Mercedes Benz E250 CGI BlueEFFICIENTCY (2009/12) 後編 ⇒前編

新型Eクラス独特のステアリングコラムから生えるATセレクターをDに入れようとしたが、あれっ?レバーが無い。と思ってセンターコンソールを見たらば、オーソドックスなシフトノブ型のセレクターが生えていた (写真13)。そう、このモデルは新型の7ATではなく、従来からの5ATの使い 回しだった。 ブレーキペダルに足を載せレバーを例のジグザグに従ってDまで入れて、パーキングの解除はダッシュボード右端のリリースレバーを引く。因みにパーキングブレーキのセットは左端のペダルで、国産車に多い解除もペダルを踏む方式にしてコストダウンしないのはメルセデスの良心だろうか。

走り出した瞬間から、何となくペダルを踏む右足とトルクの立ち上がりが一致しないことに一抹の不安を抱きながら、駐車場の段差を降りながら左一杯にステアリングを切る。段差を降りる時の挙動は、前回乗ったE300より明らかに硬いようで、E300が一瞬左右にグラッと傾いたのに対して、E250はBMWのような多少硬めの感じがする。 本線に入り加速をするが、やはりレスポンスが悪い。流れに乗って巡航中の回転数は1,500rpm以下で、殆どアイドリングに毛の生えたような低回転域を使うセッティングになっているようだ。右車線を巡航中に遅い前車が左折の為に左車線に入り、前方が開けたところでスロットルを踏むが直ぐにはキックダウンしない。 そこで、コノッ!という具合に踏み込むとやや遅れてシフトダウンが起こったようだが、今度はエンジンが吹き上がらない。そこで、更に踏んでみても反応が無いので、どうしたものかと考えていたら行き成り 急な加速を始めた。その後も同様な動作を繰り返し、要するにレスポンスの悪いドッカンターボもいいところだった。
反応にタイムラグがあるのはターボだから許すとしても、その遅れが今から立ち上がるという雰囲気をドライバーに伝えてくれれば良いのだが、E250CDI全く 前兆がなく、どうしちゃったんだろうと思っていると行き成り立ち上がる。例えばジャンボジェットでランディングから滑走路の定位置で止まり、機内アナウンスの後にヒューンという音がだんだんと盛り上がっていって、 遂にはゴーっという音も加わりいよいよという状態から巨体が動き始めて、その後強烈な加速感とともにぐんぐん速度が上がっている、あの感覚に近いものがあれば、タイムラグがあっても一向に構わない。聞くところによるとジャンボ機で離陸時にパイロットがスラストレバーをフルの位置まで押してから(クルマで言えばフルスロットルにしてから)フルパ ワーになるまでのタイムラグは何と4秒もあるということだが、 それでもその過程が乗客にさえ手に取るように判るから、パイロットにはもっとハッキリ認識できるのだろう。例えば、旧レガシィ(BH)GTは2ℓターボと4速ATだが、キックダウンをすると、決して迅速ではないATがシフトダウンするのがハッキリ判り、そこから微かにヒューンというターボ音が聞こえたと思ったら少し遅れてグイグイと加速が始まる。 言ってみればジャンボ機のような感覚をシッカリ持っているから、ターボラグがあっても気にならないどころか、それ自身が結構気持ち良く感じる。こういうフィーリングでは流石のメルセデスもスバルには敵わないようだ。特に4気筒のハイプレッシャーターボを量産する面では、スバルの方がはるかに経験がある。

スバルの事を思い浮かべてハタと閃いたのは、スバルに限らないが最近のターボ車は排ガスや燃費規制の関係でデフォルトモードがやけにトロイ場合が普通だったことだ。スバルならば”I”モードは使い物にならず、Sでマアマア、そしてS#で始めてハイパワースポーツサルーンらしいレスポンスになったし、ランエボ]も同様だった。そこで、E250にも何かあるに違いないと思い探してみれば、ATセレクターの手前に というスイッチがあった。 成ぁるほど、これをスポーツにすればいいのだ、と喜んでモードを変更して早速スロットルを踏んでみるが、トロいスロットルは ほとんど変わらない。変わったのは巡航時の回転数が多少上がったくらいだ。要するにこのスポーツモードは極端に低速側を使うATのシフトスケジュールが多少低めのギアをセレクトするだけで、それでも充分に低い回転域を常用するから、未だ低レスポンスの回転領域を使っている事になる。BMWでスポーツモードを選ぶとガンガンと回転数を上げて、3,000rpm程度で巡航するという、 まるで走り屋がMTのスポーツカーを走らせているような選択をするが、E250のスポーツモードはBMWのノーマルよりも大人しいくらいだ。このスポーツモードはATのシフトスケジュール が多少変わるのみで、トロいスロットル特性は ほとんど変わらないようだった。


