Porsche 991 Carrera S 特別編
  [TOYOTA 86(SUBARU BRZ) vs PORSCHE 911(991) 後編]




特別編へようこそ。
前編でも御注意申し上げたように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

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クルマの比較をするからにはエンジン同士の比較写真は必須だが、リアエンジンであるポルシェ911系は元々リアのカバーを開けてもエンジンは極一部が見えるだけで、全容を見ることはできない。それが、今回の991ではエンジン本体はその一部すら見ることができなくなってしまった。そこで、両車のオフィシャルフォトの中からエンジンのカットモデル写真を比べてみる。

 

ポルシェのエンジンと言えば伝統の水平対向6気筒であり、先々代の996から水冷化されたが、それまでは長らく空冷であり、ポルシェ911=空冷水平対向という図式だった。 ポルシェに限らないが名車といわれるクルマの大幅なモデルチェンジでは必ず前の方が良かったと言うユーザーが存在し、それは大体が強烈なマニアの場合が多い。ただし、一部には”知ったか君”も混じっているようだが。

スバルの場合もポルシェと同様に水平対向エンジンが特徴であり、世界的にも乗用車にこのタイプのエンジンを搭載しているのは、今ではこの2社くらいだろう。ただし、今回の86/BRZも同様だがスバルの場合は主として4気筒であり、ポルシェが6気筒であることとの相違点でもある。えっ?スバルだって6気筒があるのを知らねぇのか、なんて言っている君。実はスバルの6気筒については代車としてBHEを1週間づつ、通算3回ほど乗ったことがあるのだが、大いなる期待をよそに4気筒ターボのGT Bスペックの出来の良さに比べると、ハッキリ言ってイマイチ。というか、駄目だこりゃ、と呟く結果だった。

ところで、両車のエンジンのバルブ機構をみると、ポルシェはカムからオイルタペットを介して直接バルブを駆動する直動型となっている(写真右上)のに対して、スバルはカムの変位をローラーベアリングで受けて、これをロッカーアームで伝える方式を取っている。ローラーベアリングによる摩擦の低減というメリットはあるが、ロッカーアームという部品が介在することより、超高回転時では不利となる。 その他の個所でも991は流石に値段だけのことはある、と言いたくなる部分が随所にあるわけだ。 その中でも代表的な違いはスバルのエンジンが底部にオイルパンを持つ一般的なウェットサンプのために、オイルパンが下に出っ張ってしまい折角の水平対向のメリットの足を引っ張っている。 とはいえ、それでも直列やV型エンジンに比べればスバルの水平対向は十分に低重心なのだが、991が伝統的に採用してきたドライサンプ方式を継承しているのに比べると見劣りがしてしまう。 ただし、水冷化された996以降のポルシェエンジンはドライサンプといっても外付けのオイルクーラー(ラジエター)を持たず、エンジンの冷却水を使ってオイルを冷却するという方式を採用している。

 

と、能書きをコエていてもしょうがないので、実際に乗った時点でのエンジンのフィーリングを比較すると、86系も最初にBRZ S MTに乗った時点では、結構レスポンスが良くてエンジン音もマニアックだと感心したのだが、その後に乗ったトヨタ版の86 G MTでは、それ程でもなかった。そして991の場合はカレラS PDK搭載車だったが、 音に関してはオプションのスポーツエクゾーストシステムを装着していたために、これをONにするとスロットルペダルを緩めた瞬間にパンっ、パンっ、パンっというまるで公道走行ご法度のチューニングカーのような音が聞こえ、その気分は最高潮になるが、オプション価格の46万円というのが金銭感覚の違いを感じさせる。

スポーツカーのエンジンと言えば音と共に肝心なのは高回転域での特性だが、その点では991は流石と言えば流石で、5,000rpmからの回転の上がり方は正にスポーツエンジンという感じだが、GT3などの例外を除くと最近の911カレラ系は思ったほどには高回転型という訳でもなく、回転計のレッドゾーンも7,600rpmとなっている。 この手のトップエンドのスポーツカーだったら、8,000rpm以上まで回したいとも思うが、ポルシェとしては耐久性や実用性等を考慮しているのだろうか。リアシートが狭くて2+2であることを除けば、確かにカレラ系の実用性は抜群で、コレ一台で近所の買い物なども出来てしまう。 そして86はといえば、トップエンドの回転の勢いではちょっと物足りない。ポルシェの中でもカレラよりも価格の安いボクスター/ケイマンも、高回転での勢いはカレラに比べればイマイチで、これは差別化のためにバルブ機構やチューニングで差をつけているのだが、そのボクスターと86を比べると、う〜ん、やっぱりボクスターでも86では敵わないと感じられたが、それでも86自体は決して悪くない。比べる相手が悪かった! この件は後程もう少し詳しく触れてみる。

