BMW 328i 特別編
BMW 328i vs Subaru Legacy B4 2.5GT その2

次に、エンジンルームを見てみよう。ボンネットを開けると2車ともダンパーで保持されているから手を離してもそのまま開いている 。国産車の場合は、結構手抜きしていて、重いボンネットを押さえながらチャチなロッドをよっこらしょと立てるという、もうこれはユーザーがエンジンルームを点検することが無いと見切っているかのようなクルマが多いが、 この点ではレガシィは立派だ。
ただし、右の写真でも判るように、レガシィのダンパーは細くてストロークが長く、これ で支点から300mmくらいという遠い場所を持ち上げている。これに対して3シリーズは支点から100mmくらいの近い位置を支えていて、その分ダンパーは太いがストロークは短い。



エンジンはどちらもターボで過給されているが、排気量は328iが2.0Lで245psに対して、レガシィ GTは2.5Lで285psあり、排気量1L当りに換算するとそれぞれ122.5PS/Lと114ps/Lとなり、328iの方が幾分ともハイチューニングとなっている。シリンダー数はどちらも4気筒ではあるが、328iの直列に対して、レガシィは スバルの特徴である水平対向を採用している。ご承知のように水平対向エンジンを量産しているのはスバルとポルシェくらいなもので、しかもポルシェは生産台数の少ない特殊なクルマを専門としているメーカーだから、本当の意味での水平対向エンジンの量産はスバルのみと言っても過言ではない。

それでは水平対向エンジンのメリットはといえば、先ずは低い全高による低い重心ということになる。ここでスバルにイチャモンを付ける気は無いが、スバリストが絶賛しているほどに低重心なのだろうか?いや、直列やV型エンジンに比べて確かに重心は低いだろう。しかし、スバルのエンジンはシリンダーブロックの底面にオイルパンを持っているから、クランクシャフトの中心は思った程低くない。まあ、オイルパン以外にも排気管を下に出す為に、あまり低く搭載すると排気管の取り回しが出来なくなってしまう、ということもある。更には、水平対向というのはストロークを長くするとエンジンの 全幅も広くなってしまい、車両に搭載できなかったり、ステアリングの角度に制限が出来たりの問題もあるから、如何してもショートストロークとなってしまう。

それではボルシェはどうなのかといえば、重心についてはオイルパンがなく、エンジンオイルはリザーバータンクからポンプで循環させるドライサンプ方式を採用している。この方式は循環するオイルラインにラジエターを付けたりして直接オイルを冷却している。なお、997/987については、単独のラジエターではなくエンジンの冷却水を使った水冷式となっているが、何れにしてもオイルの温度が安定しているし、オイルパン内で遠心力によりオイルが不均等になることも無いなどメリットは多いが、問題はコストが高すぎて普通のクルマには使用できない。実際に市販車でドライサンプ方式を採用しているのは極まれな例となっている。そして、ストロークについては、ポルシェの場合はエンジンの搭載位置がリアもしくはリアミッドシップであり、操舵輪でないために幅一杯に使えることと 、クルマ自体の設計がフロントに比べてリアが大きく張り出していることによる十分なリアトレッドなど、水平対向エンジンの為に最適化されたような車両の基本設計となっているなど、同じ水平対向とはいえ、ちょいと次元が違うのだが、まあ この話はまた別の機会にしよう。

話を328i対レガシィB5に戻すと、BMWの新しい4気筒2Lターボエンジンは、試乗記本編で述べたように現在184psと245psの2つのチューニングがあり、328iの場合は245psとなっていて、動力性能は0〜100km/hが5.9秒という、スポーツセダンとして文句なしの性能を誇っている。これに対してレガシィの場合はパワーは285psと勝るものの 、車両重量の重さからパワーウェイトレシオは同等となり、さらに4WDというハンディもあり、加速自体の実感からすると328iほどは速くないように感じる。また、328iがターボラグを全く感じさせないのは電子制御により立ち上がりを急激な特性にし て体感上のレスポンスを上げているからのようだ。これに対してスバルのターボエンジンは従来からターボラグ自体は決して少なくないのだが、フルストットルを踏んだ瞬間からヒューンというタービンの音と共に立ち 上がっていくフィーリングが何やらターボジェットのようで、これにボロボロという水平対向の排気音が混ざって独特のフィーリングを提供している。ただし、このフィーリングも年々穏やかになってきたのは、ある面寂しい気がする。

