Porsche 991 Carrera S (2012/5) 中編

シートに座れば、その感覚は御馴染みの911そのもので、正面に見える5連メーターも911独特のものだ。前の半分を基本的に共有しているボクスター/ケイマンも、シートに座ったフィーリングはかなり似ているが、正面のメーターが3個である点が最も異なる。そして、ポルシェのメーターといえば、ベースグレードが黒で高性能版の”S”は白に近いシルバーというのが今までのお約束だった。ところが、今回の991はカレラSであるにも関わらすセンターを除く4つのメーターは黒だ!そしてセンターはグレーに近い暗いシルバーとなっているが、これがカレラの場合には5つ全てが黒となる点では従来と変わりは無い。そういえばパナメーラSもセンターのみがシルバーだった訳で、これは新時代のポルシェのルールなのだろう。 その他にも細かい点で違いがあるが、詳細は写真41を参照願うことにする。

そしてエンジン始動となるが、渡されたキーは997の内溝式金属キーではなく電子式のキーだった。国産車の常識では、いや今やBMWの新型などでも電子キーはポケットなどに入れて所持するかコンソール辺りに置いておく、というのが普通だが、そこはポルシェの事だから以前のキーホールの位置、すなわちにインパネ左端(LHDの場合)にしっかりと電子キーを挿入するスロットが付いている。

ブレーキペダルを踏みながら挿し込んだ電子キーを右に回すと、短いクランキングの後に勇ましい音と共に回転計の針が一瞬跳ね上がり、エンジンが目覚めた。アイドリング時の音を聞くと回転数が高いように感じるが、正面中央の大径回転計は800rpmを指している。アイドリング時の振動も当然感じるが、先代997カレラSのブルブルといいう振動と排気音に加えてメカメカしい音が混じった独特の音に比べると、ちょっと味気ない気がする。 いま踏んでいるブレーキペダルを見ると、ポルシェの定番であるアルミに滑り止めのゴムを貼ったもので、これはボクスターからカレラSまで基本的に同じものだ(写真43)。

実はこの時点では気が付かなかったのだが、試乗車にはオプションのスポーツクロノクロノパッケージ(35.8万円)が装着されていて、991ではこのパッケージにダイナミックエンジンマウントという装備も含まれていた。これはドライビングスタイルと路面状況に応じて自動的に左右のエンジンマウントの固さを調節するというものだ。 ポルシェのクルマ、取り分けカレラは他車に比べて極めて固いエンジンマウントを使用しているために、アイドリング時には振動がボティに直接伝わってくる独特なフィーリングが、いかにもポルシェらしくて個人的にはこれが大いに気に入っていたのだが、今回はアイドリング時にはエンジンマウントが柔らかい状態だったために、独特な振動が無くなってしまったのだろう。こうなると、後述するスポーツエクゾーストシステムがスイッチ一つでバリバリ音に変身するように、アイドリング時にブルブルと振動するスイッチ、なんていうのが欲しくなる。

コンソール上にあるPDKのセレクターレバー(写真44)をDに入れて、さてパーキングブレーキはといえば、歴代ポルシェに備わっていたコンソール後方のパーキングブレーキレバーは無く、今回の新型から採用されたエレクトリックパーキングブレーキのスイッチ(写真45)がインパネ左端のイグニッションキーのさらに下にある。このスイッチを引くことでスイッチ上の赤いインジケーターが消灯して、パーキングブレーキが解除されたのが判る。 なお、このパーキンングシステムは発進による自動解除も出来るらしく、坂道発進で威力を発揮するようだ。マニュアルミッションで坂道発進時にパーキングブレーキを併用する、いわゆるサイド発進というのは、その昔は初心者の苦手な代表アイエムであり、運転免許の実技試験でも御馴染みだったが、今や911でさえ自動化されて、誰にでも簡単に坂道発進が出来るようになってしまった。

写真41
911系伝統の5連メーター。
997までは高性能版の”S”は5つとも白に近いシルバーだったが、991からはセンターの回転計のみがグレーに近い暗いシルバーで、これはパナメーラと同じだ。



また、中央右のメーターは997のアナログ(メカ)から991はデジタルとなった。そして997では油圧と油温だった両端のメーターは左端が油圧&油温、右端が燃料&水温に変更された。

