BMW Z4 sDrive 2.0i (2012/3) 後編


Z4の始動はインテリジェントキーを使用するが、設計年次が多少古いこともあってスタートボタンの下に電子キーのスロットがり、ここにキーを挿入する(写真21)。最新のBMWではモデルチェンジの度に各シリーズに採用されたきた電子式のATセレクター(写真22)は、当然ながらZ4にも採用されているから、最近のBMW車を運転した経験があるドライバーなら 、全く違和感無くDレンジを選択できるだろう。そしてパーキングブレーキの解除はというと、これは1 および3シリーズのようなコンソール後端のレバーではなく、5シリーズなどと同じ電気式で、スイッチを引くと作動(オン)し、押すと解除される。この動作は押して直ぐにストンっと外れるのでは無く、レバーを人間の代わりに電気モーターが引いたり解除してくれている、と考えると動作 法なども判りやすい。なぜ、電子式ではなく電気式なのかといえば、パーキングブレーキは最後の切り札だから、保安基準上からメカニカルな構造を要求されている筈で、実際にパーキングレーキの動作はリアのパーキング用ドラムブレーキ内のメカをモーターで引っ張って作動させているからだ。

そして、何時ものように国道に出て直ぐに2/3スロットルを踏むと、少し間をおいてからシフトダウンとともに加速を始めた。この加速感は328i程ではないが、意外にも同じエンジンを積んだ523iに比べれば明らかに 上回っている。走行モードを確認したが、COMFORTだから制御で意識的にレスポンスを上げていることも無いだろう。その後約10分ほど流れに乗って走ってみたが、車間調整などでの 中間加速でも充分なシフトレスポンスで、スロットルを踏んだ時の遅れも気にならないレベルだ。

そこで今度は約50km/hで巡航中にSPORTに切り替えると、1段シフトダウンされて回転計の針は1,300rpmから1,700rpmに上昇した。この状態からスロットルを踏むと、先ほどのCOMFORTよりも更に素早く反応してシフトダウンが起こる。それにしても、同じエンジンの523iとの違いは何だろう。523iの車両重量1,750kgに対してZ4 2.0iは1,530kgと軽量だから同じ184psでもパワーウェイ ト(P/W)レシオでは523iの9.5kg/psに対して8.3kg/psと確かに有利となり加速が良いのは納得できるが、スロットルレスポンスには関係ないだろうし、ましてやシフトアップ/ダウンのレスポンスにはP/Wレシオは全く無関係の筈だ。
 


写真 21
スタートはボタン方式だが、電子キーは写真中央下のキースロットに挿入する。

 

 


写真 22
ATセレクターとその隣のモード切替スイッチは1、3シリーズと全く同じ部品が使用されている。
 

 


写真 23
パーキングブレーキの操作はATセレクター手前、iDriveコマンドダイヤルの左にある(P)と表示されたスイッチで行う。
 

 


写真 24
相変わらず樹脂製の地味なペダルを使っているのはBMWの方針か?ここは、アルミペダルが欲しいところだ。
 

 

今度はマニュアルモードを試してみる。コンソール上のATセレクターを横に倒してマニュアルモードとして、ステアリングホイール上のパドルスイッチを操作するのだが、Z4に限らすBMWは最近までマニュアル操作用のステアリングスイッチが左右とも押してアップ、引いてダウンという独自のものだったが、今回のモデルは今や世界の常識となった右がアップ、左がダウンというパドル方式になったので、混乱無く操作できるのは実に有り難い。そういえばポルシェも建前はオプションであるが事実上はパドル方式が標準になりつつあるのは、世界の流れには勝てないのだろう。このマニュアルモードで 6速、1,600rpm(60km/h)で走行中に左のパドルを引いてみると、結構短いタイミングでシフトダウンが起こって2,000rpmまで上昇した。 そこで更にもう一段引くと、これも素早くシフトダウンが起こった。このレスポンスは今まで乗ったBMW各車の中でも一番良い部類なので、もしかしてSPORTモードに入っているのかと思ったがCOMFORTだった。そこでSPORTモードに切り替えると、何と更にレスポンスは向上して、パドルを引くと間髪を入れずにシフトが実行される。 そこで、信号待ちで1速に入れて青信号でフルスロットルを踏むと、エンジンは滑らかに回転を上げてゆき、レッドゾーン手前で右のパドルを引くと即座にシフトアップされ、回転計の針は素早く 4,500rpmまで落ちる。このくらいのレスポンスだと、2ペダルとはいえ充分に楽しめる。この速さはDSGやPDKなどのDCTタイプに勝るとも劣らないどころが、DCTの宿命である待機ギアが逆の場合に起こるタイムラグが無いために、常に迅速なシフトが起こるというメリットがある。また、3,000rpmを過ぎてからは、そのスタイルに相応しいスポーティーなエクゾーストノートが耳に入ってくる。が、しかし、6 気筒の気持ち良い音とは異なるのは仕方ないが、それに拘らなければ結構気持ち良い音には違いない。
 