回転数の話題が出たので、両車のメータークラスター内の比較をしてみよう。回転計は両車ともセンターに大径のものが付いている。 その左が少し小さい速度計であるのも両車とも同じで、その見辛さは回転計の中に仕込まれたデジタル速度計がカバーするのも全く同様だ。 しかし、写真を見れば判るように、高級な質感の991に対して、如何にもチープな86という現実もある。86の場合、ドライバーの真正面に配置され、常に目に入る部分であるメーター類の質は、もう少し何とかならないのだろうか。

991も86も、最近では珍しくMTが用意されているが、今回はATで比較する。991はATとはいっても最新のDCTタイプで、写真右下の系統図をみれば判るように、偶数系(2,4,6,図でグリーンの系統)と奇数系(1,3,5,7、R、レッドの系統)がそれぞれ常に何処かのギアと噛み合っていて、クラッチによりどちらかの系統を接続する。

それにしても写真のような複雑なメカの塊をみると、こういうのを作らせたら流石にドイツ人には敵わない、という気がしてくる。 特にクラッチの拡大写真(写真右)を見ると、なんとまあ複雑怪奇なメカで、ここまでしてでも大トルクのクラッチをコンパクトにまとめるという執念のようなものを感じる。

これに対して86のATはオーソドックスなトルコン式の6速ATとなっている。従ってレスポンスやダイレクト感はPDKを搭載する991の圧勝だし、性能的にも86の場合はMTよりも性能的に見劣りがするが、991の場合は加速性能などでは寧ろ2ペダルのPDKの方が3ペダルのMTを上回っていたりする。 これでは3ぺダルMTの立場が無いが、今の時代のMTの役目は、3つのペダルとシフトレバーを操作しながらクルマとの対話を楽しむ、なんていう古風なユーザー専用ということになる。

そのATのセレクターはといえば、基本的にはティプトロタイプで奥からP→R→N→DでDから横に倒すとMとなる。Mモード時のレバーの動作は両車共に押してアップ、引いてダウンというタイプだ。 まあ、これについては現在全く逆のパターンが市場で共存しているが、個人的にはレーシングカーのように引いてアップ、押してダウンが、ドライバーが感じる加速度と合っていて好ましいと思うのだが。

マニュアルシフトのもう一つの方法が、両車共にステアリング上のパドルスイッチを使用し、右がアップ、左がダウンという、こちらは世界的に標準になりつつある方法に統一されている。 ただし、この件は何度も触れているが、991のステアリングパドルは正式にはオプションで、標準はポルシェ独特のどうしようもない変態スイッチになっている。まあ、多くの人がパドルを選ぶので、ディーラーが見込みで発注するクルマの多くはオプションのパドルが付いているようだが。

それでは2ペダルのミッションを実際に乗ってみて、その違いはどうなのかと言えば、991は前述のようにPDK(デュアルクラッチ方式)だからスリップは無く、ダイレクト感はMTと変わらない。そして、パドルによるマニュアルシフト時のレスポンスは正に一瞬であり、これなら3ペダルと決別してもいいかな、と思わせるくらいの出来だ。 それに対して86はといえば、旧来のトルコン式のATだから、レスポンスはイマイチだしスリップも感じる。それにMTに比べて性能もワンランク落ちるから、86で走りを楽しみたいマニア諸氏はMTを選ぶしかないだろう。ATの性能ダウンというのはトルコン式ATを使用する限りは避けられない訳で、ポルシェも先代997の前期モデルまでは、ATはMTに対して明らかな動力性能の低下があり、カレラのATはボクスターSのMTと同程度だった。

このデュアルクラッチ式ミッション(DCT)については日本は完全に後発、というよりも、未だ日本の部品メーカーでは量産に至っていない。DCTは元はといえばポルシェがレーシング用に開発した物で、一時期は不滅のレーシングカーである956/962に搭載されていたこともあるが、結局レース用では使い物にならなかった。その後、VWが技術を買ってストリート用としてゴルフなどで量産化した例のDSGとなって今日に至っている。そのポルシェが911系にまで搭載をしたということは、長年の研究で市販車に必要な性能と信頼性を確保できたということだから、日本のメーカーが後追いで作るにも、そう簡単にはいかないだろう。なお、現在国産車では日産GT‐Rと三菱ランサーエボリューション]にDCTが搭載されているが、これらは何れも欧州の部品メーカーからの購入品となっている。