写真42
997の内溝式の金属キーに対して、991は電子キーとなったが、挿し込む位置や始動方法は997と同じ。ここでも先代ユーザーに対する違和感の無さを最優先にしている。

 

写真43
アルミにゴムの滑りとめを施したペダルは同じものを流用している。ペダル間隔などの配置も全く同じだから、997から買い換えても全く違和感はない。

写真44
PDKセレクターのレバー(ノブ)は997と共通のようだが、ベースプレートは全く異なる。

写真 45
パーキングブレーキは997がオーソドックスなレバー式であったのに対して、991では電気式となった。
押してON,引いてOFFとなる。

最初は走行モードをデフォルトのノーマルのままで、ユックリと狭い裏道を100mばかり走ってから、表の地方道に出るために一時停止して本線の流れを確認すると、ラッキーな事にクルマはいない。よし今だ、と思った瞬間にエンジンが停止した。あれゃ、もしかしてアイドリングストップが作動したのか!?こんなクルマにまで、付くようになってしまったのか。991のアイドリングストップはちょっと停止しただけで作動し、その時の状況はスパッというか、一気に停止するとう感じがする。 スタート時に、ワザと目一杯素早くブレーキからスロットルへと踏みかえると、ちょっと遅れてエンジンが掛かり、その微妙な空白が気持ち悪い。と、まあ5〜6回程作動をさせてみたが、それ以後はコンソール上のオフスイッチ(写真49-F)を入れたままにした(写真47)。

決して広いとは言えない道路をユックリと流れに乗って走っていると、回転計の針は1,500rpmを指している。「こんな高性能車で1,500rpm巡航はねえだろう」なんて言いたくなるが、それでも排気量が3.8Lもあるから、大人しく走る分にはそのままユックリとスロットルペダルを踏めば、スムースに加速してしまう。5分ほどで4車線(片側2車線)バイパスに出たので、更に5分ほどそのまま巡航してから、再度地方道に入る。


写真46
ステアリングスポークにSPORTモードの表示が出る。ただし、オプションのスポーツデザインステアリングホイールの装着時のみで、標準のスポーツステアリングホイールの場合は エアバックモジュール上部の表示となる。


写真47
アイドリングストップは通常ONになっていてメーター内インジケーターが表示されている。OFFボタンを押すと赤いインジケータが点灯しメーター内は消灯する。



写真48
991の標準は997から踏襲された独特のマニュアルシフトスイッチを持つスポーツステアリングホイール(写真上)で、パドルスイッチの付いたスポーツデザインステアリングホイール(写真下)はあくまでオプションとなっている。

新型の991では、全てのモデルにスポーツモードが標準装備されている。コンソール上に並ぶスイッチの中からSPORTと表示されたスイッチ(写真49-@)を押すと小さな赤いLEDが点灯し、ステアリングホイールのスポーク上にも”SPORT”という表示が出る(写真46)。 このステアリング上の表示は実に便利だが、オプションのスポーツデザインステアリングホイール(写真48下)を装着するとパドルスイッチ(写真51)とともに、この機能が付いてくる。そして、標準はあくまで997フェイズ2から続くへンテコリンなステアリングスイッチでマニュアルシフトを行う機構の付いたスポーツステアリングホイール(写真48上)であり、ポルシェは今でも意地を張っている訳で、事実上はオプションを付けるのが当たり前となっている。 なお、ポルシェは標準ステアリングホイールを正当化するためにスポークにオーディオやメータパネルのディスプレイ、オンボードコンピュータなどの機能を操作するための各種スイッチを組み込んでいる。まあ、コンフォート志向のユーザーには、標準ステアリングの方が有用だ、と言いたいのだろう。確かに、クルマに1千万円以上出せるユーザーの多くは911を高級ツアラーと認識していているのかもしれない。そして、パドルスイッチがどうした、こうした、というマニアは悲しいかな、911を買うだけの財力が無い・・・・というのが現実でもある。

SPORTモードに切り替えた瞬間に、1,500rpmでの巡航から一瞬でシフトダウンされ、回転計は2,000rpmにピョンと跳ね上がった。ここでスロットルペダルを踏むと、明らかにレスポンスが良くなったエンジンはビィーンという強烈な音と共に加速する。あれっ、排気音が変わった。しかも、かなり過激な音がする。そのうちに前のクルマが信号待ちに入ったのが見えたので、スロットルをオフにして減速したらば、その瞬間にバッ、バッ、バッというかパン、パン、パンというか、要するにアフターファイヤーを伴うような、まるでレーシングチューンしたエンジンのような音が聞こえる。 なにっ?これは一体何が起こったのかと思い、コンソール上に並ぶスイッチをみると、デュアルエクゾーストをイメージしたような表示のスイッチ(写真49-E)が赤く点灯している。そう、この試乗車にはオプションのスポーツエクゾーストシステム(46万円)が装備されていたのだった。

