BMW 320i Sport (2012/7) 後編
   
シートに座ると、見かけの割に座面が柔らかいことに気が付く。柔らかいといっても少し前の(今でも)国産車のように体を支えられないし、時間とともに体が沈んでいくような事はなく、表面の柔らかい部分が沈んだ後はキッチリと体を支える固い部分に当たるから全く問題は無いのだが、ドイツ車=ガチガチシートという、いわゆるレカロ系を好む( 良いと思っている)ドライバーには違和感があったり、ドイツ車っぽく無いと不満が出るかもしれない。ただし、最近はVWでも以前ほどのガチガチシートではなくなる傾向もあるから、これは時代の流行もあるかもしれない。 着座位置はそれ程高いとは感じないが、よく見るとボンネットの先端が僅かに見えているから、取り回しは実に楽だ(写真21)。

エンジンの始動はインテリジェントキーを所持するか傍に置き、ステアリングコラムの左側のインパネ上にあるプッシュボタン(写真22)を押すのは1シリーズも含めて最近のBMW(というか、国産車も)に共通の方法だ。そして、これまた1シリーズと共通な電子式のATセレクターをDに入れて、レバー式のパーキングブレーキを解除して走り始める。 公道に出てハーフスロットルを踏んだ瞬間に、同じエンジンを積んでいて予想外に活発な走りをしたZ4と同様の加速感を感じて、これなら問題ないぞ、という事が判り、少なくとも懸念していた523iの4気筒版のパワー不足感とレスポンスの悪さとは異なる事で一安心する。そこから10分ほどは速い流れの国道を他車に追従して左車線を巡航するが、やがて前に約40km/h程で走っている遅い車の後ろに付いてしまったので、右車線にクルマがいないことを確認して車線変更し、そこからフルスロットルを踏むと、適度なレスポンスでキックダウンして、これまた適度な加速で遅い車を追い越した。 流石に遅いクルマの前はガラ空きだったから、左に入って減速する。このフル加速性能も前回乗って、これならまあ不足は無いかな、と思ったZ4 2.0iと同程度だった。

取りあえずホッとしたところで、走行モードをSPORTに切り替える(写真23)。当然ながらスロットルレスポンスは向上しATのシフトスケジュールも高回転寄りとなる。この状態では先代320i(E90)よりも明らかにパワフルに感じられ、 10年ほど前のE46、すなわち320iが6気筒2.2Lだった頃に勝るとも劣らない性能になった。こうなると、1シリーズ用の1.6Lターボを積んで318iなんていうのも有りかという気さえしてくる。

今度はマニュアルモードを使ってみることにするが、その前にもう一つやることがあった。COMFORT、SPORTの他にECOというモードがある訳で、まあ、やってみる前から結果は見えているが、話のタネに一応やってみる。ECO切り替えると、途端にレスポンスが悪くなり、踏み込んでも殆ど反応しない、ということが確認できたので早速SPORTに戻して、ATセレクターをDから左に倒してSモードとして、そこからレバーを前後に動かすとMモードとなる。 これは先々代のE46から同様な方法であったが、当時は走行モード切替などは無かったのでDからSにするとシフトスケジュールが高回転側になるため、状況によってはDではなくSでのオートマ運転を使いたい場合に便利だったが、最近のBMW各車にはドライブモードが変更できるようになっているために、ATセレクターでのSレンジっていうのは何の目的があるのだろうか?実はこのSレンジについては、1年ほど前に試乗した5シリーズ(528i)で試したことがあり、結果としてはシフトスケジュールのみが変わるのがSレンジで、アクセルやステアリングのレスポンスまで変わるのがSPORTモードのようだった。

前置きが長くなってしまったが、マニュアルモードでのシフトでは、トルコンAT車としては十分に速い部類のレスポンスだったから、実用性は十分にある。ただし、何時使うのかというのはちょいと難しい問題だが、本当はMTが欲しいオトウサンが家庭の事情で泣く泣くATを買った時に、自己満足で使ってみるのがマニュアルモード、というところだろうか・・・・。 なお、328iも320iもパドルスイッチは標準では装着されず、オプションのスポーツ・オートマチック・トランスミッション(2.2万円)とスポーツ・レザー・ステアリング(1.8万円)の装着が必要となる。

最近のクルマとしては当然なのだろうか、320iにもアイドリングストップなる機能が付いている。腹が立つことに、エンジンをスタートした最初のデフォルトは、この機能がオンとなっていて、嫌な場合はスターターボタンの上部にあるスイッチでOFFとするが、こんな機能はイラネェ、なんていうユーザーはスターターを押した後に無意識に上のボタンも押すようにすれば解決だ。 いや、もしかすると設定でデフォルトを変更できるかもしれないから、オーナーになったならディラーで聞いてみるのも手であろう。 そのアイドリングストップは一瞬でブレーキからアクセルに踏みかえると、アクセルを踏んだ段階ではエンジンが始動していないが、その後少し遅れてエンジンが始動して、更に一瞬遅れてごく自然に発進する。色々やってみたが決して飛び出すような事はないし、普通のドライバーの踏み替え速度ならば、アクセルに足が移った時点で丁度良くエンジンがスタートする。 これは半年前に試乗した523iに比べると自然なフィーリングが向上していて明らかに改良されている。


