回試乗したボクスターはSだったこともあり、2.4L 315psという少し前のカレラ並の性能となってしまっている。しかしボクスターSがここまで高性能化してしまうと、ノーマルカレラの地位が脅かされそうだが、そこはそれで、割高を承知でカレラを買うユーザーだって結構いるだろう。まあ、それも個人の判断だから、他人がとやかくいう事ではないのは何時も言っているとおりなので、すきな方を選んでもらおう。ただし、ボクスターとて予算は結構必要だが、それだけのご利益は絶対にある。 最後に一言、これ欲しい! |