写真12
メーターは基本的にE300と変わらない。回転計と同一寸法の時計があるのもEクラスの伝統どおりだ。

 

写真13
E300が ステアリングコラムにATセレクターを移動したのに対して、E250は旧来のフロアタイプを継承している。
はスポーツとコンフォートの切り替え。

メルセデスの操舵特性というのは元来安定志向でBMWのようにスポーティ嗜好で走るう喜びを追求するのとは対極を成していたが、それでもCクラスではライバルの3シリーズに 対抗して最近は結構クイックになってきた。 それではEクラスはといえば流石に5シリーズに対向することはないが、前回試乗した新型E300は穏やかなりにも決して緩慢ではなく、Eクラスらしいものだった。ところがE250 のステアリングは如何した事かE300とは比べ物にならないくらいにトロイ特性で、言ってみれば緩慢なエンジン特性にマッチしていると嫌味も言いたくなる。 ミッションがE300の最新7ATに対してE250は使い古しの5ATという違いは明らかだが、パワーステアリング系もE300とは違うのだろうか?そういえばE300にはダイレクトステアリング と呼ばれ、操舵角に対する可変レシオという、BMWのアクティブステアリングのような機構を装備していたが、E250には恐らく装着されていないのではないか?

ただし操舵系は緩慢ではあるが、コーナーリング自体は安定した弱アンダーで、普通のドライバーが一般道で頑張って飛ばした程度では全く破綻を見せない。前述したように駐車場から段差を超えて一般道に出るときの車体の挙動はE300より横揺れが少なかったし、走ってみても明らかにサスのセッティングは硬めだ。それでも決して不快な事はないが、 エンジンやステアリングの特性がE300に比べて贔屓目に言えば(かなり)マイルドなのに、乗り心地だけが硬いのはE250のポリシーが確立されていないように思えてしまう。

Eクラスのブレーキは先代W211でSBC(ブレーキバイワイヤ)のリコールから後期モデルでは以前のバキュームサーボ(一般的なブレーキシステム)の戻したという いわく因縁つきで、しかも後期モデルのブレーキフィーリングにはメルセデス伝統のガチッとしたフィーリングの欠片も無くなってしまった。そして新型(W212)E300では嬉しい事に以前のフィーリングに戻ってきたと前回の試乗記で記したが、今回のE250は一言で言えば一歩後退!W211後期のように最初に踏力の軽い遊びの ストロークが長く、言ってみれば並みの国産車のようなフィーリングで、「こんなのはメルセデスじゃあ無い」という奴だった。
 

写真14
直4、1.8ℓターボのエンジンは204ps/5,500rpmの最高出力と31.6kg・m/2,000〜4,300rpmの最大トルクを発生する。
 


写真15
写真14の⇒方向からみると、ターボユニットが見える。

 


写真16
メルセデスの伝統である取りまわしの良さは、狭い道でも大きなボディを感じさせない。

 


写真17
ベースモデルは前後共225/55R16という大人しいタイヤが標準となる。

 


写真18
キャリパーはE300と共通のようだ。ホイールが小さい分 隙間は最小となっている。

 

E250をスペック上で見ればE300とは大きく変わらないし、エンジンの最大トルクにおいては上回っている。ところが乗ってみれば、その差は歴然としていた。 前回のE300が久々に目から鱗だったのに比べて、外観上は殆ど変わらないE250の出来の悪さには驚いてしまう。クルマというのはスペックだけでは判断できず、乗ってナンボということを改めて実感した次第だった。
 
    Mercedes Benz Mercedes Benz BMW Nissan
      E250
BlueEFFICIENTCY
E300 525i Fuga
 370VIP
 

車両型式

  212047 212054C NU25 KY51

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.870 4.855 4.945

全幅(m)