写真26
ステアリングにはマニュアルシフト用のパドルスイッチが標準装備されている。
 

 


写真 27
メーターはサルーンとは全く異なるものが使われている。メーターに円形のフードがついているが、これはオープン走行時の直射日光をカットするのに重宝する。
 

 


写真 28
長〜いボンネットのなかに短い4気筒エンジンを積んだ為に、前半分近くがスカスカとなっている。
言い様によっては、長大なクラッシャブルゾーンを持つ安全設計といえるが・・・・・。
 

動力性能も予想外に良いし、スロットルレスポンスも充分で、さらにシフトのレスポンスは抜群という思いもよらない結果のZ4 2.0iだが、それでは操舵性はどうだろうか。まず操舵力は適度の重さで中心付近の不感帯も極少なく、レスポンスも当然悪くないが、先日乗った新型328iが異常なくらいにクイックだったのが記憶に残っていて、それに比べるとイマイチだが、勿論充分に楽しめるくらいの反応はする。ただし、極端に長いボンネットとともに自分自身がリアアクスルの少し前という 着座位置は、他のクルマとは全く異なる位置に座っていることから、慣れないと操舵時に長い鼻先の独特な動き方に違和感があるかもしれない。逆に言えば、この長〜いボンネットを見ながらの運転こそが、古典的レイアウトのスポーツカーの醍醐味ともいえる。写真29をみればZ4とケイマンの着座位置の違いが判るだろう。
 

写真 29
写真の黄色↓がヘッドレストの位置。
Z4のドライバーは3シリーズでいえば後席位置で運転していることになる。ケイマンも結構後ろ寄りにドライバーが座るが、Z4よりは大分前位置にある。

試乗は328iと同じコースだから、途中に何箇所かのコーナーがあるので早速試してみる。走行モードは当然ながらSPORTでシフトはマニュアルモードとして 5速、1,700rpmからコーナー手前で左のパドルを引くと、一瞬で回転計の針は2,200rpmまで跳ね上がる。そのままコーナーに入っていくと、そこはBMWの、しかも2シータースポーツだけあって、全く何の不安も無く簡単にクリアしてしまう。その後は更に進入速度を上げてみると、勿論余裕で通過するのだが、冷静に観察すると先ごろFMCされた116/120iや328iなど最新にBMWのコーナーリング能力の高さに比べると、多少設計が古いのだろうか、ちょっとアンダー気味で古典的な感覚がある。とはいえ、Z4 2.0iはかなり重症の走り屋症候群に侵されていても、充分に満足できるだろう。

と、ここまでは絶賛、というよりは予想外の好結果にイマイチ戸惑い気味だったが、さて乗り心地はといえば、これはハッキリ言って固いし、タイヤのノイズも大きい。とはいえ、決して不快でないのはBMWを初め多くの欧州車に共通だし、最近では国産車だって結構良くなっていて、最近FMCされたレクサスGSだって、後心地は固いが決して不快ではなかった。そういえば、20年程前の国産スポーツカーなんて固いだけでポンポンと跳ねるし、ボティはギシギシするしで乗っていられないくらいで、欧州車に乗るとあまりの違いに愕然としたものだったが、 最新のモデルでは結構近づいてきたようだ。尤も、近づいたと思ったら、相手は更に進んでいた、なんていう状況も無くは無いが・・・・。
 


写真30
センタークラスター下端にあるスイッチは中央がルーフのオープンとクローズ用で左右の両端はシートヒーター用であり、残りはブランクとなっていた。
 

 


写真31
低い着座位置だが、長大なボンネットは目視できるのが嬉しい。
 

 


