BMW 116i Sport (2011/11) 後編


今回のハイライトととして、116iと120iが全く同じエンジンを搭載していて、116iは制御で最大トルクを低く押さえている だけということを、ここで少し検証してみる。先ずは現物を比べてみると、写真21のように両車は外見上では全く変らない。 そこで今度は机上検討として120iのエンジン特性図に116iの仕様である最大トルク220Nm/1,350〜4,300rpmに赤い水平線を引いてみた。次に最高出力である100kW/4,400〜
6,450rpmに同じく赤い水平線を引く。次に最大トルクの上限回転数である4,300rpmから先は下降線になるので、ここはフィーリングで引いてあるから正しいかどうかは判らない。出力は最大トルクに達するまでは120iと同一トルクと仮定して、そこから100kW/4,400rpmに向けて直線で結ぶ、という方法で作ってみたのが下の図だ。まあ、自動車工学を振り回すのが好きなアカデミック派は、色々言いたいこともあるだろうが、それ程大きな間違いは無いだろう。

  
要するに116iと120iの最大トルクは、それぞれ220および250Nmだから116iは88%しかトルクが出ない、というか約90%のトルクがあるということだから、フルスロットル時の最後の12%が出ないだけということになる。特性図を作ったことろで試乗 時のフィーリングに話を戻すと、実際にフルスロットルを踏んでみた結果は、やはり120iに比べて勢いが無く、その違いは 体感的には10%減というよりももっと落ちているように感じる。とはいっても、普通に大人しく走るドライバーには両車の違いは事実上無いといっても嘘ではない。

それでは、もう少し具体的に状況を説明しよう。まずは公道に出て軽く加速してみると、120iと殆ど変ららないという印象だった。 そりゃそうで、220Nmの最大トルク以下で使う分には、120iと同じなわけだから、変らなくても驚くことではない。116iにも 120iと同様にドライビング・パフォーマンス・コントロールと呼ぶ モード切替がついている。今まではデフォルトのCOMFORTで走ってみたが、今度はSPORTに切り替えてみる。すると、これが嘘のように機敏になる。勿論120iでも同様だったのだが、116iではより顕著に違いを感じたのは、もしかすると最大トルクを絞った分だけ、試乗したユーザーがより深くアクセルを踏んだために、学習機能がよりスポーティーな特性を選んでいたのではないか、というの は単なる想像だが、とに角これなら相当の走り好きでも文句は言わないだろう、というくらいに気持ち良く反応する。

次に人通りが無くて見通しの良い長い直線のある広い畦道に行って、フルスロットルを何度か試してみる。 殆ど交通がないから舗装も痛んでいないし、制限速度の標識も立ってない(すなわち法定速度だから60km/hは合法)し、勿論センターラインすら無い。さて、ここでフルスロットルの加速にトライすると、やはり120iに比べて勢いが無く、その違いは 前述のように10%減というよりももっと落ちているようにさえ感じる。 しかし、エンジンは4気筒とは思えないほどに滑らかで、しかも全くストレス無く6,000rpmまで吹け上がって2速にシフトアップした。このイマイチの加速性能は逆に言えば公道でも安全に (しかも合法的に)目一杯の動力性能を使うチャンスが多々あるわけだし、加速自体はイマイチなのに実に軽快で楽しい。

前述のように極めて満足なレスポンスの得られるSPORTモードにして、空いた道を走ると自然にスロットルペダルを深く踏んでしまうが、右足に直ぐに反応してトルクが出るのは実に気持ちが良 く、ついつい癖になりそうだ。なお前回120iの試乗で試したら、とてもではないが使う気になれなかったECO PROモードについては、今回は初めから使わなかった。 ところで、エコといわれて思い出したのは中央右のメーター内の下部に組み込まれていた筈の燃費計が見当たらない。実は、あれは前編で紹介したようにナビ装着車のみでナビ をオプション装着していない試乗車には付いていのだった。それで、何が不足かといえば・・・・・何も無い。大体において、運転中に燃費計を睨みながら運転するドライバーなんている訳が無く、あれは単なるパフォーマンスと思えば、無くても全く不自由は無い。
 


写真 21
こうして見比べても両車の違いは全く区別できない。


写真22
ギャレット製のターボユニットも見る限りでは全く同じ。
 

駐車場から公道に出る際に左にフルステアした時の第一印象は120iに比べて多少操舵力が大きいことだった。とはいえ、先代1シリーズ程には重くはないから、非力な女性でも大きな問題はないだろうが、120iのように片手でクルクルと回ってしまう程ではない。 両車のステアリング系の違いは前編で述べたように、120iにはサーボトロニック(車速感応式パワーステアリング)が標準装着されていることで、120iが極低速で極めて 操舵力が軽いのは、これが原因のようだ。50km/h前後で巡航中の116iのステアリングは結構クイックでスポーティーな設定で、基本的には120iと大きく変りは無いように感じた。 ただし、充分すぎるステアリングインフォメーションを感じた120iに対して、今回の116iは、その面ではチョッと劣るというか、路面情報が手によるように伝わるという程でも 無いように感じた。両車の違いは、前述のサーボトロニック以外にタイヤサイズが異なることで、120iの225/45R17に対し今回試乗した116iは205/55R16 とハイトが高いことが最大の原因だろうか。