ほんの20年前までは、多くのクルマはスチールホイール、いわゆる鉄っチンホイールを使用して、そこにホイールキャップを被せていた。鉄っチンホイール自体も殆ど中が覗けないのに、更にキャップを被せている訳だから、ホイールの中にどんなブレーキが付いているのかは見る事ができなかった。ところが、時代が変わって中級以上のクルマはアルミホイールが装着されているようになり、多くのクルマがホイールの隙間からキャリパーやディスクローターを覗けるようになった。そうなると、見るからに強力そうなブレーキが見えることは、特に高性能車には大いなるセールスポイントとなる。そこで人気のアルミ対向ピストンキャリパー(オポーズドなどとも言われている、以下OPZと記す)というものが存在する。実はディスクブレーキの本流はOPZ方式なのだが、ルーカス・ガーリング社の特許を避けるために片押し方式とかピンスライド方式といわれるタイプのキャリパーが開発され、低コストというメリットからか、今ではそちらが主流となっている。

メルセデスの場合、190当時は全モデルでOPZキャリパーが使用されていた。ただし、現代のようなカッコの良いアルミ製ではなく、武骨な鋳物製だった。ところが、メルセデスも時代の波には勝てずに、”最善か無か”のポリシーをかなぐり捨てて、コストダウンに走って行ったことで、何時の間にか片押しタイプのキャリパーになってしまった。それでも流石にフラッグシップのSクラスには、その後もOPZキャリパーを使い続けているようだ。

そのような背景の元に現在のアルミOPZキャリパーはイタリアのブレンボ社が独占している。このアルミのカッコ良いブレンボ製キャリパーを最初に大量に採用したのはポルシェで、それ以前からOPZ方式を当然のように採用していたが、オールアルミの新しいタイプとしてブレンボ製キャリパーを導入し始めたのは964辺りからだったと思う。その後全モデルに採用が拡大され、1996年のボクスター発売を機にモノブロック化された。このモノブロックについては、そのうちに詳しく説明したいと思っているが、取りあえずこの場では従来は2つ割りで作ってボルトで結合する分割方式に対して、一体となったモノブロック方式は強度や信頼性などで大いにメリットがあるのだが、ピストンの穴加工に特殊な装置や技術を必要とすることで、従来はワンオフのレーシング用くらいしか採用さfれていなかった。これをボクスターでは量産採用したことは、実は大変な事だった訳だ。そして、一足遅れで発売された911(996)も同様のキャリパーが採用されたことで、ポルシェのブレーキは益々他社の追従を許さない状態となった。

それに対して86のブレーキは極々普通の片押しキャリパーだが、フロントには2ピストンのタイプを装着している。2ピストンにした場合はピストンでパッドを押したときの圧力分布が1ピストンよりも平均化するなどのメリットがあるが、どうしてもキャリパーのボディが大きく重くなる傾向にある。2ピストンの主な用途は1ピストンでは大きくなりすぎるトラックなどで使われてるが、86程度の軽量車両では珍しい。しかし、86のコンセプトモデルが発表された時には、ホイールの隙間から覗くOPZキュリパーらしきものがハッキリと見えていて、そうか、86はOPZを使うんだ、とトヨタの本気度を感じたのだが、いざ発売となったら残念ながらOPZでは無かった。

ブレーキの話が出たところで、86&BRZのグレードに対してのブレーキとパッドの組み合わせの調査結果をお披露目しよう。 ただし、正式な発表を元にした訳では無いので間違いがあるかもしれないし、途中でラインチェンジもあるかもしれず、あくまで参考としてもらいたい。

スバルは以前、日産の傘下であったことから、ある時期からスバルのキャリパーの多くが日産系の日立金属やトキコ製となって、今でもその傾向が続いている。 すなわち、キャリパーが前後とも日立製というのはスバルの方式であり、スバルが開発の主導権を握っていたことになる。 パッドについてはフロントの多くが曙製で、一部のトップモデルのみに86はアドヴィックス製、BRZはユーリッド製を採用している。 86の資料によると、86用のスポーツパッド開発に大変な苦労をして、諦めかけたが何とか間に合って採用できた、ということが書いてある。 因みに、他車の純正に準じたスポーツパッド、すなわちマ○ダスピード、ラ○ーアート、む○んなどのスペシャルパッドの部類の多くは曙のOEM供給品だから、86もこの手のパッドを採用した方が早かったのだが、トヨタとしては系列のアドヴィックスに特別なパッドを開発させたかったのだろう。