写真21
ボンネット先端がハッキリ確認でき、取り回しも良い。

写真22
スターターボタンと、その上はアイドリングストップのOFFスイッチ。
 

写真23
328iと同じなのは当然として、更に1シリーズとも共通しているコンソールのモードスイッチと電子式のATセレクター。
 

写真24
328i SPORTと同じメーターで、 同心円上の赤いラインがSPORTを表している(らしい)。
 
エンジンは価格差分をデチューンしたとはいえ、それでも実用上は全く問題ない程度という結構絶妙なところを狙ってきたが、それではハンドリングはどうだろうか。まずはアクティブステアリングを調べてみると、何と320iも328iと同様に標準装備だった。恐らくサスペンションなどの足回りも共通だろうし、ホイールから覗くブレーキも同じモノのようだ。 それでは実際の操舵感はと言えば、操舵力は気のせいか320iのほうが少し重く感じるし、レスポンスも328iのようなスポーツカーも真っ青というのとは少し違った。いや、勿論320iだってDセグメントの4ドアセダンとしてはダントツであり、328iが特別だったのだが。

この違いは何なのかと考えたとき、一番最初に思い当たるのがタイヤの差であり、328iが225/45R18を標準装備していたのに対して、320iは225/50R17というワンサイズ小さなホイールを使用していたから、当然ながら操舵性ではマイルドになるだろう。しかし、それなら320iにオプションで18インチを入れれば同じようになるかと言えば、どうも感覚的にはそうではないような気がする。 ということは、アクティブステアの制御特性を変えているのではないかと想像する。最近の電子制御はプログラム自体は同じでも、いくつかの特性をデーターテーブルに置いておいて、メインルーチンでどのテーブルを使うかとか、そのテーブルを定義するホンの数バイトのデーターを書き換えるだけで、特性が大きく変わる・・・・なんていうことは朝飯前ということだ。 もしかすると、320iの制御ユニットの中の数バイトのデーターを書き換えると、あーら不思議、328iになってしまった、何てことも強ちオーバーでもないような気がするが、BMWだってそう簡単に見破られたら商売にならない訳で、相当なプロテクトをかけてはいるだろう。

話を元に戻して、320iのコーナーリングは328i程ではないにしても弱いアンダーを基本とするBMWらしいもので、普通のドライバーならば、いや若いうちは結構無理もしたよ、なんていう熟年のクルマ好きでも大きな不満はでないであろうというレベルには達している。逆に乗り心地に関しては320iの方が寧ろ良いのではないかと感じるが、考えてみれば幅が同一で扁平率のみが45と50だから、50扁平の320iの方が乗り心地が良くて当然だった。

最後にブレーキについても、両車は目で見た限りは全く同じもののようだ。贔屓目にいえば、低グレードの320iでも上級の328iと同じグレードのものを使用するのは、安全上最も重要な部品であるブレーキは、低グレードだからと差別しない立派なボリシーだ、といえる。だがしかし、言い換えれば国産車のように上級スポーツグレードにはオーバースペックのブレーキを与えてオーナーの満足感をくすぐることをしないのは、イマイチ面白くないともいえる。


写真25-1
320i Sportのタイヤサイズは225/50R17が標準となる。
320iのブレーキキャリパーとディスクローターは328iと同じのようだ。


写真25-2
328i Sportのタイヤサイズは225/45R18と320iよりもホイールが1インチアップされている。
 

一番興味のあった動力性能については、同じエンジンを搭載したZ4 2.0の結果から、十分な動力性能を持っているであろうことはある程度想像していたが、同じエンジンを積んでいる523iがちょっと期待外れであったこともあり、乗ってみるまでは何とも言えない状態だったが、今回の試乗で新320iは十分な動力性能であることが確認できた。 そして操舵性もBMWの主力モデルらしくスポーティーなものだったから、これは人に勧めても恨まれることは無いことが確信できる。しかし、同じエンジンを載せて、どう見ても制御プログラムのみの違いとしか思えない328iの強烈な加速性能と本格的スポーツカーにも勝るような操舵性能と比べると、本来はあれだけの実力のあるクルマを、販売価格を安くするためのトレードオフとして、わざわざ性能を下げるという商法にはどうしても引っかかるものがある。

一年ほど前のC200試乗記の最後で、特別編としてC200対320iを予告したが、モデル末期の320iではC200に歯が立たないという結論に至り、新320iが出るまで待つことにした。そして、C200の出来の良さに真っ青となったBMWが急遽予定を繰り上げて新3シリーズの日本国内販売に踏み切ったが、最初に販売されたのは328iのみで、本命の320iは事実上半年遅れの発売となった。 とはいえ、328iとC200を比較してCクラスも終わった・・・・なんていう頓珍漢な 評価をするほどにはアホではないので、そのチャンスを待っていたのだが、やっと320iに試乗できたことで遅ればせながら320i vs C200という特別編をお送りしよう。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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