という訳で、両車は全く異なるフィーリングを持っているが、どちらもそれなりに納得できるものがあるから、結局はユーザーの好みとなる、という何となく当たり前で、ちょいと無責任な結果になってしまったが、レガシィGT は世界的に見ても4気筒ターボの老舗中の老舗だから、流石のBMWも完全に突き放す事は出来なかったということだろうか。
 

話をインテリアに戻して、両車のメーターを比べてみる。先ずは両車のメーターの配置を見ると、偶然かもしれないがセンターは2つの大径メーターで速度計と回転計であり、その左右にそれぞれ小径のメーターが配置されている。ただし、国産車のレガシィは例によって速度計のフルスケール(FS)は100km/hとなってい て何とも白けるが、極最近はBRZのようにFS260km/hという例も出てきたので、今後は変わってくるだろう。それに先代までは例の自光式メーターだったレガシィだが、現行車は真っ当なメーターが付いている。これに対して328iは最近のBMWやメルセデスが採用し始めたオンボードコンピューターの表示にカラー液晶ディスプレイを使用することで、シンボルマークではなくクルマそのものの画像を表示したりという方向に向かっている。しかし、このタイプの表示は元々レクサスLS辺りが始めた筈で、しかも自動車用の小型TFTディスプレイは日本のある中堅企業が独占しているようなので、近い将来には国産車も恐らくこのタイプを使用するだろう。



ATミッションは328iがトルコンタイプの8速であり、コンソール上のATセレクターは最新の電子式を採用している。これに対してレガシィB4はトルコンタイプの5速と、ちょいと時代の先端からは遅れているが、それでも以前は4速だったのだから、レガシィとしては進歩した訳だ。そしてATセレクターは、これまたチョイと時代遅れとなりつつあるティプトロタイプが採用されている。このセレクターのベースプレートなどを見ると、ヘアラインにシルバーメッキで、質感自体は決して悪くは無いのだが、センタークラスターのオーディオパネルや、カーボン風のインテリアトリム同様、折角の高品質をセンスの悪さで台無しにしている。まあ、これがレガシィ、というよりもスバルの特徴とも考えられるが。


 

標準装着タイヤはレガシィB4 GTの225/70R17に対して328iはワンサイズ扁平な225/45R18をフェンダーからはみ出しそうなくらいにギリギリ、要するに通称”面位置(ツライチ)”になっている。乗り 味はレガシィが実にしっかり、しなやかという乗り心地の良さと安定性を両立している。レガシィは国産車としては特にこの辺を重視していて、二世代前に一世を風靡したレガシィGT-Bのように高価なビルシュタイン製のダンパーを装着していたりと、サスペンションには中々の拘りを持っている。当時は右の写真のエンブレムを付けたツーリングワゴンを街中で頻繁に目撃したものだった。

これに対してBMWも当然ながら乗り心地と安定性を両立しているが、先代3シリーズ(E90)から全モデル(Mは除く)にRFT(ランフラットタイヤ)を標準装備するという大英断を実行している。最初は如何しても固さが出てしまい、E46時代のしなやかさを失ってしまったが、その後RFTも改良され ると共にサスペンションでの適合技術も進歩したことから、今では殆ど問題にならなくなった。ただし、今回の328iのセッティングは随分と固くて良くいえば相当にスポーティーなセッティングとなっていた。

ハンドリングについては、328iの場合は世界中のセダンが目標としているスポーツセダンのベンチマークである3シリーズ、それもラインナップ中では中クラスの性能を持つ車種だし、今回の新型(F30)は取り分けスポーティーに振っているから、下手 なスポーツカーより上手で、BMW独特のニュートラル感覚がE46以来戻ってきたくらいに出来が良い。これに対してレガシィB4も当然ながら国産車としてはダントツのコーナーリング性能ではあるが、4WDという性格上からFRの3シリーズのようなニュートラル感は無いし、BMWのポリシーである50:50の静的重量配分と違い、一般的なフロントヘビーとなっている。これは、エンジンルームの写真を見れば判るように、エンジンの搭載位置が3シリーズは目一杯後方に積まれているのに対して、レガシィはフ ロントオーバーハングにブラ下がっていることでも判るだろう。



