Volkswagen POLO GTI (2012/8) 後編

   
キーは一見電子キーに見えるが、実はドアロック(これは電子式)リモコンで、サイドから金属製のキーが出てくるジャックナイフタイプのキーをステアリングコラム右横のキーホールに差し込んで右に捻るという極々オーソドックスな方法でエンジンは始動する。DSGのセレクターはVW、Audiでお馴染みのPやら手前にR→N→Dは他社と同様ながら、その手前にSというモードがあるもので、これをDに入れてゆっくりと走り出す。DSGの出だしは神経を集中しなければトルコンATとの大きな差は判らない程度だが、シビアにみるとちょっとギクシャクする傾向がある。駐車場内をゆっくりと移動している時でも既に十分なトルク感を感じるが、一時停止後に国道に出て2/3程スロットルを踏んで加速すると、当然ながら十分な加速度で前車に追い付いてゆける。

国道から一般道に入って、50km/h程度の流れで前車に追従して巡航している時は回転計の針も1,200〜1,500rpm程度を指しているが、全車との距離が開いたときにキックダウンをすると、決して迅速なシフトダウンという訳ではなく、しかもミッションがスリップのないDSGだからトルコンATよりもギクシャク感が目立ってしまう。そこで、セレクターをDから更に手前のSに入れると、回転計の針が500rpmくらい上昇して、それからは高めの回転数で巡航するしキックダウンも迅速になった。

試乗車にはステアリングにパドルスイッチも付いているので、今度はセレクターをDから左に倒してマニュアルモードを試してみる。実はパドルスイッチというから、結構立派なヤツが付いているのかと思えば、何だかチンケなやつで見かけは安っぽいが、それでも機能的には全く問題は無い。交差点で右折の為に対向車の流れの切れ目を待って停車中に、ふと回転計を見ると、アイドリングより少し高い1,200rpmくらいで待機して いたが、これはMモードからの発進をスムースにするためらしく、その甲斐もあって発進は滑らかだった。そこから、4,000rpmくらいで右のパドルを引くと、多少のタイムラグは感じるが無難なシフトアップを行い、更に3速にアップさせてから巡航に移る。 

MTモードの状況も判ったところで、今度はDレンジによるフル加速をやってみる。国道バイパスに戻ったところで、いつものように信号待ちの先頭から青信号でフル加速してみると、回転計の針はあっという間に・・・・とはいえず、適度の勢いで上昇していって丁度7,000rpmのところでストンっと一瞬で5,500rpm位まで下がり、再度加速を始めた。ここで気になるのは、パーウェイトレシオでは同等のMINI COUPER Sの方がはるかに活発な加速をした覚えがあり、ポロGTIは何故か加速感がイマイチに感じる。これは、本当にタイム的にも遅いのか、フィーリング上の問題なのかは判らない。というのは、COUPER Sの場合は1速でフル加速すると、強烈なトルクステアの洗礼を受けてクルマは在らぬ方向へ横っ飛びする特性に誤魔化されてしまうことも考えられる.。それに、もしかするとCOUPER Sはミッションがローギアードなのかもしれないとも考え、ギア比を調べてみることにした。

  
上の表を見ると、意外にもCOUPER Sのギア比が高く、これで本当に活発な発進をしたのだろうか?という疑問もあり、なにかの間違いではないか、と何度か見直したが間違いでもなさそうだった。これに対してPOLO GTIは意外にも結構低めであり、2速がCOUPER Sの1速に近いくらいで、これならばピョンピョンとカッ飛んでもおかしくないのだが・・・・・。もしかして、ポロは2速発進だったのか?という疑問も湧いたが、7,000rpmまで引っ張ってみたのだから2速なら80km/hに迫る筈だが、あの時の速度はどう考えても50km/h程度だったから、やっぱり1速発進をしていたということで疑問は尽きない。やはりMINIのフィーリングというか演出の上手さに引っかかって、実際よりもはるかに強烈な加速と錯覚させられていたのだろか。

疑問は取り合えず今後の課題とすることで、折角調べた結果をもう少し検証してみると、COUPER Sのミッションは実は4速で、これに副変速機を組み合わせて6速としていたようで、理由はフロントに横置きするために全長を短くするためで、シフトレバーにつながるメカで副変速機も切り替えているというから、メカ的に凝ったことをやっているのだろう。なお、このミッションはゲトラグよりOEM供給されている。これに対して、ポロは自社のDSGだが、こちらも下の1〜4速と上の5〜7速でファイナルが異なっているが、これはVW製のDSGの特徴であり、構造的に低速側と高速側の出力軸が別になっているので、その後方にあるファイナルギアも別にしているわけで、これによってMINIと同じく全長を短くして横置きエンジンとして成立させているようだ。

そして、スイフトスポーツはといえば、ギア比は前車の中間であり、ファイナルは1種類と極オーソドックスで、走った感想も体感的にはPOLO GTIと比べても劣ることのない動力性能を感じられ、価格(168万円)を考えればコストパフォーマンスは抜群といえる。