ここで、コンソール上に並んだスイッチ郡について説明しておく。右の写真で
 @ SPORTモードスイッチ
 A SPORT PLUSモードスイッチ
 B PASM(可変ダンパー)スポーツモードスイッチ
 C PSM(横滑り防止装置)OFFスイッチ
 D リアウィング上下スイッチ
 E スポーツエクゾーストスイッチ
 F アイドリングストップOFFスイッチ


写真49
コンソールに並ぶスイッチ群。

試乗車のインテリア写真を見ればダッシュボード天板中央にストップウォッチ(写真50)が見えることで判るように、このクルマにはオプションのスポーツクロノパッケージ(ダイナミックエンジンマウント含み35.8万円)も装着されていたので、コンソール上の”SPORT”スイッチの手前には”SPORT PLUS”と表示されたボタンがある(写真49-A)。 そこで、今度はこのSPORT PLUSをセレクトすると、Dレンジではスポーツより更に1段シフトダウンされて、エンジンの回転数もピョンと上がる。すなわち、ノーマルモードで1,500rpm(4速、50km/h)巡航からSPORTモードに切り替えると、3速2,000rpmに、更にSPORT PLUSを選ぶと一瞬のシフトダウンで2速2,700rpmに跳ね上がる。 SPORT PLUSでは当然ながらエンジンレスポンスは更に向上するし、エクゾースト音もより過激な音となり、スロットルオフでは派手なアフターファイヤ風のパン、パン、パンという音まで加わる。もしかして、この派手は排気音は、室内のみではないか?とう疑問を感じたので、サイドウィンドウを全開にしてみたら、何と室内で聞く以上にド派手な音を周囲にぶん撒いていた。 ハッキリ言って、多少の気恥ずかしさを感じるが、これを見た世間の人は如何思うのだろうか?

走行モードを切り替えると、それに連動していくつかのアイテムも自動的にONまたはOFFになる。NORMALからSPORTに切り替えた時には、同時にスポーツエクゾーストがONになり、派手はエクゾーストサウンドを奏でる。そして、SPORT PLUSを選択すると、更にPASMのダンパー設定もSPORTとなり、乗り心地が固くなる。SPORTを選んでからスポーツエクゾーストのスイッチを押すと、赤いインジケータが消えて排気音も普通になる。 また、スポーツエクゾーストがONでも、SPORTよりもSPORT PLUSの方がより過激な音を奏でるように感じた。

モード別の動作も基本的に判ってきたので、今度はMANUALモードを試してみる。今回は走行モードをSPORTにしておいて、Dレンジで4速1,900rpm、60km/h巡航時にPDKセレクターレバーを左に倒してマニュアルモードにする。ここで、左のパドル(ダウン側)を引くと、殆どタイムラグ無しで回転計の針は2,400rpmに跳ね上がる。そこで更にダウンを引くと、これまた一瞬で3,300rpmまで跳ね上がり、この時のギアポジションは2速を表示していた。 今度はSPORTPLUSに切り替えて同様のマニュアルシフトを試みたら、パドルを引いたと同時にヴォンッという鋭いブリッピング音とともに回転計の針もピッと上がって、SPORT以上のレスポンス、というか、今まで乗ったどの2ペダルミッションのマニュアルモードよりも速いレスポンスで、気持ちの良いくらいにシフトダウンが行われた。


写真 50
試乗車にはオプションのスポーツクロノが装着されていたので、ダッシュボード上面中央にスrトップウォッチがついたいる。


写真 51
建前ではオプションだが、事実上は標準となっている感があるパドルシフト。


写真52
中央寄り右の中径メーターは液晶ディスプレイとなっているために、必要により表示内容が変わる。


写真53
997では中央寄り右にあったPDKのポジション表示は991では中央の大形メーター内に移動した。

クルマにも慣れてきたので、これ以上は一般道では無理と判断して、そのまま高速道路に向かうことにする。

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