BMW 535i GRAN TURISMO (2010/7) 後編

それでは、いよいよ走り出す事にしよう。

駐車場の出口で一時停車をして、本線の流れが切れるのをジッと待つこと2分程でやっとクルマの流れが途絶えたので、ステアリングを左に切りながらユックリ本線へと進入する。クルマが直進した状態でハーフスロットルを踏むと、その瞬間に、このクルマが高級車独特の静かで滑らから加速をすることを感じる。 良いクルマは10mは知れば判るといわれているが、この535iGT は7シリーズベースということだから、乗った瞬間にセダンの535iとの違いをハッキリ感じる・・・・と、期待をしたが、それ程でもない。ここから15分ほどは4車線(一部は6車線)の国道バイパスを流れに乗って走行しながら、前が空けば加速してみたり していると、535iGTの動力性能は流れに乗ったり、追いついたりするには充分過ぎることがわかる。 今度は1,500rpm程度の巡航からフルスロットルを踏んでみると、8ATは一瞬遅れてからシフトダウンして2,500rpm程度から加速を始めるなど、キックダウンのレスポンスもまあまあだ。これは学習機能に もう少し過激なパターンを覚えさせるなど、オーナーが調教すれば1週間もしないうちに、更に反応良くシフトダウンするだろう。 実際にサーキットで半日のスポーツ走行をやったら、その後は最も過激なパターンが記憶されてしまい、劇早レスでガツンとシフトダウンするという、本当にレーシングモードになってしまったという実例もある。

流れの速い国道を巡航するには、充分なシフトレスポンスや加速性能があることも判り、少し冷静になったところでよーく観察してみると、セダンの535iに比べるとフル加速などではちょっと負ける ような気がしてきた。セダンはもっと強力な加速をした筈だ 、と思い試乗を終わってから確認したら、セダン535iの重量は1,820kgに対して、GTは2,020kgと、何と200kgも重かった。 これが740iの場合には、同じ3リッターターボでも5シリーズ(GTも同一)の306ps、40.8kgmに対して326ps、45.9kgm とさらに強力で、車輌重量も1,980kgとGTよりも40kg軽いために、あの巨体を考えれば驚異的な動力性能とレスポンスを感じる性能 を発揮する訳で、結局巨体の740iに比べてもGTの動力性能は残念ながら劣っている。 ただし、これは非常に厳しい目で見た場合だから、535iGTは世間の標準からすれば充分に高性能車ではある。

操舵力はかなり軽い部類で、取り分け低速では軽くてヤタラとレスポンスが良い。535iGTはアクティブステアリングが標準装備されている。この装置は先代5シリーズ(E60)に初めて搭載された当時は異様に軽くてクイックだったが、時と共にマイルドというか違和感がなくなってきた。ところが、535iGTの場合は多少昔に戻ってしまったような感覚が蘇ってきた。 慣れれば問題無いのだろうが、久々に違和感を感じてしまった。そして、速度を上げていって70km/h程度の流れに乗る巡航では多少操舵力がアップしてきたのと、レスポンスというか、操舵角と挙動の関係 も多少マイルドになってきた。とはいっても、世間一般の感覚からは違和感はあるし、巡航中も常に微妙に舵の修正が必要となる。 グランツリスモというからには、長距離の高速巡航が得意の筈だが、それにしては直進性が悪いと 感じる。ただし、これに乗って、流石はBMWだ、と思うユーザーもいるに違いない。

今回はいつも御馴染みのワインディング路を走ってみた。ここは先月、528iを走らせて、そのハイレベルなコーナーリング性能に感心した場所で、ポルシェカレラSを初め、ケイマン やパナメーラも試しているので、横並びの比較が出来て好都合だ。ATセレクターは前回(528i)の経験から スポーツモード(Ds)とし、先ずは常識的な速度から始めてみる。 この程度の速度では大柄で重いボディにも係わらず安定したコーナーリングで、全く余裕だった。そして徐々に速度を上げていくのだが、それに連れて528iでは感じなかったボディの歪感やサスの微妙な変形というか、まあ何となくそんな雰囲気が伝わってきて、最終的に528iのレベルまでのコーナーリング速度のアップは出来なかった。 この時のアクティブステアリング自体は、クイックな特性から手首の微妙な操作のみでコーナーをクリアできる点では極めてスポーティーなのだが、やはり人口的な味付けが目立ってしまい、528iの自然なフィーリングとは、これまた差 が付いてしまった。 考えてみれば車重は200kgも重いし、重心は高いし、ボディのドンガラはデカくてリアにはハッチの大穴が開いているなど、剛性確保やコーナリング特性という面では大きなハンディを負っているGTだから、ある面仕方ないのかもしれない 。それでもBMW5シリーズの仲間ということを考えたら、 「これだけのハンディを負いながらサルーン並みのコーナーリング性能というのは流石にBMWだ」 と唸らせるような性能を見せ付けてもらいたかったが、これは望みすぎだろうか?
因みに全く同じコースでテストした同じくハッチバック5ドアセダンであるポルシェパナメーラSはといえば、535iGTどころか528iサルーンも遠くおよばない見事な特性を堪能させてくれた。ただし、パナメーラSは528iのように誰が乗っても速いという訳ではないのも、ポルシェそのものだった。まあ、価格的に5割以上高価なパナメーラと横並びに比較するのも問題はあるが・・・・。
 