スバルがスポーツ系に採用しているユーリッドはドイツの摩擦材専門メーカーで、スバルではSTIなどの特殊なスポーツタイプ用として以前から採用されていた。 そして、ユーリッド製スポーツパッドは、ポルシェが純正採用しているもので、そういえばBRZ Sを試乗した時に、そのブレーキフィーリングがポルシェに似ていると感じたが、何の事は無い同じ系統のパッドだった訳だ

それにしてもスバルの立場も尊重し、それぞれの系列の部品メーカーと、更に独立系の顔も立てた采配は流石にトヨタで、会社員でいえば技術力では全く駄目だけれど、他部署との根回しと調整は抜群で、同期の出世頭というところだろう。 これに対してスバルは技術力は申し分ないのだが、他部署との駆け引きや根回しは全くダメ。結局、出世街道から外れて、本人は技術一筋とばかりにいい年して自分でCADなんか弄って図面を書いている、というタイプかな。

ここまで、991と86を比較してみたが、流石に991、それも1,500万円もするカレラSとトップモデルでも300万円強の86を比べるのは、やはり無理があった。そこで、もう少し現実的に考えてボクスターと86の比較をしてみることにする。とはいえ、ボクスターだって新車で買えば86の倍以上だし、2ペダルはカレラと同じPDKだから、比較する前から勝負はついている。そこで発想を変えて、ボクスターは先代987の前期型とすればミッションはトルコンタイプの5速であり、価格も中古市場では300万円くらいだから、86と比較というのは現実的な案だろう。先ずはスペックの比較から。

表を見れば判るように、987Phase1(ボクスター前期型、以下Ph1)の動力性能はATの場合0〜100km/hが7.1秒と、86(MT)の6.8秒より僅かに劣るくらいだから、ほぼ同等と考えてよい。言い換えれば、86はMTならば987Ph1のATと同等か僅かに速いことになるが、これがAT同士やMT同士だと987Ph1がワンランク上となる。それで実際のフル加速時のエンジン音はといえば、流石に987Ph1のポルシェサウンドには敵わない。とはいえ、BRZ Sだったら、結句良い音をしていたから、直接の比較さえしなければドライバーは充分に満足出来るに違いない。

そして、ハンドリングはといえば、これは比較が難しいが、強いて言えば987Ph1はエンジンがリアミッドシップに搭載されているから、991程ではないにしてもリアヘビーであり、どうしてもフロントのグリップが不足気味なる。そのために、コーナー入口で確実にフロントに荷重移動させるために減速させて慣性によりフロント軸重をアップさせてタイヤをグリップさせる必要があり、やり方次第ではアンダーが強めで、なんだこりゃということになる。それに比べればフロントエンジンの86はもっと素直で乗りやすいが、絶対的なコーナーリング速度でいえば、う〜ん、ボクスターの方が速いような気がするが・・・・。

さて、ボクスターの中古と86の新車のどちらかを選ぶ場合、ボクスターは当然ながら中古車のリスクなどを考える必要があるが、それ以前に2人乗りであることが、実用上の大きな足枷となる。勿論86だって事実上の2人乗りで、リアシートは子供用か荷物スペースだが、それがあることで実用性は大いに増すし、家族を説得するネタになるかもしれない。 そして、86の場合は妙に高級感などを求めずに寧ろプラスチック丸出しのチープな内装とファブリックのシートで、走り自体を堪能するという手もあるのではないか。豪華な内装なんて言うのは慣れてしまえば感動も何もなくなってしまうし、逆にチープな内装だって慣れれば気にならなくなる。そういう訳で、86というのは見栄を張れない代わりに、乗っている本人が楽しければそれで良いという、何とも健全なクルマだったりする。 しかし、実際にはクルマ好きから見れば、絶対に買いたく無いクルマの代表であるミニバンは、子供が小学生くらいまでの家庭では絶対の必需品であり、この時期はクルマ好きのオトウサンでも妥協してミニバン購入となる場合が多い。

おっと、いかんいかん。折角マニア向けのネタなのに最後の結論で台無しにしてしまった。

これ以上脱線しないように、今回はここまで。