120iではとって置きのハンドリングコースを走ってみたが、今回は試乗コースが異なるために同じ条件での比較はできなかったが、極力似たようなコーナーがあるコースを走ってみた。 なお、操舵性の確認は全てドライビング・パフォーマンス・コントロールはSPORTを選択した。最初はセレクターはDのままで、少し速い程度で素直に中速コーナーに進入してみると、120i同様に実にニュートラルな特性で旋回していく。そこで、徐々に速度を上げていくが全く余裕でコーナーリングするのは120iと変らない。そこで、今度はATセレクターをMにしてマニュアル操作することにする。 116iには変速のためのパドルなどのステアリングスイッチは付いていないので、フロア上のATセレクターをシフトレバーとして使うしかないが、引いてアップ、押してダウンという方式なので人間が感じる加速度の方向と合っていて使い易い。今現在、ATのマニュアル操作には引いてアップと引いてダウンという全く逆の方法がメーカーや車種により混在しているが、これは早急に統一するべきで、もちろん引いてアップを採用するのが自然だ。 なお、レーシング用のシーケンシャル方式のドッグミッションも引いてアップとなっている。

今度は少しRのきついコーナーを試してみよう。MTモードで4速で直線走行からコーナーで前でブレーキングと共にシフトレバーを押すと、トルコンATとしては極めてレスポンス良く3速にシフトダウンが起こる。5シリーズと共通と思われる最新の8速ATという実に贅沢というか見分不相応というか、そんな立派なミッションを搭載しているのは伊達ではないと関心する瞬間だ。これに比べれば国産のCVTなんて、ゴ ミ・・・・・おっと、止めておこう。3速でコーナーリング中にステアリングを細かく動かしてラインを修正してみたら、その度にクルマはピクッ 、ピクッと実に敏感に反応する。 この面においては先日の120iにも勝っているかもしれない。120iとの差は、タイヤが少し細くてハイトが高いのと、ステアリング系の速度感応式のパワステが付いていない点だが、それらが良い方向に作用したようだ。先代(E87)の場合は排気量が1.6Lの116iはエンジンの重量が軽い分だけ2Lの120iよりフロントも軽いから、操舵性が軽快になって当然だったのだが、今回は事実上同じエンジンで、重量も装備の違い程度で事実上は同じだから、軽快な操舵性は重量差ではないことは明白だ。
 


写真23-1
116i SportのタイヤサイズはStandardと同じ205/55R16だが、ホイールが異なる。
 

 


写真23-2
120i SportのタイヤサイズはStandardよりも大きな225/45R17が装着されている。
 

 


写真23-3
116i StyleもタイヤサイズはStandardやSportと同じでホイールのデザインが異なる。
 

 


写真23-4
サイズは120i Sportと同じ225/45R17で、ホイールデザインのみが異なる。
 

 

116iでのワインディング路の走行は正にライトウェイトスポーツカー的と言っても嘘ではないくらいに軽快で、絶対的なパワーが不足気味というハンディーは殆ど感じなかった。ここで、不思議なのはマツダロードスターのように 1,100kg級の軽量ボディならばともかく、116iは車両重量が1,400kgと水平対向6気筒2.9Lを搭載するケイマンの1,380kgと比べても決して軽くは無い。それなのに116iは軽量スポーツカー的なコーナーリングであるのに対して、ケイマンはもっと重厚なのは何故なのだろか。 しかも、ケイマンは旋回方向のモーメントが極めて小さいミッドエンジンなのに。というと、ケイマンの旋回特性が緩慢のように誤解されそうだが、いやいや、流石に 次元が違う操舵性なのだが、普通に走ったのでは意外にもアンダーステアを感じたりするのはミッドエンジン独特の危険な挙動を出さないためだろう。

ブレーキについては、120iと同様にBMWらしく極めて軽い踏力で喰いつくように効くタイプだ。そこで、120iのキャリパーと比べてみたら、全く同じモノが装着されていた。そして、これは想像だが、足回りについても116iと120iとは全く同様ではないか。ということは、両車の最大の違いは益々エンジンの制御プログラム(データー)のみではないか、と確信してしまう。
 


写真24-1
フロントキャリパーは全く同じ。
 

 


写真24-2
リアキャリパーも全く同じ。
 

 

116iの結果は想像したとおりで、フルスロットルを踏まない限りは基本的に同じクルマだったから、大人しい運転をするドライバーなら116iで充分ということになる。 実は欧州では120iではなく、118iと呼ばれているのだ。何しろ、装備が多少違うとは言え、その価格差は69万円という、アルトのベースモデル (VP:67.9万円)が買える金額だ。そして、これだけ軽快なライトウェイトスポーツカー的な特性をより生かすには、6MTの設定が是非とも欲しい。そうすれば価格的にも300万円以下の設定が可能だろう。 更に望みたいのは120iのチューンをして装備は116iとし、ミッションは当然MTというマニア専用モデルがあっても良いのではないか。価格的には特別有利な設定、 できれば300万円チョいくらいなら、無理をしてでも買いたいというマニア層は多いのではないだろうか。それで、利益が出ない分は 、1シリーズをヴィトンのバックの同類として購入するオバちゃん辺りから、タップリとボッタクる、ということで一件落着!