写真32
トランクルームはルーフを上げた時点では、フルにスペースを使用できる。ただし、オープンにするには、写真右上のようにセーフティーカバーを出して、ルーフ格納エリアに荷物が飛び出さないようにする。
 

実は先代Z4(E85)はオープンカーらしく(?)、走行時にはギシギシと如何にも剛性が足りないという感じで、特にオープン走行ではウィンドウスクリーンがワナワナと振動し、ルームミラーの像が振動でブレて見えるという典型的なスカットルシェイクを体験したものだった。それに対して、現行Z4は 2009年にsDrive 35iに試乗した時に、先代に比べて大幅に改善されているのを体験しているが、今回も当然ながらルーフを上げて走行した状態では、全く剛性不足は感じなった。そこで、ここからはオープン走行をしてみる。先ずは停車してセンタ ークラスター下端にあるスイッチ(写真30)を押すと・・・・ん?何も起こらない。というか、何やら警告が出たので確認すると、リアトランクの ガードがセットしてない為にオープンできなかったのだった。一般的にZ4のようなリトラクタブルハードトップを持つ車のトランクは、幌のタイプに 比べてルーフの収納スペースがより多く必要となるために、トランクとして殆ど役に立たないのだが、Z4の場合はクローズドで使用している場合にはルーフの収納エリアまでトランクスペースとして使うことが出来 、この状態だとルーフを畳むことが出来ない仕組みになっているのだった(写真32)。
 


写真33
試乗車はMスポーツパッケージのためにフロント8J×18ホイール+225/40R18タイヤ、リアは8.5J×18ホイール+255/35R18タイヤが装着されていた。
 

 


写真34
ブレーキは基本的に先代3シリーズ(E90)と同じだから、新3シリーズ(F30)より一世代前のキャリパーが付いている。
 

 

ブレーキについては、お馴染みのBMWタッチで、軽い踏力で喰いつくように効くのは何時もどおりだ。試乗が終わってホイールのスポークの隙間から覗くキャリパーを見れば、E90と基本的に同じものが見える。ところで、上の写真でも判るように18インチホールから覗くブレーキのディスクローターは小径でスカスカに見えるが、これは本来のクルマのレベルに対して18インチという大径ホイールが大きすぎるからで、決してブレーキ容量が足りないわけではない。試乗車はMスポーツだったら、身分不相応な大径ホイールをつけている訳だが、これもカッコの為だし、オーナーが満足すれば良いだけの話で、オーナーからすれば買いもしない輩に文句を言われる筋合いは無い、な〜んて、言いたいだろうなぁ。

さて、そろそろ結論をまとめてみよう。全く同じ筈のエンジンを積んだ523iが絶対的なトルクと共にスロットルレスポンスの悪さも感じ、それ以前の6気筒モデルが抜群の 好感度だったことに対して、結構ガッカリの結果だった。その為、今回のZ4 20iも同様かと思ったら、何と充分なレスポンスで、絶対的なパワーだって実用的には充分というレベルだった。しかも、同じ8速ミッションのレスポンスは現行のBMWラインナップの中でも最も良く、これは一体どうなっているんだろう、と考えてしまう。今後523iがモデルイヤーの切り替わりで、知らん顔して改良されていることは充分に有り得るから、5シリーズ購入予定のユーザーは試乗の際には極力モデルイヤーを確認することと、前年モデルなら大幅値引きなんていう時は、ちょっと警戒が必要だ。 そして、発売されたばかりの320iはどちらに近いのだろうか? これも興味がある。

最後にZ4 20iについてだが、ベース価格の499万円の内装は結構地味(というかショボイ)な訳で、BMWブランドの高級スポーツカーという夢を見たければ、やっぱりレザーのシートに座って、肘が当るドア側のアームレスト付近だってレザーにステッチの入っているのが欲しい。となると、ハイラインパッケージ(38万円)の追加が必要であり、スポーツカーらしさを求めればデカ いホイールやタイトなシートも欲しいとなるとMスポーツパッケージ(43万円)も必要となり、合計金額はどんどんと上がってくる。そうは言ってもZ4を購入すれば、実用車には無いものを体験できるし、運転席に座った瞬間に世間の嫌なことをスカっと忘れ、明日からの英気を 養うことが出来るだろう。この考えに共感できる読者がいたら、是非とも一度購入を検討してみては如何だろうか? 実際に購入には至らなくても、計画だけでも楽しいものだ。