ガシィのフロントはブレーキキャリパーが鋳物の片押しタイプとはいえ、2つのピストンを持つ2ポットタイプを搭載している。これは初代レガシィから引き続いているもので、本来はニッサン・テラノやミツビシ・パジェロなどの総重量2.5トン級のオフロード車(SUVというものが無い当時のもの)用のキャリパーをDセグメントのセダン&ワゴンであるレガシィに搭載するという、容量的には実に余裕の設計が成されていた。これに対して328iは、欧州でメジャーなコンチネンタル製のキャリパーで、これも鋳物の片押しタイプとなっている。上の写真で両車を比べるとレガシィに比べて328iのフロントキャリパーが小さのは、BMWのポリシーである50:50の重量配分という他車に比べてフロントが軽いことにより、その分だけフロントのブレーキ負荷も軽い為に、相対的にフロントのブレーキ容量を小さく出来るという大きなメリットがあるためだ。

それで、実際の効きはどうかといえば、328iは例によってBMW独特の軽くて喰いつくような効きに対して、レガシィはもう少しマイルドだが、進歩の著しい最近の国産車の ブレーキの例に漏れず、通常の使用では全く問題は無い。実はブレーキの効き味というのは、その殆どをブレーキパッドの特性で決まるといっても過言ではない。BMWに共通する喰いつくような効きの良さは、欧州系で主流のセミメタ ルもしくはロースチールと呼ばれているスチールファイバーを配合したパッド材が原因だが、ご承知のようにこのタイプは猛烈にホイールが汚れるから、一般的な国産車ユーザーには耐えられないかもしれない。これに対して国産車の主流はケブラーに代表されるアラミド繊維を使用していて、スチール系に比べて効きがマイルドとなっているが、最近は欧州車的に摩擦係数(μ)の高いものが主流になってきたので、以前ほど日欧の差はなくなってきた。



以上、各部を比べてみたが、一言でいえば世界の標準であるBMWの、そのまた最新モデルであるF30に対して、モデルライフとしは既に後半というか末期というか、そんなレガシィと対決させるのも無理があるし、何より、いくらBMWの日本国内価格はボッタクリだといっても、価格的に2倍もあるのだから真っ向勝負では簡単に勝敗がついてもおかしくはない。それでも、ある面では良い勝負どころが、見方によっては勝っている部分もありそうなレガシィだが、こちらも価格的にはナビをつければ350万円に迫ってしまう。いつの間にか価格がアップしている国産車ではあるが、それでも350万円超というのは特にクルマへの予算配分が多いファミリー、いわゆるクルマエンゲル係数の高い家庭でないと中々予算がおりないのも、また事実だ。そこで、この特別編の最初の部分にある一覧表を思い出すと、右端にあるツーリングワゴン2.5iならばGTよりも 80万円も安いから、特に強力なパワーを要求しなければこれで充分というユーザーもいるだろう。

ところで、BMWですら長年拘ってきた直列6気筒をあっさりと捨てて、小排気量ターボへと方向転換してしまう欧州の流れに対して、世間では日本は遅れてしまったという認識が多いようだが、スバルなんてずーと前から2Lターボを作り続けてきた訳で、いってみれば何時の間に か時代のトレンドになっていたわけだ。ただし、スバルに限らず日本車のターボというのはパワー命で燃費は寧ろ悪いという認識だった。実際に10-15モードでも328iの15.6km/Lに対してB4 2.5GTは12.0km/Lと30%も悪いし、一般に国産車の10-15モードは非現実的な好結果が表示されているに対して、欧州車は現実的な値となっているか ら、実走行では更に差が付くだろう。とはいえ、ターボ技術自体は充分なものを持っているのだから、何とかこの分野でも頑張って欲しいものだ。

今回の特別編は毒舌は殆どなくて、何やらマジな内容になってしまったが、元々特別編の毒舌というのはこのサイトのポリシーに合わない読者を排除するのが目的 の言い訳だから、 今回はこれで勘弁してもらおう。最後に比較用として関連する試乗記のリンクを張っておく。
 



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