写真19
7シリーズとデザインの似ているメーター類。それでも燃費計などはデジタルLED式となっている。


写真20
イグニッションスイッチはお馴染みのスタート/ストップボタンによる。

 


写真 22
ライトスイッチはBMW前車で同じ形式だが、スイッチの光り物が多少異なる。

 

535iGTの乗り心地は2トン級のボディのメリットか、非常に重厚に感じる。GTはプラットフォームも7シリーズ系のものを流用している事からも、5シリーズよりは高級感があるのだが、飛び出したマンホールや大き目の段差などのチョッと入力の大きい状態になると、なにやらフロントの足回り付近から、ビビリ音のような低級なノイズが聞こえてしまう。 試乗中にこのような場面は何度もあり、その度に確実にビビり音は発生していた。新しい3シリーズの乗り味は実にしなやかで、RFT(ランフラットタイヤ)のデメリットをほぼ押さえ込んだようだが、535iGTは未だRFTの悪癖を背負っているようだ。そして、コーナーリングの時も述べたが、どうもボディ自体の剛性もそれ程高くはないような気がする 。

ホイールから覗くブレーキキャリパーは、目で見る限りでは535iセダンよりワンランク容量の大きい、740iと同じタイプのキャリパーが装着されていた。理由として考えられるのは重量的にセダンよりも200kgも重いからブレーキ容量も2t級の物が必要だ 、という事で、これは理に適っている。ただし、ブレーキフィーリングについては5シリーズと全く同じ だった。なお、528iのキャリパーは3シリーズの上級グレードと同じタイプで、535iに比べればワンランク落ちるモノが付いてい たから、GTに比べると528iは2ランク落ちのブレーキとなる。BMWのブレーキといえば極めて踏力の軽いことが特徴だが、ごく最近マイナーチェンジされた3シリーズや、全く新しいX1では以前ほどの軽さではなくなった 。しかし5シリーズはサルーンもグランツリスモも従来の極端に軽いタイプを踏襲しているようだ。
 

写真 23-1
直6、3ℓ ターボにより306ps/5,800
rpmの最高出力と 40.8kg・m/5,000rpmの最大トルクを発生する。

 


写真 23-2
GRAN TURISMOと全く同じセダンのエンジン。


写真 23-3
排気量は同じながら、外観的にも少し違うし性能的にも勝る740iのエンジンは 326ps/5,800rpmの最高出力と 45.9kg・m/4,500rpmの最大トルクを発生する。
 


写真24
セダンとはホイールの形状が異なるが、245/45R18というタイヤサイズは同一となっている 。

 


写真25
GRAN TURISMOのキャリパー&ローターは740iと共通で、セダンはワンサイズ小さいブレーキとなる。これは、重量の違いだろう。

 


写真26
着座位置はセダンより高いが、セダンのようにボンネットが視認できない。

   


写真27
ルームミラーに映る後方視界は、クーペ的なリアウィンドウの為に狭く見難い。白いオートバイが簡単に死角に入りそうだ。

   

535iGTの価格は878万円で、535iセダンは835万円と、その差は43万円。試乗前には7シリーズベースのGTがたった43万円 追加するだけで買えるのだから、 多少のブタ顔と胴長を我慢すれば、これは買い得だと思っていたが、実際に乗ってみれば総合的にはセダンの方が出来が良いと感じてしまった。確かに内装の高級感や静かな走行感覚など良い面もあるが、200kgも重いボディにも関わらす、剛性感でも劣るし、当然動力性能だってイマイチで、しかもハンドリングはまるでセダンに敵わない。 という訳で個人的な感想としては、高級感を求めるのなら132万円を追加して、1,010万円也の740iを買う 方が正解のような気がする。はぁっ?お前が7シリーズ買える訳無いだろ言う!って、確かにその通り。

まあ、結果的に今回のグランツリスモというモデルは結構ボロクソの評価となってしまったが、これはあくまで個人の意見なので、既にこのクルマを買ってしまったオーナーはご自分の判断力を信じていればいいだろう。「B_Otaku の奴、何にも判っ ちゃいなんだなぁ。これだから貧乏人は困るよ」ということで・・・・。

ブス(ブ男)だけど性格が良さそうだから、まあ中味で勝負かな、と思って付き合ってみた彼女(彼氏)は、実は性格も大したことは無かった。なんていうのと同じようなもので、 期待していたのに・・・・・。
えっ?いつもの特別編は無いのかって??あれはですねぇ、気持ちが ノっている時じゃあないと発想が浮かばないんですよ。だから、今回は・・・・・無しっ!