1,855 1,845 1,845

全高(m)

1,455 1,740 1,510

ホイールベース(m)

2.875 2.890 2.900

駆動方式

FR
 

最小回転半径(m)

  5.3 5.7 5.6

車両重量(kg)

  1,680 1,710 1,650 1,760

乗車定員(

  5

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  271 272M30 N52-B25A VQ37VHR

エンジン種類

  I4 DOHC Turbo V6 DOHC I6 DOHC V6 DOHC

総排気量(cm3)

1,795 2,996 2,496 3,669
 

最高出力(ps/rpm)

204/5,500 231/6,000 218/6,500 333/7,000

最大トルク(kg・m/rpm)

31.6/4,300 30.6/5,000 25.5/4,250 33.7./5,200

トランスミッション

  5AT 7AT 6AT 7AT
 

燃料消費率(km/L)
(10/15モード走行)

  11.4 9.6 8.8 10.0
 

パワーウェイトレシオ

(kg/ps)   8.2 7.4 7.6 5.3

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

3リンク ストラット ダブルウィシュボーン

マルチリンク インテグラル・アーム マルチリンク

タイヤ寸法

  225/55R16 225/50R17 245/50R18

ブレーキ方式

前/後

Vディスク/ディスク Vディスク/Vディスク

価格

車両価格

634.0万円 730.0万円 645.0万円 550.2万円

備考

    2010年にFMC予定  

今回のE250の最大の売りは日本のエコカー減税に適合していることで、成る程本来は欧州向けのモデルを日本の法令に適合するように無理にチューニングしたが、国産メーカーのような小細工というかテクニックが無いために、バカッ正直に絞り過ぎてしま い、こんな使えないクルマになってしまったのではないか。 ただし、メルセデスというメーカーは昔から新型車には手を出すなと言われていているように、1〜2年でドンドンと改良されるのが常で、初期型のユーザーが2年後に新車に試乗したら「自分の車はナンだったんだ!?」と怒ったり嘆いたりというのが常だった。だから、E250も2年もすれば劇的に改良されていたり、もしかするとエンジンの型式が変わるくらいの変更があったり、そこまで行かなくてもチューニングの違いでここまで変わる のかというくらいの改善はあると思う。要するに今は待 つべきで、今すぐEクラスが欲しいのならE300(若しくはE350などの上級モデル)を選ぶのが正解だ。 E250とE300の差は100万円弱しかない。しかし、E250は13年以上のクルマと代替すれば環境適合者普及促進対策補助金 (名前が長いっ!)が25万円、それにエコ減税で重量税と取得税が50%減だから、634万円の車両価格は60万円近くの減税により殆ど585万円程度と同等になる。これはフーガ370VIPの約563万円と20万円ほどしか違わない事になる。そう考えればマニアのパーソナルカーではなく単なる社有車として使うのならメリットもあるかもしれないが、少なくともこのサイトの読者のような個人オーナー が(もしくは企業の経費で落とすが実質個人のクルマとして)買うのには全く適さない。   

でも、だからといって改良されるまで2年間待つとしたらば、エコカー減税の制度自体が無くなっているかもしれないが・・・・・。 どうしても今欲しいなら、前述のように100万円と減税分を追加してもE300を買うべきだろう。聞くところによると最初はE250に興味を持ってディラーに訪れたお客さんに実際にE250とE300を比較試乗してもらえば、結局E300を選ぶというのが良くあるパターンのようだ。な〜んだ、E250って単なるE300の引き立て役と、ベンツにはエコカー減税対応車が有りまっせぇ、という客寄せなのか。まあ、トヨタだってマークXには装備をケチった 250G Fパッケージ(238万円)というグレードがあって、こんなにチャチならばあと30万円出して250Gを買うおうという筋書きになるかと思いきや、これで充分と いって Fパッケージを買っていくオッサンが結構いたりしてねぇ。そういう意味では、E250をトロイとは思わない個人ユーザーだってきっと居るに違いない し、ショーファードリブンの場合には全く問題はないのだが。

フーガ並みで買えるEクラス。しかもスペックではE300と殆ど同じ、どころか最大トルクでは上回ってさえいる。これで出来が良かったら言う事無しの二重丸だったのにねぇ。