写真21
キーは今時の電子キーではなく、金属キーをキーホールに差し込んで捻るというオーソドックスな方法だ。

写真22
5ナンバーサイズのボディは極めて取り回しが良い。

写真23
VW/Audiグループに共通のDの手前にSを配したセレクター。
 

写真24
メーター類もVWらしいデザインだが、速度計のフルスケール280km/hはハッタリが過ぎる。
 
操舵力は軽くもなく重くもなく適度だし、レスポンスも中心付近に多少の不感帯はあるものの適度にクイックであり、本格的なスポーツカーと比べれば不満も出るが、小型ハッチバック車としてみれば悪くないという程度だ。それよりも、結構センタリングが強いのでもしやと思ったら、最初のコーナーでは想像どおりのFF的なアンダーステアが出ている。 VWといえば、FFとは思えないくらい素直な旋回特性というイメージがあり、FFなのにどうしてこんなに自然なんだ、なんて感心するゴルフGTIのイメージを思い浮かべながら、同じGTIのポロにも同様な特性を期待していたら、これは完全に裏切られた。ポロはGTIとはいえ、リアサスはトレーリングアームで、言ってみればトーションバーの手だから、4リンクのゴルフと違うのは判るが、それよりも数十万円以上の価格差が効いているような気もする。

2年前にポロGTIが発売された頃、関東圏では殆ど試乗車が無かったが、地方によっては試乗できた地域もあったようで、そういうところで試乗したユーザーの個人ブログをみると、皆一様にハンドリングの悪さや、コーナーリングでのロールの大きさ、というか重心の高さを指摘していて、無理すると転倒の危険もある、などという表記もあった。偶々VWを良く思っていない個人が悪く表現するなら判るが、皆がみんな、この点を指摘しているのをみて、これはやっぱり、ゴルフとは別物なのだろう、と思ってはいたが、成程、このクルマをコーナーリングマシンとして絶賛するのはチョッと厳しいかもしれない。 ただし、当時指摘されていた転倒の危険性については、今回の試乗では感じなかったが、更にコーナーリング速度を上げると、そんな挙動が現れるのかもしれないし、2年経過して少しは改良されたのかもしれない。

と、まあ操舵性については問題も多かったが、今度は片側2車線の国道で後ろにクルマがいないチャンスを狙って、ちょっと急なレーンチェンジを行ってみたが、特にふらついたり、ヒヤっとするような事はなく、コーナーリングのイマイチさにしてはマアマアだったが、ステアリング自体は手首でクイっという訳にはいかず、気合を入れてグイっと切る必要があった。

ブレーキについては特にいう事が無いくらいに、欧州車としては普通に良く効く。ただし、アルミホイールから覗くブレーキキャリパーはゴルフ GTIと同様に極普通の片押しの鋳物キャリパーを赤く塗っている。まあ、今更言わないが、この方式はそろそろ止めた方が良いと思うのだが・・・・。 そのブレーキを前後で比較してみたらば、何とリアのディスクローターがフロントに比べて随分小さいのに気付いた。ということは、リアの負荷が小さい、というかフロント負荷が大きいということで、言い換えればフロントヘビーな特性ということだ。 ヤッパリ、本来は1.2Lのシングルチャージャーを載せるべきなボディに1.4Lツインチャージャーを載せれば、その分だけフロントが重くなっても当然ではある。それで思い出したが、FFっぽいアンダーの強さは、フロントが重いことに原因の一端はあったのだろう。 しかし、ポロ GTIの発売当時に大手のサイトや雑誌などでは、ポロ GTIはフロントが軽量なことによる軽快な操舵性能云々・・・・という記述が多かったが、有名評論家先生の感覚は我々素人とは違うのだろうか?それとも、広報車はフロントが軽い特別仕様・・・・なんて事は無いと思うが。 と、ちょいと燃料を投下してみたりする。


写真25
ショボイ鋳物のキャリパーを赤く塗るというVWのGTIに共通の方式は賛成できない。

写真26
リアのローターサイズがフロントより随分と小さいということは、フロントヘビーであるということだ。
 
このクルマをスポーツハッチと思うと物足りないが、スポーティーな運転にもある程度対応できるコンパクトハッチで、普段は家族も普通に乗って、イザという時にはクルマ好きのオトウサンが頑張っても何とか付いてくる万能車としてみれば、いい線を行っているのかもしれない。そういえば、現行モデルに3ペダルのMTの設定はないことを考えても、他の欧州製ハッチバック、特にラテン系のクルマとは性格が全く違う、と理解すればこのクルマの真価が理解できるだろう。

ここで気が付くのはPOLO GTIの294万円という価格は、春頃に発売されて大きな話題だった86、そのなかでも最も結果の良かったBRZ S(MT)の287万円と同等であることだ。となるとマニアとしては、300万円だったらばポロ GTIとBRZ Sを比較検討するなんていう企画には興味を示してくれるのではないだろうか。という訳で・・・・

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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